Go to Market戦略 具体編
はじめに
① 前編の振り返り
1.価格戦略
① 提供価値の価格を検討する
起業家の皆さんには価格戦略から始めることをお勧めします。価格帯と価格モデルに対する感覚は、具体的な販売やマーケティングのアプローチの基礎となります。
価格戦略は、他社と差別化し、会社を成功に導くための重要な要素です。
以下の検討項目に沿って、価格を検討しましょう。
以上のように、価格戦略はの検討はビジネスにとって非常に重要な要素です。整理すると以下のような価格モデルが考えられます。
・バリュープライシング:顧客が得られる提供価値を基に価格を設定
・コストプライシング:製造や提供するためのコストを基に価格を設定
・コンテストプライシング:競合他社の価格帯を基に価格を設定
・ダイナミックプライシング:需要や供給に応じて価格を変更
これらのモデルは併用も可能ですが、あくまでモデルであり、最も重要なことは、顧客にとって自然でかつ自社にとって最も効率的に利益をもたらす価格戦略を見つけることです。
価格戦略の策定は難易度が高く、正解はありませんし、マーケットの状況やトレンドの変化によって、変更/改善し続ける必要があります。
顧客にとって価値のあるソリューションを提供することは非常に重要ですが、それを適切に価格設定することが、ビジネスの成長に繋がることを忘れないでください。
② 収益モデルを構築する
提供価格の検討と並行して、収益モデルを検討する必要があります。
ここでは具体的に検討すべきモデルの例をいくつか紹介しますが、あくまで一例でしかありませんし、モデルの組み合わせも可能です。
顧客に最も共感され、最も収益を高める、自社のプロダクトやサービスにとって最適な価格を模索し続けることが重要となります。市場のトレンドや価格破壊者の影響も考えられます。収益モデルの検討にあたり、少しでも、皆様のヒントになれば幸いです。
価格戦略は奥が深く、常に最適なモデルと価格を模索し続けることが重要です。スタートアップ企業の場合、特に創業初期やプロダクトリリース直後は自社のソリューションの価格を低く設定しがちです。PMFの達成と共に、正しい価格と収益モデルが出来上がれば、短期間で大きく売上を伸ばすことができます。
2.マーケティング戦略
① 理想的な顧客を見極める
スタートアップ企業の創業者や新規事業の担当者の多くがマーケティングアプローチを検討する際、あまりにも早く多くのことをやろうとし、まだ重要でない細部を心配する傾向があります。
第一の目標は、自社のソリューションを渇望している真の顧客が存在する事を証明(PMF)することです。
そのためには、まず初期顧客やPoC中の顧客群の中から、最もソリューションを渇望する顧客グループを見つけることに集中することが重要です。
マーケティング・アプローチには、3つの中核となる活動があります。
真の顧客は誰であるかを正確に把握する
その顧客を最も惹きつけるメッセージを作成する
その顧客にメッセージを伝える費用対効果の高いチャネルを選択
ますは徹底的に既存のアクティブユーザーへのヒアリングや実地探索を行い、真の顧客を特定します。
時には顧客自身が自らの問題を理解していない場合もありますし、予想外の機能や使い方を顧客がしているケースがあります。初期の理想的な顧客を特定する際には、極めて特定的なグループを選ぶべきであり、そのグループを深く理解することで徹底的で正確なマーケティングアプローチを開発することができます。
② BtoBモデルの顧客探索
BtoB向けソリューションを提供する場合の顧客特定は、2つの重要なステップで行われます。まず、組織(顧客)を特定すること。次に、その組織内の意思決定を行う人物の詳細なプロフィールを特定することです。
ソリューションに興味を持つ企業や組織の特徴と企業内で製品の購入に興味を持つ適切な人物を知ることが効果的な営業活動において非常に重要です。
ターゲットとなる人物には、応援者と意思決定者という2種類があります。
応援者:あなたが販売している製品を信じ、組織に推奨してくれる人です。彼らは、製品が解決しようとしている問題に最も痛みを感じている人たちで、複数の応援者を選ぶことが重要です。
意思決定者:購入のための予算を持ち、プロダクトやサービスの購入を最終決定する人たちです。彼らと応援者は異なる場合が多いため、意思決定者の購買動機を知り、それに合わせたマーケティングや営業活動を展開することが必要です。
さらに、隠れたキーパーソンにも注意を払うことが大切です。特にB2Bセールスでは、組織内に意思決定者に影響を与える人が存在することがありますが、その存在に気づいていなかったり、話をしたことがなかったりするとう最後導入されない場合があります。これは、政府機関への営業や大企業でよく見られる現象です。
ターゲット顧客の特定と理解は、スタートアップの起業家にとって重要なスキルです。市場調査や顧客とのコミュニケーションを通じて、ターゲット顧客に関する知識を継続的に更新し、ビジネス戦略に反映させることで、競争力を維持し成長を促進することができます。これらのプロセスを適切に実行することで、間違った顧客に売り込むリスクを減らし、より効果的な営業活動を展開することができます。
③ BtoCモデルの顧客探索
BtoCソリューションを提供する場合、BtoBよりもターゲットとなる顧客を正確に特定する難易度が高まります。
地球上の70億人を超える人々(日本国内でも1億人)の中から、あなたのソリューションを気に入ってくれるごく一部の顧客を見つけることが目標です。このような市場を絞り込むための方法として、地理的要素、人口統計学、サイコグラフィックが挙げられます。
いきなり最初から顧客を特定するのは難しいです。だからこそ、繰り返しにはなりますが、顧客の直接の声を聞き、既存顧客のデータ分析を行うことなどが重要となります。
導入前まで顧客の声を聞く意識はあっても、導入後は顧客意識が薄れてしまっては真のPMFは出来ません。導入後も顧客の声に耳を傾け続け、信の顧客像を特定することが重要です。
④ 顧客へのコアメッセージを決定する
ターゲットとなる顧客を特定することは重要ですが、その顧客に対してメッセージを効果的に伝えることにも同じく重要です。
視覚情報は言葉よりも効率的にメッセージを伝えることができるため、可能な限り絵や図を使用することを忘れないようにしましょう。単に機能や利点を伝えるだけでなく、あなたのソリューションが顧客のために何ができるかを示しましょう。
マーケティングメッセージには必ず3つの主要項目があります。
・キャッチフレーズ
・提供価値
・独自性と希少性
スタートアップはブランド認知がまだ確立していないため、潜在顧客に認知してもらうことが大事になります。顧客の課題の解決策として認識されるようなキャッチーなプロダクト名やサービス名を用いましょう。
キャッチーなだけでは当然不足しているので、顧客のビジネスや個人生活への影響に焦点を当て、そのソリューションで何ができるかを示す必要があります。たとえば、仕事のパフォーマンスの向上、時間の節約、顧客の増加、コスト削減、健康増進など、顧客の視点に立ったメリットを伝えましょう。
メッセージングでは、これらのメリットを明確に伝えることで、お客様にソリューションによって生活がどのように改善されるかを理解してもらいましょう。
最後に、なぜあなたの製品がユニークなのか、なぜ競合他社よりもその製品を選ぶべきなのかを伝えます。ライバルを貶めることなく、問題解決のアプローチを差別化し、データ、ユーザーの声、製品のデモンストレーションなどを通じて、製品の有効性を示す具体的な証拠を提供します。ターゲットとする顧客を説得するために、独自性をメッセージの中心に据えてください。
また、コアメッセージだけでは、顧客は購入しません。購入を希望する顧客が次に何をすればよいのか?行動喚起のメッセージが必要です。電話をかけるのか、無料サンプルを試すのか、店舗に足を運ぶのか、クレジットカードを入力するのか等、顧客に即座に反応してもらうためのメッセージです。
以下のような質問例の回答を考えることで導き出す事が出来ます。
これらの質問に答えることで、顧客への行動喚起メッセージを検討しやすくなります。
⑤ 顧客へメッセージを届ける
メッセージが決まったら、顧客へメッセージを届けるチャネルを検討する必要があります。チャネルは効果の大きいもの1つか2つに絞って集中することが望ましいです。チャネルは大きく3つに大別できます。
バイラル/口コミ:SNSやオンライン動画など
オーガニック(自然流入):SEOや展示会、メールマーケティングなど
ペイド(有料施策):アフィリエイトやインフルエンサー広告
チャネルを絞るには「ビジネスモデルに特に必要なもの」と「ユーザーの特徴と行動」に着目することが大事です。
BtoB企業であれば展示会など、BtoC企業ならバイラルなども有効です。以下に具体例を挙げます。
BtoBの例)Amazon Web Services(AWS)
AWSは、真の重要顧客をエンタープライズ企業(組織)の情報部門を統括する経営幹部(意思決定者)と定めて、カンファレンス、ウェビナー、ケーススタディ、経営陣訪問などを通じて、大口顧客の特にCIO(最高情報責任者)との信頼関係を築くことに注力しました。その効果もあり、AWSのサービスを採用した顧客は長期にわたってより多くのサービスを購入し続けており、信頼性構築のためにAWSが行った戦略は成功したと言えるでしょう。
BtoCの例)Newtoy
ネットワーク効果と口コミマーケティングを戦略の中心に据え、「Words with Friends」という一人ではプレイできない、必ず2人以上でプレイするiPhoneゲームアプリを公開し、1人のプレーヤーが何十人もの新たなプレーヤーを呼び込む形で瞬く間に急成長しました。
このゲームはシンプルなビジネスモデルで、ユーザーは広告付きで無料でプレイするか、2.99ドルを支払って広告なしのプレミアムバージョンを購入してプレイするかの二択で、収益化しています。
Zynga社がNewtoyを5300万ドルで買収し、ゲームをFacebookプラットフォームと連携させ、さらに有料で追加機能を提供することで更なる収益化を図りました。
マーケティングは非常に重要な部分ですが、一度決めたら確定ではなく、実験や微調整を繰り返し続ける必要があります。
マーケティングの3つの主要な要素は、何度か触れているように
・顧客が誰であるかを正確に知ること
・その顧客を惹きつける具体的なメッセージを開発すること
・そのメッセージをコスト効率よく提供する方法を見つけることです。
特に最初のうちは、特定の顧客向けのマーケティングにできるだけ集中し、こだわることがメッセージを届ける上での成功の礎になります。
多くのスタートアップ企業は、製品が良ければ勝手に売れると信じていますが、これは大きな間違いです。
特に起業したての頃は、創業チームの中で最も得意な創業者がリードし、製品開発と同様にマーケティングにも注力するべきです。
3.販売・流通戦略
① 販売戦略の考え方
創業初期のスタートアップや新規事業においては、創業チームが直販を行うことが非常に重要です。顧客の理解が深まるだけでなく、競合他社の営業戦略を最前線で経営陣が体感でき、導入までに顧客が困るポイントも理解する事が出来ます。
一方で、成長に伴い、直販だけではコストの観点で成長のボトルネックとなる場合もあります。人件費や出張費が多く発生してしまいます。
しっかりと売上が立ち、営業手法が確立されたのち、ビジネスモデルにより、以下のような販売チャネルなども検討すると良いです。
テレセールス(電話によるアポどり委託)
OEM(他社が自社製品を他社製品に組み込む)
間接販売(外部の販売部隊が当社製品を販売)
リファレンスセールス(潜在顧客を紹介した方へ手数料を支払う)
マーケティングチャネルと同様に、自社のビジネスモデルにとってどれが重要かつ最適で、最高効率なのかを検討し、1つか2つに絞って集中することが大事です。製品の差別化を図るように、販売方法の差別化に注力することは、速く成長するための鍵となり、成功と失敗の分かれ目となることもあるのです。
③ 直接販売 or 間接販売
販売手法をいくつか提示しましたが、大別すれば顧客への販売は、直接販売か間接販売の2つしかありません。
どちらかのモデルが優れているというわけではなく、単に異なるだけです。中には、両方のモデルを活用できる企業もありますし、実際に活用している企業もあります。
直接販売モデル
ウェブサイトや製品(通常はソフトウェア・アプリケーション)を通じたオンライン販売、インサイドセールス、個人間販売などがあります。間接販売モデル
小売販売、紹介販売、再販業者または代理店販売、アフィリエイト販売、組み込み販売(製品が他の製品の一部として販売される)などがあります。
間接販売を選択するメリットは他の製品やサービスと組み合わせ、より完全なソリューションとして提供されること、あるいは製品のインストールや実装に何らかの支援が必要な場合、それを実装する人がより大きなソリューションの一部として製品を再販し、それを稼働させるためのサービスが含まれることもあります。
顧客に直接販売するか、チャネルを経由して販売するかは、企業にとって基本的な決定事項です。この決定によって、どのような営業チームを雇い、どのように仕事をするかが決まります。この決断は、価格戦略やマーケティング戦略にも波及します。
両モデルに必要な組織設計やマーケティング戦略、価格戦略は異なります。スタートアップにとって、それらを乗り越えるのは難しく、時間がかかります。まずはどちらか一方の販売戦略に注力するべきですし、 さまざまな市場や業界固有の条件はありますが、私はほとんどのスタートアップは直販するべきだと考えています。
再販業者やパートナーは、あなたほど製品を売ることに関心がないでしょうし、市場開拓のために必要な学習量がとても多いため、その責任を第三者に委託することは賢明ではありません。
④ 創業者=営業責任者であれ
スタートアップの初期には、創業者チームの誰かが営業責任者として行動すべきです。もし、創業者チームにこの役割を担って活躍できる人がいない場合は、誰かを雇う必要があります。
創業者は、自分たちが提供する製品をどのように販売するかについて、天才的なセンスを持っていることがよくあります。(スティーブジョブス等)
通常、創業者がビジネスを始める理由は、市場に穴があると考えるからです。最も顧客の問題を理解し、それを解決するための新しいアプローチを磨くために創業者は顧客と深く関わるべきであり、その結果、顧客に販売する際に有利になることが多いです。
そのため、私は創業者のひとりに営業担当の責任者になることを勧めています。 また、私が創業者チームにセールスの経験者や専門家を加えることを推奨しているのも、そのためです。なぜなら、いずれは営業担当者を追加で雇用し、彼らを訓練する必要があるからです。
⑤ 最初に雇用する営業担当が鍵
設立当初は営業担当者を確保できたとしても、会社の成長・拡大に伴い、営業担当者を追加で採用する必要が出てきますが、創業者と同じクオリティで営業を行うことはまず不可能でしょう。
初期段階では、通常、再現性のある営業プロセスが確立されていません。
提案したことを実践し、製品の販売方法を学んだとしても、製品とビジネスを深く理解している創業者が行った販売を、新たに採用した営業担当者に完璧に反映させることは困難です。
その営業担当者は、技術的な適性、市場の理解、提供する製品やメッセージをどのように進化させるかについてその場で判断する能力などを持ち合わせていないかもしれません。それでも、会社の規模を拡大し、成長させたいのであれば、ある時点で、組織内の他の人に自社のソリューションを販売するやり方を教える方法を考えなければならないのです。
そのために誰を雇うにせよ、学習能力を備えている必要があります。スタートアップの性質上、市場、販売する製品の種類、価格帯など、さまざまな要因から新たな問題が発生します。
営業担当者(Biz Devに近い役割)は、どのような調整をすれば顧客を獲得できるかを迅速に判断しなければいけません。 堅苦しい営業に慣れている人、仕組みに慣れている人は、スタートアップの初期段階で苦戦するかもしれません。逆に、よく話を聞いて、そのフィードバックを処理し、今後のピッチを変更できる営業担当者は、初期の段階で非常に貴重な存在になるでしょう。 また、営業担当者がお客様と話して学んだことを社内にフィードバックし、何がお客様の心に響き、何が響かないかをグループとして把握することが必要です。
その現場での学びが、価格帯やマーケティングメッセージの変更にも活かされるのです。 目標は、確立された営業手法を構築することであり、最初の営業担当者はそれを実現するための重要な武器となることを忘れないでください。
最後に
創業初期の起業家にとって、考え抜かれたGTM戦略の策定に時間と労力を費やすことは、長期的な成功のために極めて重要です。上記のような要素を考慮し、ターゲットとなる顧客に効果的にアプローチし、提供する製品の価値を伝える計画を立てましょう。ビジネスの成長とともに、GTM戦略を適応させ、進化させることで、競争力を維持し、成長を促進し続けることができます。
このNoteが少しでも参考になれば大変幸いです。
いいねを押してやるよ、という優しい方は是非押していただけますと嬉しいです!!!
ご質問やご不明な点がございましたら、遠慮なくご連絡ください。全力でサポートさせていただきます。
インキュベイトファンドは創業前後のスタートアップにフォーカスしたベンチャーキャピタルとして、国内最大規模の実績(累計約850億円のファンドで600社以上 (関連ファンドも含む))を有しております。
新たな産業を生み出し、もっと素晴らしい未来や社会を実現するため、起業家にとって「最初かつ最大の応援団」として、積極的な経営参画と多面的な支援に努めています。
もし、
・現在起業して資金調達を検討している
・起業を検討中でアイデアを模索中
・起業アイデアの壁打ちをしたい
・スタートアップへの転職に興味がある
・スタートアップやVC全般の話をざっくり聞きたい
・とりあえず話してみたい
という方はいつでも田中までお気軽にご連絡ください!!URLから直接日程調整も可能です。
日程調整URL:https://meetings.hubspot.com/koki-tanaka
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?