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『詩』潮騒がこだまする神社の境内で

潮騒がこだまする神社の境内で
みなでめんこをやっていると 波音が
ムクドリのような小鳥になって
一斉に空へと飛び立ってゆく
誰かが丸いめんこを打ち付けると その拍子に
世界がくるりと反転をする


「火の用心 火の用心」
マフラーに手袋 白い息を吐いて
拍子木を打ちながら
並んで林の中を進んでゆくと
懐中電灯に照らされて 絵日記の
空白のページがひるがえる


その先は墓地
恐る恐る
ふざけて入ってゆこうとすると 入り口で
音をたてて塔婆が傾き
苔むした 古い地蔵さまが
錫杖を揺らして舌を出す


  拍子木を打ってはいけない!


林の奥まで 冷たく乾いた音が響き
僕らは鳥の眼となって
小さな港の町を見下ろしている
突き出した埠頭の向こうから 烏賊いか釣り船が
今しも戻ってくるところ
ひとしきり 夜中の漁を終え
白い水脈みおを引きながら



遠洋にはもう行かないんだよ
大人びた口調で
誰かがそんなことを言うので
不意にうなじのあたりが熱くなって
めんこを握りしめたまま
僕らは急いで木陰に入る


四方八方から
油蝉の声が降ってくる


僕らが木陰で休んでいると
(めんこは汗で湿ってしまう!)
黒々と雑木の影に縁取られ
ぽっかりと空いた境内に
女の子たちがやってきて
ゴム跳びのゴムを腰にかける
(それは時代の結界だ!)
円を描くように ゴムに向かって後ろ向きに
ひとりが足を跳ね上げると⎯⎯


音もなく
世界がシャットダウンする




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