セッション定番曲その103:Smile by Nat King Cole, etc.
ジャズボーカル定番曲。大ヒット曲なので、ジャズ以外の場でも歌われます。励ましてくれる、勇気の出る曲。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Nat King Cole
まずはこの歌唱を。
優しく温かい歌声。歌詞を気持ちを込めて丁寧に歌ってくれるので、内容がすごく伝わりますね。Nat King Coleが歌えばどんな曲でもそうなるのが凄いです。すべての歌手の憧れ。
ジャズピアニストとして出発して、1950年代には米国の国民的歌手として大人気でした。ジャズを「難しい音楽」としてではなく「誰でも気持ちよく聴ける音楽」として定着させた功績は大きかったと思います。「ラジオから流れてくるジャズボーカル」というイメージ。男性ジャズボーカリストはその後も沢山登場しましたが、結局立ち戻って聴くのはこの人というファンも多いと思います。発音も発声も明瞭で聴きやすいし、コピーしやすい。レコーディング数もとても多いので、スタンダード曲をレパートリーにしようと思って参考音源を探すと、だいたいNat King Coleが歌っています。
1965年に45歳で肺がんで亡くなってしまいました。本格的なロック時代到来の直前で亡くなってしまったのは残念です。時代にどううまく対応していくのか見たかった気もします。
ポイント2:なぜ「笑ってよ」と呼びかけるのか
1936年、米国大恐慌時代の映画「モダンタイムズ」の為にチャプリンが作曲(おそらく鼻歌を誰かが聞き取って譜面化)した曲で、歌詞が付けられたのはずっと後の1954年。
Smile though your heart is aching
Smile even though it's breaking
When there are clouds in the sky, You'll get by
心が張り裂けるような悲しみの中にいる「あなた」に
それでも「笑ってよ」と歌いかけています。
金融システムそのものが原因の初めての大不況。まじめに労働していていれば明るい未来が待っている、と信じていた人達にとっては先の見えない日々でした。貯金が無い、仕事が無い、食べるものが無い、家が無い、誰も助けてくれない。
楽しいから笑うんじゃなくて、笑っているうちに少しは楽しくなるよ、と。
大恐慌が過去のものになり、第二次世界大戦を経た1954年になっても、こういう辛い記憶は多くの人々の心に深く刻まれていたんじゃないでしょうか。
ポイント3:「笑顔」の効用
Light up your face with gladness
笑顔の作り方。
「喜びで顔をライトアップしてみようよ」と。
ただ顔の表情を作るだけじゃなくて、まず気持ちから作ってみよう。
You'll find that life is still worthwhile
If you'll just smile
「笑っていれば、生きる意味が見つかるよ」
笑いながら生きて、笑いながら死んでいくことが出来れば、素敵な人生ですよね。もちろん経済的に余裕があって、美味しいものを食べたり、色々な場所に旅行に行けたり、お洒落が出来たら素晴らしいけど、笑顔を忘れたら台無し。家族がいて、友達がいて、楽しい会話が出来て、誰かが面白い話をしてくれる。
この曲を歌う時はリスナーに、そして自分の大事な人に、語りかけるように歌いましょう。人を励ます為でもあり、自分自身も励ます為に。シンプルな歌詞ですが、リズムパターンやテンポで伝わるニュアンスが変わってきますね。
ポイント4:歌のバリュエーション
映画のイメージを引き摺っているのか、意外にも重厚なオーケストラアレンジで朗々と歌っている人が多いです。もっと淡々と歌った方が歌詞が伝わると思うんだけど・・・。
Nat King Coleのリズムパターンやテンポがやはり究極なのかもしれません。ゆったり踊るような感じ。それより遅いバラードになってしまうと悲劇性が増してしまう。
Natalie Cole, 1991年録音
大ヒットしたアルバム(父親へのトリビュート作品)から。のびやかな歌声で、歌の上手さが分かります。とても歌詞を理解している歌唱だと思います。ジャズというよりはR&B的な節回しの箇所もありますが。
Tony Bennett, 1966年録音
声の良さと声量の余裕が持ち味の人でした。途中で語り口調になるあたりが素敵です。時代的に仕方ないけど、もっとシンプルな演奏の方が似合うと思います。
Tony Bennett and Barbra Streisand, 2006年録音
大ヒットしたデュエット集アルバムから。Barbra Streisandはもちろん歌ウマさんなんだけど、なんだかミュージカル調のアレンジ/歌唱になっていて、過剰に大げさな感じ。
Rod Stewart. 2003年録音
一時期ジャズスタンダードアルバムを連発していたロッド。この枯れた声といつまでも垢抜けない歌い方が意外とこの曲に合っています。いま参考にするとしたら、この歌唱かもしれない。
Eric Clapton, 1974年録音
ライブ録音、垢抜けない感じのアレンジも含めて好きです。
ドラッグ中毒から復帰して、レイドバックしたライブ活動を行っていた頃。
Madeleine Peyroux, 2006年録音
力の抜け方がサイコー。
ポイント5:ボサノバ
という訳でボサノバ・アレンジも似合う曲です。明るさが増して、笑顔の連鎖が起きそうです。
Lisa Ono, 1997年録音
Cecilia Dale, 2017年録音
メロディに寄り添ったアレンジが素敵です。
ポイント6:インスト
BGMっぽい演奏になりがちな曲なので、気合を入れて演奏して欲しいですね。
Joscho Stephan, Bireli Lagrene
Makoto Ozone
◾️歌詞
Smile though your heart is aching
Smile even though it's breaking
When there are clouds in the sky
You'll get by
If you smile through your fear and sorrow
Smile and maybe tomorrow
You'll see the sun come shining through
For you
Light up your face with gladness
Hide every trace of sadness
Although a tear
May be ever so near
That's the time you must keep on trying
Smile, what's the use of crying?
You'll find that life is still worthwhile
If you'll just smile
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