今月のよかった本リスト〜2021年12月編
こんにちは、石田康平と申します。東大建築の博士課程にいて本をけっこう読んでいるので、今月読んだモノから、面白かった5冊をまとめてみています。
このシリーズは毎月書いていてマガジンにまとめているので、よろしければフォローしていただけますと幸いです。
1. 『ほんとうのランニング』マイク・スピーノ, 2021
ランニングについての本です。翻訳のもとの本はかなり古く、1976年くらいに出版された本です。
ところで走ることって、「まあ走った方が健康にも精神的にも良いよな」と思うけど、なかなか継続できなかったりもするじゃないですか。
そうした意識に対して、少し違う見方を提供してくれるのがこの本です。
「ほんとうのランニング」というタイトルはかなり内容を誤解させるタイトルで、元のタイトルは「Beyond jogging : The innerspaces of running」です。石田流に訳してみると、「ジョギングを超えて:ランニングにおける内なる世界のひろがり」。
その元タイトルの通り、ランニングがいかに禅とつながっているか、いかに精神統一とつながっているかみたいな話です。
例えばランニングマシーンで走ることや毎日同じコースを走ることを「トレーニング」と呼んでしまうと、ちょっと続けられなかったり窮屈に感じたりするかもしれない。
でも、「走る時間は座禅の時間なんだ」と考えてみると、ちょっといいのかなと思ったり。
僕は、イライラすると走ります。最初は思いっきり走るんだけど疲れてきて、まあいい具合のスピードに落ち着いてきてしばらく走っていると頭がからっぽになってきます(酸素が足りないからかも)。そうすると結構イライラした気持ちがなくなっていく感じがします。
ランニングとは「雑念を排泄して頭を空っぽにしていく時間」なんだと捉えてみても良いのかな、と。そうすると高負荷でなくていいし、頑張らなくてもいい。頭が空っぽにさえなればいいわけだから。
そんな風に走ることを捉え直してもいいのかな、と思いました。
昔の本なのでトレーニングメソッドもふるそうなんだけど、やたらと精神的な話と結びつくのが面白いです。
2. 『〈責任〉の生成』國分功一郎 熊谷晋一郎, 2020
もうなんというか、みんなが高評価しすぎて逆に手を出せなかった本です。でもやっぱり面白かったです。
『中動態の世界』をかいた國分功一朗さんと、『当事者研究』などで知られる熊谷さんの2人の対話ではあるのですが、2人の著作をがっと合わせて関係づけながら解説していくような本と考えるとわかりやすいと思います。
色々な視点があるのでとりあえず読んでくださいとしか言えないのですが、僕が面白かったのは、空腹感についての話です。
人はお腹がすいたと言うけれど、空腹感とはいったい何なのか。例えばちょっと気持ち悪くなったり、おなかが少し痛くなったり、頭がぼーっとしたり、いろんな現象が起こる。そういう現象はいろいろに起きているんだけど、人はそれらを無意識に取捨選択して、複数の刺激をまとめて、なんとなく生まれてくる「感じ」を「空腹感」と呼んでいる。
逆に、刺激に敏感すぎる人は、うまくいろんな刺激を「空腹感」とまるめられず、混乱してしまう。
本ではそれを「内臓からのアフォーダンス」と呼んだりする研究を引用していましたが、その空腹感の捉え方は、刺激に敏感すぎる「当事者」でなければなかなか気が付くことができないのだろうと思います。そういう多様な視点の議論を掘り下げていくことで、普通に暮らしている人にとっても自分の知っていたことが自然と捉え直されるような面白みがある。それがこの本のいいところです。
ほかにも責任の概念と中動態など、面白い議論がたくさん載っているので面白いです。後半に展開するにつれて議論が複雑になり面白いのかよくわからなくなったりもしますが。おすすめです。
3. 『ドイツのスポーツ都市: 健康に暮らせるまちのつくり方』高松 平藏, 2020
ドイツのスポーツとまちづくりについての本です。読んでみると面白いと思う。ポイントは、スポーツを中心とした街づくりも、その街の文化やそこに暮らす人々の考え方といったコンテクストを読み込み、その中で考えていかなければならないのだ、ということを具体的に気づかせてくれるところです。
スポーツってどうしてもインターナショナルで、世界共通な感じがするので、サイクリングを通したまちづくりとかサッカーを通したまちづくりとか結構どこでも展開されている感じがするけれど、そのありようを構築していく時には、既存のコンテクストとの噛み合わせが重要なのだ、ということです。
少しだけ概要をまとめます。
日本のスポーツ振興はオリンピック的な考え方と結びついて外向きである、すなわち集客や観光を盛り上げるための装置として使われる一方で、ドイツはむしろ内向き、住民の暮らしを豊かにすることに注目する文化である、とありました。これはなぜか。そしてどういう意味を持っているのか。
ドイツには「フェライン」というものがあるそうです。これは地域のスポーツクラブのようなもので、ほとんど日本の部活に相当するようです。みんな地域のスポーツクラブに入るのがドイツでは一般的らしい。どうしてこんな文化になったのか。
ドイツはもともと城壁都市で、健康ということがとても重要な主題としてありました。城壁で囲まれているので感染症などがあれば一発で街が滅ぶからです。一方でカントなどの哲学の発展もあり、「個人」というものが価値観のなかで醸成されていきます。健康への強い問題意識と、個人という考え方が結びつきながら「自分で自分を健康にする」という考え方が文化としてうまれます。
また、個人という考え方がしっかりとあるからこそ、個々人の関係性を捉える概念としてコミュニティという考え方も育ちます。健康は自己の問題だけでなく、周囲が運動しやすい環境であるかどうか、それをサポートする体制があるかどうかなどといった環境の問題でもある。だから「自分で自分を健康にする」という意識を前提としつつ、「社会で健康を目指していこう」という意識も育っていきます。
そうした意識がある中で、運動クラブが地域に様々につくられ、活発に活動するようになる。フェラインはそうしたコンテクストの中で機能しているわけです(僕の理解)。
フェラインは小さな地域でもたくさんあるので、こうした組織を運営主体として運動イベントなども開くことができる。そうした中で地域住民や観光客の参加するイベントも活発化し、スポーツ都市が醸成されていく。
スポーツを通した地域振興や健康増進は様々に語られますが、これも国ごとの文化的背景やコンテクストをきちんと読み込まないといけないんだな、と強くおもいました。いろいろと考えさせられるのでお勧めです。
4. 『ケの美: あたりまえの日常に、宿るもの』佐藤卓, 2018
この本は佐藤卓さんがディレクションしています。レイアウトが美しいです。物撮りの背景色や組版、構成などが丁寧に調整されていて美しい。
例えばこれは目次ですが(本で見るともっときれいです!)、人の名前も、普通に明朝体の文字でうってもこうはなりません。文字ごとに少しずつ幅を細め、文字間の感覚を調整し、文字ごとにサイズを変えてあります。
肩書と、そこからページ番号の表記にかけて引っ張る線の間の余白も、参加者ごとにそれぞれ異なります。
レイアウトが綺麗な本なので、一度みてみるととても良いと思います。
5. 『OMA NY: Search Term』重松象平ほか, 2021
OMA NYという事務所の作品集です。とにかくかっこいいです。読んでいて「かっこいいな〜」となります。
かっこいいパースがあって、そのあとにダイアグラムや調査、図面、写真などが細かくレイアウトされているという構成が続きます。
情報量も多くて勉強になるんですが、なによりパースがかっこいいし勉強になります。たぶんここまでかっこいいのは、日本ではなかなか生まれないのではないか、と思ったり。明らかに、デッサン力というか、地力の絵を描くスキルが違うなという印象を受けました。
どこをぼかすべきで、どこを色を薄くするべきか。どこの線を強調してハイライトを入れて、どこを影にするべきか。その絵としての構築の意志が建物を魅せるという観点からとても高いレベルで構成されている。こういうのはなかなか日本の設計事務所のパースでみません。意識としてはあるんだけどレベルは低いか、そもそも意識すらないか。
もちろんそれは建築設計そのものがかっこいいかどうかとはちょっと違う問題です。いわば2次元表現の話ですが、建築を学ぶ学生などは絶対見た方がいいのではないかと思います。
以上、おすすめの5冊でした。
以下は12月に読んだ本リスト。
過去月のまとめはこちら
2021年11月のリストはこちら。
2021年10月のリストはこちら。
2021年9月のリストはこちら。
2021年8月のリストはこちら。
2021年7月のリストはこちら。
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