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『詩』世界は何人、神を抱えているのだろう?

一週間分の
悲しみや怒りや嘆き、
嘲笑い、叫び、涙、ため息そして
あなたが送って寄越した絶望などをゴミ袋にぎっしり詰め込んで
指定の場所に出して戻ってくると
頭上の五線紙の上でひよどり
逆さ四分音符の形で啼いている


スマホには
大統領のすりおろしりんごや
独裁者の赤いボルシチや
もっと赤い国のフカヒレスープや
総理大臣の岩牡蠣などが
消し忘れた煙草の臭いや
捨て置かれたビールの空き缶などと一緒に
たくさんの<言葉>に包まれて残っているので
カメラを向けると 嫌うように
音符は飛び立っていってしまう


僕らはたくさんの遠めがねを
どこへゆくにも抱えているので
マリー・アントワネットの断頭台で
右手が挙がるのも知っているし
マハトマ・ガンジーの足元の 最新式の
スパコンの威力も知っている けれど
どんな立派な遠めがねも
すぐそこにあるものさえ見ることができない!


(例えば
 失望は 誰も降りない終着駅の
 待合室に残された
 小さな茜色の札入れのかたち
 幸せは 昨日取り込み忘れた ベランダの
 子どもサイズのソックスのかたわれ)


世界はいったい何人の
神を抱えているのだろう?
そして彼らはどこにいて
今何をやっているのだろう?
(駅に近い大通りの
 バス停の前のラーメン屋で うまそうに
 餃子を口にする彼を
 たぶん僕は見たことがある)


世界には神⎯⎯


五線紙よりもずっと高く
カメラを向けると 青空の奥で
入道雲が 白く雄大に輝いている
夏の始まり!



忘れていた遠くの街から
ふたりめの子どもが生まれた、と
嬉しそうにメールが届く
古い 総理大臣の岩牡蠣の後に




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