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セッション定番曲その67:Softly, As In A Morning Sunrise

ジャズセッションの人気ド定番曲。どんな雰囲気の曲なのでしょうか。そして演奏者に人気の秘密は?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:誤訳!「さわやか」じゃないし・・・

「朝日のようにさわやかに」なんていう邦題が付いていましたが、これが有名な誤訳です。二度と口にするのはやめましょう。犯人は不明とのことですが、元々が劇中歌で最初から歌詞が付いていたのにそれを読まずに、英語のタイトルだけ見て勘違いして付けたのかと思います。曲もちゃんと聴いたのかなというレベルの誤訳。

邦題だけ覚えていて「さわやか」に演奏しようとして、違和感を感じた演奏者も多いのではないでしょうか。

Softly, As In A Morning Sunrise
「そっと/気が付かないくらいひっそりと」「朝陽の中に紛れ込むように」
何かがやってくる、というのがタイトルの意味です。なんだか不気味な始まりですね。やってくるのは良い兆候なのか、それとも・・・

ポイント2:どんなことを歌っているのか?

文法の説明も含めた歌詞の和訳については下記のブログが詳しいです。
ジャズ歌詞解説  Softly As In A Morning Sunrise

要は「いつのまにか愛は貴方の心に忍び込んで、激しく燃えがらせて、絶頂に導く、それなのに貴方を裏切る場面が出てきて、いつのまにか全てを奪って去っていくのだ」という呪いの呪文のような内容です。劇中で、男に捨てられそうになった女が別れ際に「捨てゼリフ」のように相手に投げつけるような感じですね。

まぁ、恋愛体質の人って何度同じ目に遭っても学習せず、また次の恋に燃え上がってしまう訳ですが・・・

ポイント3:曲の説明

シンプルなAABA構成。
Aパートはキー「Cm」で1-2-5 がずっと続きます。なんだか明るくはないですね。小節感覚を持っているか、あるいはメロディを思い浮かべながらでないと、アドリブ時にどこをやっているのか分からなくなりそうです。後述のようにここをずっと引き延ばして、合図でBパートに行くという演奏もあります。
Bパートは平行調の「Eフラット(メジャー)」へ転調、ここで歌詞的には「愛の盛り上がりと地獄への転落」が歌われます。
でまたAパートで終わり、という構成。

歌も演奏も単調になりがちなので、工夫が必要ですね。転調も唐突感は無いので、音の強弱やリズムでメリハリを付ける必要があります。


ポイント4:発音のポイント

「sunrise」
「sun + rise」で「n」音と「r」音を繋げる必要があります。「n」音を飲み込むようにするとスムースに発音出来ると思います。

「comes stealing」
「s(z音)」と「s(s音)」が続けて出てきます。両方をちゃんと発音しましょう。
「-ealing」は口の両端を思い切って引っ張って、鋭く発音しましょう。

A burning kiss is sealing
「burning」は「燃えるように」といきたいところですが、「bə́ːrnɪŋ」と喉の奥で出す少しこもった音です。
sealing」は上記の「stealing」と韻を踏んでいます。

For the passions that thrill love
「thrill」は「th」音に「r」音が続けて出てくるので、舌を忙しく動かす必要があります。練習しましょう。

And take you high to heaven
「heaven」は「v」音をちゃんと出すのが大事です。

The light that gave you glory
「glory」はゴスペルなどでもよく出てくる言葉ですね。「glɔ́ːri」と「L」音の後に喉を開けた「o」音、そして「r」音に繋がります。

ポイント5:ジャズとはドルフィーである

暴論を言うと、ジャズとはEric Dolphyを聴くこと(疑似体験すること)だ、です。この嵐のような演奏を聴けば「さわやか」なんて言葉は出てきません。曲はただのモチーフで、テーマがいつ始まって終わったのかも分かりませんが、この20分間は頭を空っぽにして聴くことが出来ます。常にスマートフォンを片手に情報過多になってしまった今こそ目を閉じてドルフィーを聴けと言いたいです。


ポイント6:ジャズとはMJQを聴きながら居眠りすることである

暴論を言うと、MJQを聴きながら心地よく居眠りをしてしまうことがジャズだ、です。この曲でおそらく最も有名な演奏。ビブラフォン音が気持ちよく、ちょっと「さわやか」な感じもします。音量を適切にすれば、日曜日の午後に猫と昼寝をするのに最適です。


ポイント7:日本人はなぜSonny Clarkが好きなのだろう

このバランスの取れたピアノトリオの演奏も人気ですよね。やっぱり「ブルース」を常に感じるSonny Clarkのピアノはいいね、という。


ポイント8:Wynton Kellyを忘れるな

同じピアノトリオでもWynton Kellyになると少し主張が強くなります。


ポイント9:コルトレーンならどうする?

John Coltrane全盛期のライブ録音。3分過ぎから満を持して登場するコルトレーンの途切れない演奏。本来は「さわやか」な印象のソプラノサックスが彼の手にかかると狂暴な武器に。


ポイント10:その他にも色々な演奏を聴いてみよう

John Scofield、期待通りのジョンスコ印
John Scofield 1977 - Softly as in a morning sunrise

Emily Remlerによる端正な演奏
Emily Remler - Softly As In A Morning Sunrise

Paul Chambers、ベースがテーマを取り、核になる演奏


Chet Baker, Wolfgang Lackerschmid
テンポを落としたビブラフォンにChet Bakerのトランペットが絡む演奏
Softly, As In A Morning Sunrise

上原ひろみ、フュージョン風の演奏
Softly As In A Morning Sunrise

メロウファンク風のセッション演奏
Softly As In A Morning Sunrise - Zespół "Funk'em All"


ポイント11:色々な歌を聴いてみよう

Helen Merrill、1958年の歌唱、優しく歌うのに「恨み」を密かにこめたような印象。少し擦れた声質がピッタリですね。


Abbey Lincoln、1959年の歌唱、音の悪さも含めて時代を感じますね。
Softly, As In A Morning Sunrise

June Christy、1960年の歌唱。Coolじゃなくて、むしろHotな歌声。


Dianne Reevesの力強い歌唱、歌詞通りの「呪いの言葉」を感じます。


Bobby Darinのポップス寄りの歌唱。こういう「歌の上手い」男性シンガーの歌は何故か「ジャズっぽくない」と言われてしまうことが多いですが。
Softly as in a Early Morning Sunrise

Lauren Bushによる軽やかな歌唱、アレンジも現代的。


Hetty Loxston、ラテン調のアレンジでの歌唱。


現代のスキャット番長、Cyrille Aiméeの歌唱。曲はもはや単なる素材。


ポイント12:結論;どんな調理方法にも合う最高の素材

あらためて色々と聴いてみると、どうアレンジしても面白い「素材」としての良さが分かりますね。私もジャムセッションの最中に「ファンクでいこう」と提案されたことがあります。

教科書通りにお行儀よく演奏するのもいいですが、思い切って自分達なりにその場のノリでアレンジで冒険してみるのも面白いはずです。

歌詞の内容に沿ってドロドロのホラーにするのもアリ。

■歌詞


Softly as in a morning sunrise
The light of love comes stealing
Into a newborn day

Flaming with all the glow of sunrise
A burning kiss is sealing
A vow that all betray

For the passions that thrill love
And take you high to heaven
Are the passions that kill love
And let it fall to hell
So ends the story

Softly as in a morning sunrise
The light that gave you glory
Will take it all away

Softly as it fades away
Softly as it fades away
Softly as it fades away
Softly as it fades away


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