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セッション定番曲その22:Time After Time by Cyndi Lauper

1980年代ポップスの代表曲。ミディアムテンポの、女性シンガー向きの定番曲ですね。当時のキラキラ系の曲が時代に取り残されていく中でこの曲はしっかりと生き残って定番曲化して、多くのミュージシャンにカバーされています。それは何故なのでしょうか?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:キーワードは「time」

タイトルの「time after time」とは「何度も何度でも」という意味です。この歌詞の中ではこの「time」という言葉/概念がキーワードになっていて、「時計」とか「過去の記憶」とか「色褪せていく写真」とか、時の経過を表現している箇所が印象的ですね。

過去(の恋愛)を振り返りながらも前に進もうとしている主人公がMVでは描かれていて、単に感傷に浸っているだけではないのが分かります。その辺りが大昔のスタンダード曲とは違う「1980年代の女性像」なのかもしれません。そのあたりのちょっと複雑な感情をうまく歌にこめられるといいですね。

ポイント2:I'm walkin' too far ahead,  you say, "Go slow"

パートナーよりも先を行く自分。それに対して「Go slow」と呼び掛けるパートナー。生き方の違いがすれ違いに繋がっていく様子が歌われています。この「Go slow」はセリフで、かつ優しく声を掛けているのだと思われるので、そこが分かるように、それが伝わるように歌いたいところ。

ポイント3:If you're lost, you can look and you will find me, If you fall, I will catch you, I'll be waiting

とは言いながらも、「あなた」のことをずっと気にかけている。諦めきれない思いが溢れています。繰り返し歌われるこのパート、それまでの歌詞が詩的な情景描写なのに、ここだけ直接的な表現で感情がむき出しになってしまっています。ここをどう感情豊かに歌い上げるか、この曲のキモかと思います。「you」と「I」が繰り返し出てくるところが直接的だし、気持ちをこめやすいパートだと思います。

このパートだけ男声コーラスが入っています。難しいハモリではないので、ぜひ試してみてください。

ポイント4:The drum beats out of time

「リズムがズレたドラムの音」・・・ふたりの気持ちがズレていった様子を歌っていますね。曲の中でわざわざ「out of time」という表現を使っているのが面白いですね。曲としてはしっかりしたビートでリズムを刻んでいるのに。

ポイント5:The second hand unwinds

「The second hand」はよく「中古品」という意味で使われますが、ここでは「second=秒」「hand=針」の「秒針」という意味で使われいて、これも「time」関連の言葉であることが分かります。

それが「unwindする」=「巻き戻る/逆に回る」とはどういう意味なんでしょうか?時計の種類によってはそれが実際に起こることがあって、シンディがその話を聞いたというエピソードを紹介している記事もありますが、実際にそうでなくても「秒針が逆に回って、少しだけ時間が戻る」という描写だと考えると面白いですね。

ポイント6:発音のポイント

実際の歌を聞くと、冒頭部分は
Lyin' in my/ bed, I hear the/ clock tick and/ think of you
Caught up in/ circles, confusion is/ nothing new
Flashback,/ warm nights/ almost left behind
Suitcase/ of memories
とだいたい「/」の箇所で区切って歌われていますね。
メロディ(譜割り)に沿って歌うとそうなる訳で、文法的な区切りとはちょっと違うのが歌の面白いところ。ここを意識して歯切れよく発音していくとこの歌のメロディが浮かび上がります。どこで抑揚を付けると良いか研究してみてください。

この曲はインストで演奏されることもありますが(マイルスも!)、その際にもメロディだけでなく、この歌詞の存在を意識してメロディを奏でると、より聴く人に伝わる演奏になるかと思います。

ポイント7:バラード、ではない

歌詞の内容からするとスローなバラードになりそうですが、それをミディアムテンポの、むしろ明るめの曲調で歌っているのがミソですね。特に初顔合わせのセッションでは、スローバラードをやろうとすると、歌う人も演奏する人も最初のうちはテンポも音の上げ下げも手探りになりやすいので、もう少し早いミディアムテンポで、リズムのはっきりした曲だと助かりますね。アレンジとしては意図的に少しテンポを落とすのもアリですし、テンポはそのままでリズムパターンだけレゲエに変えてみるとか、ボサノバにしてみるとか、いずれにしろゆったりと気持ちいいテンポで歌詞をちゃんと歌うのが似合う曲ですね。

ポイント8:1983年「CyndiLauper / She's so Unusual」

1983年発表のこのアルバム、奇跡のような良い曲が詰まった作品です。「Money Changes Everything」「Girls Just Want To Have Fun」「She Bop」「All Through the Night」などなど。音作り的には80年代っぽい、シンセサイザーが前面に出たキラキラした装いで、ドラムの音もリバーブたっぷり。時代遅れになりそうな感じですが、元の曲のメロディや歌詞、構成がしっかりしているので、アレンジを変えながら現代にも生き残っているものが多いです。

シンディ・ローパーの歌い方を真似する必要は無いと思いますが、いわゆる「歌ウマさん」ではないけど、時にパワフル時に繊細な、声に表情のある歌い方は素敵ですね。だから「どうでもいい歌詞」の歌は歌いたくない拘りがある人だと思います。

1980年の米国文化は、音楽だけでなく、ファッションも映画もポップアートも小説ですら「明るくクリアでキラキラしたもの」が持て囃された時代でした。後から振り返るとまさに「バブリー」で恥ずかしい感じもありますが、その尖り方が懐かしがられたり、知らない年代の若者からは新鮮なものとして受け止められたりして、15~20年周期くらいでリバイブしていますね。

ポイント9:様々なバージョンを聴いてみよう

原曲(MV)


Tuck & Patti


Eva Cassidy


男声ボーカル版


マイルス


■歌詞

Lyin' in my bed, I hear the clock tick and think of you
Caught up in circles, confusion is nothing new
Flashback, warm nights almost left behind
Suitcase of memories
Time after

Sometimes you picture me, I'm walkin' too far ahead
You're callin' to me, I can't hear what you've said
Then you say, "Go slow", I fall behind
The second hand unwinds

If you're lost, you can look and you will find me
Time after time
If you fall, I will catch you, I'll be waiting
Time after time
If you're lost, you can look and you will find me
Time after time
If you fall, I will catch you, (I'll be waiting) I will be waiting
Time after time

After my picture fades and darkness has turned to gray
Watchin' through windows, you're wondering if I'm okay
Secrets stolen from deep inside
The drum beats out of time

If you're lost, you can look and you will find me
Time after time
If you fall, I will catch you, I'll be waiting
Time after time

You say, "Go slow", I fall behind
The second hand unwinds

If you're lost, you can look and you will find me
Time after time
If you fall, I will catch you, I'll be waiting
Time after time
If you're lost, you can look and you will find me
Time after time
If you fall, I will catch you, (I'll be waiting) I will be waiting
Time after time

Time after time
Time after time
Time after time
Time after time



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