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セッション定番曲その79:Hallelujah by Leonard Cohen

ソロ歌唱でもコーラスでも、歌ものセッションでも歌われる、密かな定番曲。今日も世界中の路上で、教会で、酒場で歌われています。どんな祈りがこめられた曲なのでしょうか?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:青い空を題材に詩人は何を表現するか?

「晴れ渡った青い空」それを題材にして詩を書く時、凡人は「気持ちの良い日」「これからの希望」を描こうとするだろう。では、詩人は?むしろ「絶望感」や「眩し過ぎて見えないこの先」を描こうとするのではないか?

結局は自分の気持ちの持ちようで景色の見え方なんて変わるもの。絶望している人は、暗い自分の部屋の中ではなく、晴れ渡った空と太陽の下でこそ孤独を感じて、死にたくなってしまうのかもしれません。

ポイント2:Hallelujah(ハレルヤ)とは何か?

「神(ヤハウェ=ヤ)を褒め称えよ(ハレル)」
元はヘブライ語ですが、同じような音で世界中の言語に存在します。
ユダヤ教/キリスト教の信者にとっての祈りの言葉。聖歌やゴスペルにも頻繁に登場するフレーズですね。

信者でなくても「Oh My God!(OMG) 」=「なんてこった!」と神様が引き合いに出されるように「Hallelujah」=「うわっ、サイコー!」「えーっ、ビックリ!」という使われ方も。

ポイント3:Hallelujah(ハレルヤ)は何について歌っているのか(仮説)

Leonard Cohenの原曲では厳粛な雰囲気で、呟くような声で、聖歌隊のようなコーラス付きで歌われ、「Hallelujah」が何度も何度も繰り返されます。

これを聴いて「これは新しい聖歌」「神を讃える歌」だと解釈して、教会で歌っている人もいますね。

私の解釈はちょっと違っています。
Hallelujah(ハレルヤ)と歌っておけばO.K.だと思っているだろうけど、それは違うよ」とLeonard Cohenは皮肉っているようにしか聴こえないのです。彼は(変遷はあったものの)ユダヤ教徒で、無神論者ではありません。だけど、だからこそ、空虚な「祈り」の無力さや虚しさをよく知っていた。

「Maybe there's a God above」
多分、天上には「神様」がいるんだろう・・・

執拗に繰り返される「Hallelujah」は、徐々に「高揚感」を感じさせると同時に「ただそこにある」ことを感じさせます。

ポイント4:Hallelujah(ハレルヤ)の歌詞は、ほんの一部分

Leonard Cohenのメモには80番目?まで詩が書かれていたと言われています。10年近く掛かったとか。実際に歌として使われているのは、ほんの一部分なので、その歌詞だけを解釈してもあまり意味は無いのかもしれません。

Now I've heard there was a secret chord
That David played and it pleased the Lord

Your faith was strong, but you needed proof
You saw her bathing on the roof
Her beauty in the moonlight overthrew ya

She tied you to a kitchen chair
She broke your throne and she cut your hair
And from your lips she drew the Hallelujah

最初の数パートはモロに「旧約聖書の中の有名なエピソード」からの引用です。我々にはあまり馴染みが無いですが、キリスト教徒、特にユダヤ教徒ならば子供の頃から身体に染み付いているものばかり。

歌詞の中では、旧約聖書「サムエル記」における「ダビデが初代イスラエル王であるサウルに向けて竪琴を演奏した」「月明かりの下で沐浴するバト・シェバに対してダビデがアプローチをかけた」という2つの逸話と、「士師記」における「デリラがサムソンの頭髪を切り落とした」という逸話が語られている

Wikipedia

しかし、旧約聖書を引用しているからといって「宗教的な曲」だとは限りません。あくまでも導入部として「誰でも知っている話」を枕として使っているだけだとも言えます。ダビデもサムソンも「(性)欲」に負けてしまいます。この曲の物語の中心はあくまでも「うつろう愛」について。

ポイント5:Word Painting (進行そのものを歌詞で)

But you don't really care for music, do ya?
It goes like this, the fourth, the fifth
The minor fall, the major lift

「君は実は音楽になんて全然興味ないんだろう?」
「この曲の進行はこうだよ。
(曲のキーを「1度」として)4度の和音、次は5度の和音。
そして短調に行って、また長調に戻る。」

キーをCとすると、F > G > Am > F

こんな風に曲の進行自体を歌詞で説明している曲は意外と沢山あります。

バカみたいですが、ちゃんと使えば印象に残る曲/歌詞に出来る手法です。
この「Hallelujah」の歌詞の中では「君は音楽になんて全然興味ないんだろう?」と相手に呼び掛けた上で「こういう進行だよ、これを知っていれば君にも歌えるだろ」と使われています。

ポイント6:「Ya(Jah)」

But you don't really care for music, do ya?
Her beauty in the moonlight overthrew ya
But if I did, well, really, what's it to ya?
I've told the truth, I didn't come to fool ya

など、この歌で語りかけている相手への箇所で「You」を「Ya」と言い換えて/発音しています。「神(ヤハウェ=ヤ)」ということですね。実際には口語で「You」を「Ya」と言ってしまうこともあるので、安易な決め付けは危険ですが、この曲の場合は間違いありません。

「Hallelujah」やとも韻を踏んでいます。そうとうシツコイ。

ポイント7:発音のポイント

「Hallelujah」
わざわざ英国版と米国版が並べてありますが、差異はありませんね。

Now I've heard there was a secret chord
That David played and it pleased the Lord

「chord」と「Lord」で韻を踏んであります。どちらも意外と発音が難しい単語です。ポイントとしては「d」音の後に絶対に母音を入れないこと。

But you don't really care for music, do ya?

なんか日常生活でも使えそうなフレーズですね。「えっ、ライブやるなら呼んで!」と言う友達に「あんた別に興味無いでしょ?」と。ひとつの流れの決まり文句として覚えてしまいましょう。「really」は単体では発音の難しい単語ですが、このフレーズの中では特に強調する箇所ではないので、さらっと発音してしまいましょう。

Your faith was strong, but you needed proof
You saw her bathing on the roof

「proof」と「roof」も韻を踏んでいます。ここも「f」音の後に絶対に母音を入れないこと。
faith」は使い慣れない言葉かもしれませんが、キリスト教圏の歌詞にはよく出てきます。神様に対する信仰心であったり、大事な人への誠実さであったり。

She tied you to a kitchen chair
She broke your throne and she cut your hair

「chair」と「hair」も韻を踏んでいます。
throne」も聴き慣れない言葉ですが、「玉座/王座」という意味で、歌詞に中で例えに使われることが多いです。(ゲームが好きな人なら馴染みがある?)

以下、似たような箇所で韻を踏んでいるので、注意して聴いて、歌ってみましょう。ちょっと意識するだけで歌詞の伝わり方が段違いに良くなります。

ポイント8:様々なバージョンを聴いてみましょう


人気があるのはJeff Buckleyの歌唱。30歳で亡くなってしまったセツナイ声の持ち主。自分自身に向かって語り掛けているように感じます。


k.d. lang
淡々と始まり、次第に熱を帯びていきます。


LeAnn Rimes
歌ウマさん代表のカントリー/ポップス歌手。私の歌詞解釈だと、この歌唱そのものがパロディになってしまうかもしれません。「ほら、こんな風にHallelujahと上手に歌えば祈りが通じるもの」だと。


Willie Nelson
Leonard Cohenの精神に一番近いのはもしかするとこの人の歌唱なのかもしれません。


Rufus Wainwrightと聴衆


Pentatonix


Bono
敢えて「語り」にしている。


◾️歌詞

Now I've heard there was a secret chord
That David played and it pleased the Lord
But you don't really care for music, do ya?

It goes like this, the fourth, the fifth
The minor fall, the major lift
The baffled king composing "Hallelujah"

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

Your faith was strong, but you needed proof
You saw her bathing on the roof
Her beauty in the moonlight overthrew ya

She tied you to a kitchen chair
She broke your throne and she cut your hair
And from your lips she drew the Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

You say I took the name in vain
I don't even know the name
But if I did, well, really, what's it to ya?

There's a blaze of light in every word
It doesn't matter which you heard
The holy or the broken Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

I did my best, it wasn't much
I couldn't feel, so I tried to touch
I've told the truth, I didn't come to fool ya

And even though it all went wrong
I'll stand before the lord of song
With nothing on my tongue but hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

Baby, I've been here before
I know this room, I've walked this floor
I used to live alone before I knew you

And I've seen your flag on the marble arch
Love is not a victory march
It's a cold and it's a broken Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

There was a time you let me know
What's really going on below
But now you never show it to me, do you?

And remember when I moved in you
The holy dove was moving too
And every breath we drew was Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

Maybe there's a God above
But all I've ever learned from love
Was how to shoot at someone who outdrew you

And it's not a cry that you hear at night
It's not somebody who's seen the light
It's a cold and it's a broken Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah

Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah
Hallelujah, Hallelujah



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