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AIの描く世界は人間と同じものなのか?

我々が生まれた直後は何もかもが驚きの連続です。
顔を手で隠す「いないいないばぁ」は、赤ちゃんを喜ばせる、または不思議がらせる分かりやすい手法ですね。

人は2・3歳までに脳が急激に発達することが知られています。ただ、その過程でどのように世界を学んでいるのか、という神経科学としての方法論までは分かっていません。

そんな赤ちゃんの発達の研究について、AIが道を拓きました。

ようは、
DeepMindが開発したAIアルゴリズムが、映像だけで基本的な物理法則を学んだ、
という話です。

この学問領域は従来「発達心理学」と呼ばれ、1つの論点として、生まれたての赤ちゃんは世界を「先天的(遺伝)」か「後天的(環境)」に理解するのか?、というものがあります。
今回はその研究にも一石を投じる可能性もあります。

具体的には、PLATO(Physics Learning Through Auto-encoding and Tracking Objects、自動エンコーディングおよびオブジェクト追跡による物理学の学習)というアルゴリズムに、28時間ほど物体が動くアニメーションのパターンを見せて、その後に予測させてみる、というアプローチです。
その結果、例えば物体が壁をすり抜けるという基本法則を無視した動画を見せると驚きの反応を見せた、ということです。

PLATOという名前の由来は、古代ギリシアの哲学者プラトンからとっています。
プラトンは、
イデア」と呼ぶ完全な事柄を我々は無意識(先天的)に持っている、
という仮説を置き、我々はそれが二次的に投射されたものを見ているに過ぎない(よく使われる例えは洞窟に写った影)と論じています。(イデアの解釈は後世によるもので諸説あり)

皮肉にも、今回の実験結果は、逆に現実世界の動きからモデルを生成・修正して学習するイメージに近いことを示しています。

実は最近、ちょっと近いAI研究成果も出ています。

All physical laws are described as relationships between state variables that give a complete and non-redundant description of the relevant system dynamics. However, despite the prevalence of computing power and AI, the process of identifying the hidden state variables themselves has resisted automation. Most data-driven methods for modeling physical phenomena still assume that observed data streams already correspond to relevant state variables. A key challenge is to identify the possible sets of state variables from scratch, given only high-dimensional observational data. Here we propose a new principle for determining how many state variables an observed system is likely to have, and what these variables might be, directly from video streams. We demonstrate the effectiveness of this approach using video recordings of a variety of physical dynamical systems, ranging from elastic double pendulums to fire flames. Without any prior knowledge of the underlying physics, our algorithm discovers the intrinsic dimension of the observed dynamics and identifies candidate sets of state variables. We suggest that this approach could help catalyze the understanding, prediction and control of increasingly complex systems. www.cs.columbia.edu

ようは、
AIに物理法則を学習させたら、動きを正確に記述しているが我々とは異なるモデルを考案した、
というものです。

元論文を解説した動画での説明もあるので、こちらをみたほうが衝撃を受けるかもしれません。

上記サイトの例を使うと、例えば二重振り子では、2本の腕が連結され、上の腕と下の腕には連結部がもうけられます。
この場合、上腕と下腕の角度や角速度など4個の変数を元に方程式を記述します。これが我々が知る物理学のアプローチです。

ところが、動きをAIに見せたところ、この変数を4.7個としてモデルを記述しました。そして上記動画にもある通り、どちらのモデルも同じ動きを示しています。

これをどこまで解釈していいかわかりませんが、若干過激なことを言うと、我々が使っている物理法則以外にも、世の中を記述する式は存在することを指しています。

科学は厳密には仮説に基づくものですが、それでも我々は日常の物体が動く法則はニュートンに頼ってきました。宇宙のようなスケールが大きい(早くて重い)世界では、それが近似式でアインシュタインがその実像を数百年後に暴きました。

ただ、それでも時空・質量・エネルギーという従来の変数の式を変えたにすぎず、未知の変数を設けたわけではありませんでした。

今回のAIアルゴリズムの中身が発表内容だけではよくわかってないので早計かもしれませんが、AIによる世界の描き方は人間と根本的に異なるといえそうです。

いずれにしても、もしこのアルゴリズムを横展開すると、もしかしたらAIが新しい物理法則を発見する可能性も大いにありそうです。

暫くこの衝撃的な実験結果は追いかけていきたいと思います。

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