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チューリングの生物学としての偉業

アラン・チューリングという方をご存じでしょうか?
過去に映画にもなりましたが、コンピュータの父ともいえる数学者です。

おそらくチューリングで有名な業績は、コンピュータの理論的基礎を築いたことで、その素養を活かしてドイツの暗号を解読したことだと覆います。

そんなチューリングが最後に行った研究について記事が載ってましたので紹介したいと思います。

ようは、
生物の色模様など自然のパターン導出をチューリングが数式化した、
という話です。「チューリング方程式」と呼ばれます。

例えば、シマウマは下図のようにある程度パターン化された模様が皆ついています。

出所:上記記事内の図

ではどのようにこのパターンが決められているのか? 生命の神秘といってしまうと思考停止になります。
チューリングは、この生物が持つ模様の形成メカニズムに関心を持ち、それを複数の化学物質が拡散する方程式で表現できる、という仮説を提示しました。
式の意味合いを説明すると、複数の混ざり合った化学物質は、濃いところから薄いところへ拡散し、また化学反応により増減する様子を微分方程式で表現しました。
1952年と言えば、当時まだDNA二重らせんの論文(1954)が世に出ていません。つまり、この理論のすごいところは、そんな時代背景で、生物を分子レベルで物理的にとらえようとしている点です。

シマウマ以外の模様パターン例も合わせて引用しておきます。

出所:上記記事内の図

ただし、論文を発表してわずか2年後にチューリングは非業の死を遂げてしまいます。

死因は毒入りリングを食べたからで、これは今でも自殺か他殺か白黒はっきりついていません。
Wiki含めて自殺や事故死とされますが、個人的には、こういった野心的な論文の発表後なのが何となく腑に落ちません。
陰謀論は好きではないですが、実際チューリングは暗号解読という国家の最高機密に接していました。
もう1つ、実は同性愛の行為を行ったとして罪に問われてホルモン剤を投与させられ不安定な状態でした。(信じられないかもしれませんが当時は犯罪扱い)
少なくとも、国家から見て機密漏洩リスクを感じたとしてもおかしくありません。

真相は闇の中ですが、チューリング最後の生物学に関する研究も生前どころか、死後も長い間陽の目を見る事はありませんでした。

時代は40年たち、1995年に日本の生物学者近藤滋が、熱帯魚の模様がチューリング方程式の結果と一致していることに気づきます。

そして他にも、チューリング方程式が自然が作るデザインに似ているものを見つけることが出来、なかには我々ヒトにもつながります。

以前に、こんな投稿をしました。

この時には「結果論」とあえて乱暴に片づけましたが、実は(上記記事で示した)たんぱく質の濃度分布がチューリングの方程式(絵で描くと波の相互作用のイメージ)に従うと5本指になるという仮説も提示されています。

1つだけやや細かいですが記事を紹介しておきます。

他にも、指紋など他の人体デザインにも、チューリング方程式(がもたらすパターン)に従うのではないか?というものがいくつか見つかっています。

実は、英国(正確にはエリザベス女王が代表して)はチューリングへの過去の仕打ち(ゲイ裁判のこと)に対して正式に謝罪し、2021年から国の貨幣としても採用しています。

死後半世紀以上が経ちましたが、この時代に翻弄された不運の天才チューリングの偉業は今でも色あせていません。

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