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#9 【マレーシア留学】「そうだ、Ipoh行こう」短編エッセイ前編

「Ipoh(イポー)行かねえか?」

こっちに来てもう二か月。いろいろあって思ったより旅行してないなと思い、私のタイの友人から声をかけられた時、二つ返事で「Sure sure!(もちろん!)」とメッセージを送った。

その後なんだかんだで日本人二人、韓国人二人、インドネシア人一人、タイ人一人、私の計七人で、一泊二日のイポードライブ旅をすることになった。


Ipoh(イポー)

そこそこマレーシアに精通していないと、聞いたことない都市かもしれない。私自信もマレーシアに来てからこの町の名前を知った。

Ipohは錫(スズ)の鉱山業で19世紀に栄えたマレーシア第三の都市で、日本で例えると名古屋が該当する。首都のクアラルンプールからは車で二時間半ほどに位置しており、高速鉄道でも二時間ほどで行くことができる。周辺を山で囲まれた「Old Town (古風な街)」として知られており、その名の通り、モダンな高層ビルはほとんどなく、代わりにイギリス統治時代の面影を少し残す単調な低層建築が並ぶノスタルジックな街並みであった。


Ipohが観光地として優れているかといったらそういうわけでもない。現に、イポー中心地に「ザ・観光地」みたいな建物はほとんどなく、少し外れた山の方に洞窟、鍾乳洞、滝、山地リゾートなどの自然系の観光地が点在している。国際免許を持っているのであれば、車をレンタルすることをおすすめする。そうでなければ移動の度にいちいちタクシーを呼ばなければならず、時間もかかれば金もかかる。

民族構成で見ると中華系の人が七割を占めており、マレーシアでは珍しくヒジャブ*¹をかぶっている人をあまり見かけなかった。街中の看板も中国語が多くを占めている。中華系の人々はイスラム教を信仰している人が少ないため、食に関してもハラル*²のものが比較的少ない。


Ipoh旅行最初の目的地は「Kellie's Castle(ケリーズキャッスル)」という場所だ。私が旅程表作成担当だったわけで、観光誌および観光サイトにも高確率でここが載っており、Ipoh出身の友人が送ってくれたおすすめ観光地リストにも入っていたため、とりあえず目的地のひとつとしてねじこんだわけだが、写真で見る感じ「ただの洋風建築じゃねえか」と思いつつ、みんなが楽しんでくれるかたいそう不安であった。
しかし、その不安をあざやかに裏切る素敵な観光地で、結局一番私がはしゃいで旅程で定められた出発時間を大幅にオーバーしてしまった。

キャッスルという名を冠しているものの城っぽさはなく、むしろ昔の貴族が住んでそうなお屋敷という感じなのだが、なんといっても建築そのものがとても美しく、内部の構造も迷路のように入り組んでおり、私の冒険心をくすぐった。アーチ状・鍵穴状の窓やドア、ディテール*³の処理は純粋に特定の時代の建築様式の影響を受けたものではなく、あらゆる国の文化・様式を掛け合わせたエギゾチックな雰囲気を醸し出しているが、間取りや個室の多さ、階段の狭さと勾配は日本の城を連想させ、非常に興味深かった。とりわけこの建築をユニークたらしめている点は、建築に使われている材料で、赤茶色のレンガをベースとしているのだが、それらをつなぎあわせるために使われている材料がセメントではなく、卵の殻やはちみつなど自然由来のものにより構成されているというところである。1910年と比較的近代に竣工されているのだが、あらゆる時代と文化の融合と建築家の独自性が凝縮した世界にここだけの建築という感じがして、観光サイトだけでは伝えられない魅力を五感で浴びることができ心地よかった。

Ipoh自体が観光地観光地してないので、ここ「Kellie’s Catsle」もお客さんの数も土曜日にしては少なく、ごちゃごちゃしてない写真もたくさんとれた。また、建物自体、周囲が自然に囲まれており、建物屋上から眺めるどこまでも続く熱帯特有の木々が生い茂った景色も息をのむものであり、古風な建築も相まって、時の流れがゆったりと流れていく感覚が、いいようもなく心地よかった。

Kellie’s Castleの写真

「また来ます」惜しみつつも別れを告げ、次の目的地へ向かう。
続いて私たちが向かったのは、Ipoh中心地に位置する旧市街地。Ipoh中心地はざっくり旧市街地とナイトマーケットが有名な新市街地の二つで構成されている。

もう13:00を回っていたので、昼食を旧市街地にある「Kedai Makanan Nam Heong」というレストランで取ることに。こちらのお店は「ホワイトコーヒー」で名をはせており、多くの地元民で賑わっていた。

そもそもホワイトコーヒーというものはマレーシア発祥のコーヒーであり、焙煎する際に少量のマーガリンを加え、浅煎りに仕上げ軽めの色合いのコーヒー豆を使用し、コンデンスミルクをたっぷり入れて提供されるコーヒーのことであり、「OldTown White Coffee」というマレーシアのコーヒーチェーンがマレーシア全土に展開されたことで広く国民に受け入れられている。

早速注文して、クンクン。
「においは、、、まあ普通にコーヒーだな。」
「見た目は、、、ほぼカフェラテか。クリーミーに泡立てられた状態で提供されているのが特徴的なぐらいだな」
いただきますして、一口。
「んんっ。思ったより苦い!!」
「マレーシア人コーヒー甘々にしがち」という固定観念があり、とんでもなく甘いものを覚悟していたため、不意を突かれた。
「カフェラテ。砂糖なし。クリーミー度合二倍で。」と注文したらこれが出てきそうな味わいだった。

喉がカラカラだったこともあって、2分かそこらで空になった。甘いものを好んで摂取しないので、基本的にブラックコーヒーしか飲まない私にしたら、もういっかなと思う味ではあったが、ミルク好きな人からしたら癖になりそうだなとも思う。

ホワイトコーヒーの写真

昼食も済ませて、旧市街をうろうろすることに。旧市街の街並みは以前短編エッセイを書いたマラッカに少々似ている。カラフルな傘や布、中国風の赤いランタンで彩られた路地や、いたるところに描かれた人々の日常的な生活をモチーフとしたウォールアート、一様なファサード*⁴、塗装がはがれかけた壁。統一されているようで、雑然としている。そんな矛盾とノスタルジーあふれる街が広がる。途中雑貨屋さんに寄ったり、本屋さんに寄ったりで時間があっという間に過ぎていく。

言語化能力が稚拙で申し訳ないが、「なんか好き。」
この町のデザインに人の温もりや本性を感じるからかもしれない。手書きの看板、手書きのアート、ハンドクラフトの雑貨屋さん、中古品店、個人でやってる屋台の羅列。古くて、タイパもコスパも悪く思えるようなものが多い。でもそれがいい。理性ではなく感情。計算ではなく感性で設計された部分が多く残された「Old Town」はこのまま現代に浸食されずにいてほしいなと思った。

旧市街の路地のひとつ
旧市街のアーチが続く歩道。
かわいいから好き

旧市街の居心地が良すぎたこともあり、時間は旅程で定められていたものより大幅に押していた。当初の予定でいたお目当ての「Kek Look Tong 極楽洞」はもう閉園時間が近づいていたため今日は断念し、その近くの「Qing Xin Ling Leisure & Cultural Village」に向かった。

そこは別におすすめの場所として観光サイトで取り上げられているわけではなかったが、グーグルマップの写真だけみて独断で「いいかも」って思ったため、行きたいとこリストに追加していた場所である。

率直な感想を述べると、そこにある自然を頑張って無理やり観光地化した感満載の場所で、開発の仕方はひどかったが逆にそれが面白かった。別に批評家になりたいわけではないし、これは個人の意見であるので、ぜひみなさんの目で確かめて自分のフィルターで眺めて欲しいと思う。

もともとIpohは鍾乳洞が多い地域であり、石灰岩の岩肌が露出した雄大な絶壁を有する自然を楽しむことができ、ここ「Cultural Village」でも石灰岩とあざやかな緑がベースとはなっているのだが、恐竜を模した銅像や昔風に仕立てた内観の建造物、フォトブース、吊るされているカラフルな傘、ペイントされたタイヤなどありとあらゆるものが規則性なしに置かれている。さすがに足しすぎだ。日本でもなんとか観光地として盛り上げたい地方が迷走してよくわからなくなってしまった文化村がちょこちょこ出てきているように思うが、それと同じもの感じさせる。「この辺もいろいろ大変なんだろうなあ」思いつつ、リソースを引き立てるために観光地のデザインは足し算ではなく引き算中心で出来るだけ洗練されたシンプルなものがいいだろうという教訓をむしろ得られたので大きな収穫ではあった。

Qing Xin Ling Leisure & Cultural Village
自然は美しい。

日が落ちてきたため、とりあえずホテルにチェックインし、荷物を置いて今度は新市街に位置するナイトマーケットへ。

イポーのナイトマーケットはマーケットにしては珍しく、毎日開催している。テントに電球を吊るし、棚の上に所せましと商品を並べる典型的なアジアのマーケットの形式であり、服を扱うところでは、ルイヴィトンなどの名だたるハイブランドがとんでもなく安い価格で売られている。もちろんパチモンだが。

そのマーケットの中心地の大きな十字路を斜めに向かい合わせる形でイポー名物「もやし」&「チキン」が堪能できる二大名屋台「Ong Kee」と「Lou Wong」が並ぶ。

今回は「Lou Wong」に行くことに。

「おいおいもやしなんてどこも変わんねえだろ」と思う人もいるかもしれない。しかし、イポーのもやしは他のもやしから一線を画す。イポーは周囲を石灰岩の山々に囲まれており、アルカリ質の澄んだ上質な天然水で育てられたもやしは通常よりも太く、ジューシーでシャキシャキ食感になり、現地人が「世界で一番おいしいもやしと言っても過言ではない」と断言するほどである。

「チキン」もまた名物で、とりわけここの屋台のチキンは柔らかくジューシーなため人気を博しているそう。

少々期待度高めの状態で早速もやしとチキン七人前と各々ご飯や麺を注文した。
もやしは軽く醤油と油で炒めらており、ネギとコショウが盛り付けられていた。チキンも同様の味付けでおそらくネギではなくアサツキが乗せられていた。ご飯は普通のご飯ではなさそうで、チキンのだしで炊いたご飯といったところだろう。

ご飯の上に、チキン&もやし、お好みでニンニクベースのピリ辛ソースをかけてすべてバランスよくスプーンに乗せて一口。

「、、、うますぎる!!!」
まず何といってももやし。シャキシャキで食べ応えが抜群なのはもちろんのこと、おどろくべきはそのジューシーさ。かむたびにあふれる水分がそれぞれの料理のあぶらっこさを中和し、全体をさっぱりとまとめあげる。チキンもチキンで、やわらかくジューシーで、もやしとの食感のメリハリも楽しい。食欲を刺激するにんにくの風味も鼻から抜け、二郎系ラーメンを食べたときのような満足感・充実感で満たされる。
チキン・もやし・ネギなどそこまでヘビーな材料を使ってないため、非常に食べやすくご飯がどんどん減っていく。
食べるのに集中していたため、友人の会話も対して入ってこず、自分の世界にひたって「五葷*⁵パラダイス。それでも大乗仏教*⁶!!」などと縁起も悪いしおそらく誰も拾ってくれないニッチすぎるボケを一人でかみしめていたが、気づけばご飯もからになり、大皿に残っていたわずかなもやしを「少しも残すまい」と、特に遠慮せず卑しいながらもかき集めては、頬張るほどおいしいもやしであった。

Lou Wong チキンともやし

その後はナイトマーケットを散策し、Ipoh名産品の「ポメロ」という果物を買うことに。Ipohを歩いていると屋台でしょっちゅう赤い紐で吊るされたポメロを見かける。全体的に緑がかった柑橘類で大きさは人の顔ぐらいの大きさである。ホテルに戻った後に解体すると、グレープフルーツとほぼ同じ色合いの果肉が顔をだし、酸味も味の薄さも二分の一グレープフルーツといった具合で、食べやすくはあるが、もうちょっとなんかほしいなと思う惜しい味わいだった。

ポメロの写真

今夜はそいつをつまみに運転手以外は酒を豪快に吞んでいたため、話が盛り上がり、結局寝るのは午前三時になってしまった。明日は洞窟を探検する旅程を組んでいることを伝えるのをすっかり忘れてしまっており、二日酔いの大冒険が幕を開ける予感が的中しないことを祈るまま床についた。


*¹:イスラム教を信仰している女性が頭を覆うために被る布
*²:イスラム教の教えにおいて許されているもの・こと・食べ物
*³:主に建築用語で「細部(のデザイン)」を指す。
*⁴:建築物正面部のデザインを指す。
*⁵:「五葷(ごくん)」辛くて臭気のある五種の野菜。仏教では、忍辱(にんにく)、野蒜(のびる)、韮(にら)、葱(ねぎ)、辣韮(らっきょう)などの五つをいう。欲情や怒りの心をおこすとしてこれを禁じた。(コトバンクより)
*⁶:「大乗仏教(だいじょうぶっきょう)」仏教の宗派のひとつ


読んでくれてありがとうございます!!!後編も近々出します。
以下に参考資料と今回訪れた場所の情報を乗せておきます!!

後編はこちら↓

参考資料

今回行った場所の情報まとめ

1.Kellie's Catsle

営業時間:毎日 9:30-17:30 
入場料:外国人:「大人」10rm(約320円) 「子供」8rm(約255円)

2.Ipoh旧市街地

営業時間:なし
入場料:なし

3.Kedai Makanan Nam Heong

営業時間:毎日 7:00-17:00
ホワイトコーヒーと軽食を食べてだいたい10rm(320円)ぐらい!

4.Qing Xin Ling Leisure & Cultural Village

営業時間:毎日 9:30-17:30 
入場料:外国人 20rm(約640円) 

5. Ipoh Night Market

営業時間:毎日 18:00-24:00
入場料:なし

6. Restoran Tauge Ayam Lou Wong

現金のみでサービス税6%かかります。
営業時間:10:30-21:00 水曜日定休
価格帯:一人前 もやし&チキン&ご飯 約20rm(約640円)

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