【書評】小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』--思考の型とは
とにかく知識の量がすごい。ソビエト連邦崩壊後のロシアが軍事的な劣勢を逆手にとって、どんな風な戦略を立てているかが事細かに書いてある。
たとえばハイブリッド戦争はどうだろう。戦争は古典的な、大きな軍隊と軍隊が正面からぶつかり合うものだけではない。ゲリラ戦しかり、サイバー攻撃しかりで、現代の戦争は様々な空間に拡大しながら常に戦線が移動していく。まるで毛沢東の遊撃戦論のように。
あるいは、限定核攻撃の理論もそうだ。全面的な核戦争では、自国や敵国だけでなく、まさに人類全体が消滅してしまう。だが、極端に限定された破壊力の核爆弾を人里離れたところに落とすのはどうだろう。これはこれで通常戦力を補うものになるのではないか。
今まであまり考えたこともなかったような戦争の多様な形態をロシアが常に生み出し続けているという話は新鮮だった。と同時に、そこにはマルクス主義の影響が続いてるということもあるのではないかと思った。
マルクス主義では何より、イデオロギーの戦いを重要視する。要するに、人の感覚や思想を誰が支配するか、ということで、言葉や価値観を自分たちに都合よく持って行けたほうが勝つことができる。
つまり現代のロシアはマルクス主義無きマルクス主義的闘争をやっているのではないか。そう考えれば、ひとつの思想が終わったところで、その思想の型ははるか後まで残る、ということがよくわかる。
この本で何より面白いのはあとがきだ。軍事オタクがエキゾチックな東側世界の兵器に目覚め、そこから研究者として成長していく、という、すごくいい話である。
しかもこの本を担当してくれた編集者の山本拓さんに感謝、というところで驚いた。山本さんは僕が卒業論文と修士論文を指導した元学生である。
かつて自分が教えた人たちがいろんな場所でこうやって活躍しているのだなあ、と思うと感慨深い。小泉さん、山本さん、なんだか本当にありがとう。
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