見出し画像

鏡の中のワタシの友達 2

前回の話

鏡の中のワタシの友達


鏡の世界

ワタシはかれんの手を引いてこっちの世界に連れてきた。

かれんはすごく不思議そうに、そして、これまで見てきた星々よりもキラキラした目でワタシの部屋見ていた。

「カレン、この世界って鏡の中なのに、なんで全部あべこべじゃないの?中に入ったらそのままあべこべになるんじゃないの?」

『逆だったらあなた達、文字も読みにくいし大変だからじゃない?』

かれんが何を聞いているのかわかる。

大体の鏡の中に入る物語は主人公達とは逆の見え方がする。

しかしこの世界はそうじゃない、らしい。
ワタシは向こうには行ったことないからわからないけど、かれんはそれを認識している。

「あっこの絵本!これ小さい時に無くしちゃったのに、カレンは持っていたのね!」

それはワタシのおばあちゃんが買ってくれた絵本。

タイトルは、かがみのせかい

1人の男の子が鏡の世界に迷い込んでそこで出会うもう1人の自分と、どこか違う身近な人たちに助けてもらうお話。

『その絵本、よくおばあちゃんが読んでくれたわ。読み終わるといつもおばあちゃん言ってた。』


「何をお話ししてくれたの?」

『カレン、鏡はね、自分の逆の向きを写すとみんな思ってるけど違うのよ。鏡はね、今のあなた、真実のあなたを映してくれるのよ。』

『どれだけ化粧で誤魔化しても、疲れている顔は隠せない。どれだけみんなにいい顔しても、鏡の前の自分はありのままなの。』

「てことは、カレンは私のありのままなの?」


『その話の通りだと確かにそうなるかもしれないわ。ワタシはでもあなたをずっと見ていたしあなたもそうだったでしょ?』


「うん。見てたけど答えてくれなかった。」

『今日話せたし良いじゃない。その絵本面白い?』

ワタシは何度も読んだのに、きらきら光るその目で見ている絵本に興味津々だった。

「好きだけど、悲しいお話。だって鏡の中の男の子、最後は病気で死んじゃうのね。でも男の子は死なずに元の世界に帰る。あれ?私今、悲しいって言った。」


かれんは自分がもう変化の途上にいることにやっと気づいた。新しい体験が彼女が置いてきたものを必死に取り戻そうとしている。

彼女が二年前、お父さんのお墓の前に置いてきたあるもの。


「ねえかれん。お母さんは?あと、お父さんは?」

ワタシは、少しためらったが、正直に答えた。

『お母さんは昼間は仕事、お父さんは単身赴任で別の場所で働いているわ。あなたのお父さんが死んだことは私はお父さんから聞いたの。』

「え?お父さんのことを、お父さんから聞いたの?」

目を真ん丸にしてワタシに聞いてきた

『そう。ワタシは鏡の中の世界の話をお父さんから聞いたの。ワタシのお父さんと、あなたのお父さんは昔出会ってて、その時に何かが繋がったらしいの。それで2年前、あなたのお父さんが死んだ日に、ワタシのお父さんが突然泣き崩れたの。』

繋がりを持つ。つまりワタシも今日でかれんと繋がりを持った。ただ、それを話さなくてもこの子がワタシなら察するだろう。それが嬉しいのか、悲しいのか、むずかしいなぁってワタシは思った。

ワタシは思い出す。

『お父さん!どうしたの!?何か嫌なことあったの?会社の人たちにいじめられてるの?』

「違うんだカレン。お父さんの、前話していた、もう1人のお父さんが死んだんだよ。」

お父さんはとうとうと語った。
突然目の前から車が来て自分にぶつかる映像が見えたと。そして気づいたら部屋に戻って涙を流していたと。

「そうなんだぁ。でもうん。良かった。カレンのお父さんはちゃんと生きてるんだね。」

その言葉はワタシに刺さった。
かれんは手を強く握ってどこか我慢をしていた。

『本当のことを言いなさいかれん。』

「えぇっ?」

『ここに来たのはそれを取り戻すためよ。』

少し意地悪をした。そう。ワタシは取り戻して欲しいの。あの日、あなたのお父さんが亡くなった日から、あなたがたまに、少し見えるようになった。ずっと届いて欲しい、こちらに気づいて欲しいと思ってたのに、

今日やっと話せた。

触れられた。

連れてこられた。

だから、ワタシは助けたい。

「、、、、わかんない。わかんないよ。だって私が本当のこと言ったら、悲しむ人がいる。私が耐えたら、誰かが助かるもん。なら私の言いたいことは、うん。」

『かれん、人は勝手に助かるわ。あなたが助けようとしなくても、他の誰かでも誰かが救ってくれる可能性がある。でも、自分が苦しいを自分が知ってるなら、あなたが手を差し伸べないと。最初に自分で自分に手を差し伸べないと。壊れちゃうわ。』

『だから、あなたがどう思ってるのか聞きたいわ。』

かれんは震えながら黙ったまま。

『かれん、お菓子、食べましょう。美味しいお茶もあるの、下におりましょ。』

願っていたティータイム

そして2人のかレんは階段を降りた。そこにはかれんの家とは違う景色が広がっていた。

卒業式を父と母の3人で撮った写真。父の趣味のものが置いていたり、ここは、似てる部分があってもかれんにとっては違う家なんだと確信をしていた。

ワタシは母に教わった通り紅茶を入れる。

お菓子も用意してかれんの元へ。

かれんは周りを見渡して、写真や家具を見ていた。

「どうしてなの。」

かれんが震えた声で言った。

『えっ?』

「どうして私のパパは天国に行ったのにあなたのお父さんこんなに嬉しそうに、楽しそうに、笑って、私の家族と同じ顔の人たちといるの。」

ワタシは答えられない。

「ずるいよこんなの!お父さんは生きたかったはず!なんで私のお父さんなの?」

かれんの言葉は重く重く、そして、ずっと耐えてきたものなのだとワタシは思った。


その時だった。


彼女の溜めていた怒りが炎となり、かれんの周りを燃やした。

「なにこれ!私がやったの?なんで、なんにもないところに火が」

『ワタシにも分からない!とりあえずこっちに!かれん!』

ワタシは手を伸ばす、でもかれんは震えてる。

助けなきゃ。あの子はワタシの、


『かれんはなんで話しかけてくれないの?お母さん。』

『そうね。恥ずかしいのかな。でももしかしたら、いつか話せる日が来るかもしれないわね。その時はねカレン、しっかり挨拶して、お友達になりましょうって、挨拶をするのよ。』


『織部かれん!』

かれんがワタシを見た。

『ワタシはオリベカレン!あなたとずっとずっと友達になりたかった!あなたが泣いている時にはワタシもすごく悲しかった!だから!ワタシは今度こそあなたに手を差し伸べたい!掴んで!かれん!』

かれんは涙を沢山流していた。ワタシも流していたと思う。そして、かれんが手を掴んだ。

私が思い出した絵本の話だった。

絵本の中に入った主人公は、少しづつ消えていく運命だった。
その世界の人じゃないから。同じ人が二人いてはいけないっていうルールがあった。

それが多分かれんの周りにも炎となってでたんだと思った。

あの絵本だったら、どうしてた。

『かれん!2階!』

火事で2階には煙が凄かった。

でもかれんを帰すにはあの場所しかない。

ワタシは熱くて苦しいけど走った。かれんも何かを決心してくれたのか、真っ直ぐな目でワタシについてきた。

鏡の前に立つ。

もう後ろは炎でもう戻れない。

「カレン、一緒に行こう!このままだとカレンがゴホッゴホッ。」

ワタシはポケットからあるものを渡す。

手紙。

『これとその絵本あげるわ。お友達の証よ。ワタシ口下手だから、書いてみたの、人生で初めての友達への手紙。帰ったら読んで。』

ワタシはかれんに手紙を渡すと同時に、かれんを鏡に突き飛ばした。

そしてかれんは鏡に入っていく。

ワタシも寂しかった。前から、そして今も。

死んじゃうのかな、せっかく会えたのに悲しいな、

お空に行ったら天国はあるのかな、かれんのお父さんに会えるかな。

いい所だと、いいな。

かれん、会えてよかった。


手紙

『難しい。』

ワタシは人生で初めて、手紙を書く。

鏡の中のあなたに、上手く話せるかわからなかったから、この気持ちを文字にする。

『あらカレン。まさか手紙??誰誰!?三組の鈴木君?まだ好きなの?』

『ち!が!う!お母さんの知らない人!お友達に書くの!茶化すならあっち行って!』

『ごめんごめん冗談よ。悩んでるのね、手紙は難しいもの。』

『どうやって、書けばいいのよ。』

『手紙は、読んでくれた人とどうありたいとかこれをわかって欲しいってことを書くのよ。』

『私は昔、お父さんに手紙を書いたわ。すごく喧嘩してもう別れるって言っちゃって、でも、お父さんが好きだったの。でも私の気持ちもわかって欲しい。だから書いたの。』

『お父さんは読んだの?』

『読んだと思うわよ?夜にお父さんに聞いてみたら?でもその手紙があったから、私達は今も一緒にいて、カレンが生まれたのかもしれないね。』

その言葉にお腹が暖かくなった。

あっ書けそう。

『紅茶入れるけど、カレンも一緒にやる?』

『うん!でも少し待って。ワタシ書けそうな気がするの。』

『その間お母さん、郵便物出してくるのと、回覧板出してくるね。今日は苦いお茶にならないといいわね。』

『あれはお母さんが!』

やっと会えた友達へ

【初めまして。ワタシの名前はオリベカレンです。あなたの名前はかれんでいいのかしら。

ワタシはもう1人のあなたよ。やっと会えたわね。

ワタシはあなたの事をこれまでずっと、そしてあなたのお父さんが亡くなってからはこれまでよりも、あなたに会いたかった。

あなたが見えるようになるまでは完全な私の空想のかれんを作っていたわ。

でもあなたが見えてから、あなたとワタシは、見た目は同じでも別なんだ、って実感したわ。

あなたは言っていたわね。私が我慢して、お母さんに寄り添わないとって。きっとワタシだったらそんな事考えもしないわ。

だって悲しいものは悲しいし寂しいものは寂しい。

それを押し殺して生きることは周りが楽になってもワタシは楽じゃなく、辛いのよ。

ワタシはあなたにもっと自分の気持ちを周りに伝えて欲しい。

人のことを考えられるのは素晴らしいと思うけど、ワタシはあなたに助かって欲しい。

お父さんが亡くなった辛さワタシが思っている以上の事だと思うわ。

分かってあげられなくてごめんなさい。

これからあなたのこともっと知りたいわ。

だから、友達になってください。

お友達になった時ワタシはあなたに紅茶を入れたいわ。

今お母さんに教えて貰っているの。

上手に入れてみせるから楽しみにしててね。

ここまで読んでくれてありがとう。

鏡の友達、カレンより。』

私は階段を降りた。

書きたかったものは書けた。

そしてあとは渡すのみ。

あなたに会えるのが楽しみ。

その時はどんな話ができるのかしら。

それより、

ワタシのいれた紅茶を、美味しいって言ってくれると嬉しい。

第3話に続く。。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?