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熊本市議選の交通争点 (3)選挙公報の政見総チェック

明日2023/4/9(日)は統一地方選挙で、熊本市議と熊本県議の改選が行われる。本記事は、熊本で関心事・争点となっている渋滞解消に、各政党・候補がどのような方針を掲げているか、報道と選挙公報から調べた上で、熊本の都市交通のあり方を考えた4回シリーズである。

  1. 熊日の交通施策アンケート

  2. 都市高速

  3. 選挙公報の政見総チェック

  4. 「車1割削減・渋滞半減」を目指すのか?

本編のテーマは、候補者の政見を一覧できる選挙公報の総チェックです。

選挙公報で見る交通政策

熊日アンケートに続いて、選挙公報にどのような交通政策を掲げているか、全候補者分を調査した結果を示す。

選挙公報とは、全ての候補者や政党の政見などを記載した文書で、行政から有権者に配布されるほか、Web上でも閲覧可能である。(中央区東区西区南区北区

選挙公報の例

都市高速などの道路整備を支持する例を示す。

東区・中川栄一郎氏(自民推薦)

都市高速に反対し、自転車活用・公共交通拡充などを支持する例を示す。

中央区・上野みえこ氏(共産)

データ化

選挙公報の各候補者の紙面は工夫して作られており一つ一つはわかりやすいが、俯瞰的な理解が難しいため、交通に関する政見を抜き出し、主立った政策についての言及の有無をGoogle Spreadsheet上にデータ化した。

与野党で分かれる渋滞解消のアプローチ

交通についてどのような言及をしているか、政党別に集計した結果を示す。

政党(所属または推薦)別の交通政策言及率<選挙公報より筆者集計>

共産党が都市高速に反対

先掲の上野候補と同様のテンプレートで、共産党の全候補者が冒頭で「渋滞解消に役立たない都市高速よりくらし応援」と都市高速に反対していた。反対意見にはマイナス1をつけて言及率を集計したため、共産党の都市高速については-100%となっている。

また共産党は、市内のバス・市電・熊本電鉄を8割引(障がい者は9割引)で利用できる「おでかけICカード」の維持も、テンプレートとして共通で主張している。

なお共産党は、「渋滞を解消し、人と環境にやさしい交通・道路づくりを」という提言を熊本県知事および熊本市長に提出している。

自民・公明は熊日アンケートほど明確に主張が揃わない

都市高速/10分・20分構想への言及は、自民党の2人(7%)、公明党の1人(14%)に留まった。公明党は全候補者のフォーマットがほぼ同じにもかかわらず、渋滞解消、都市高速への言及は各1名のみであった。

幅広い分野の主張を自由に展開する選挙公報では、テーマと選択肢が指定されるアンケートよりも、党の方針より個人の関心や思いが表に出やすいのだろう。

交通に触れず教育・福祉中心の主張をする与党候補の例

社民・立憲・国民は渋滞解消を謳わない

中立会派とされる社民・立憲・国民の候補者8名の中に、渋滞解消を謳う人はいなかった。市電延伸・自転車道・バイパス道路整備を主張する候補や、「地域交通網の再整備と自転車利用の促進」を主張する候補はいたが、「渋滞解消」という目的は書かれていなかった。

公共交通への言及は東高西低

選挙区別に集計したところ、渋滞解消も公共交通拡充も、東区が一番言及率が高かった。東区は、鉄道駅が1駅しか無いにもかかわらず、住宅地や公共施設が密集しているため、渋滞が酷い。バス網で覆われてはいるものの、熊本東バイパスを渡るたびに激しく遅延する。東区民にとって渋滞は喫緊の課題なのだろう。

一方で西区は、熊日アンケートに引き続き、公共交通拡充に言及する候補がいなかった。市の公共交通政策は西区では期待できなさそうだ。

選挙区別の渋滞解消言及率<選挙公報より筆者集計>

女性候補は渋滞解消に関心が薄い?

男女別に、渋滞解消についての言及率を集計してみると、男性が62人中18人(29%)に対し、女性は7人中1人(14%)に留まった。サンプルが少ないため統計的に有意では無いが、女性の方が言及率は低い。1人以外は、渋滞解消以外も交通について全く触れていない。

女性候補は、くらし・子ども・教育・福祉などをキーワードにすることが多い。男性候補は、基盤整備・経済・防災などの観点から交通整備の重要性を主張する例や、具体的な道路名を挙げる例が多い。

男女別の渋滞解消言及率<選挙公報より筆者集計
自民唯一の女性候補も渋滞への言及なし 西区・古川さとこ候補

どのような交通計画を審議してきたか?

交通関係委員の政見

熊本市の交通政策は、市議会の都市整備委員会や、熊本市公共交通協議会(交通結節点・バス・コミュニティ交通の各部会で構成)で審議されている。それらの委員を務める現職候補の政見を一覧にした。

都市整備委員会・公共交通協議会の委員の交通政見

田上辰也氏(東区・社民)が市電延伸・自転車道・バイパス道路の整備を主張し、坂田誠二氏(北区・自民)が高規格道路整備の具体名を挙げているほかは、踏み込んだ記載は無かった。

市議会で総合交通戦略の議論は無し

熊本都市圏の交通計画の大元は、熊本県・熊本市などの関係者で構成する協議会が策定した「熊本都市圏総合交通戦略」である。詳しくは次のページで述べるが、実は熊本都市圏の計画は、公共交通の利用者増を目指さない横ばい計画である。

熊本市議会の会議録を検索したところ、総合交通戦略が議論に上がったのは4回だけであった。いずれも、市電延伸・空港アクセス県市の連携道路整備についての議員からの質問に対し、市が「総合交通戦略に示されている」と答弁している内容であり、総合交通戦略の中身を問う議論ではなかった。

総合交通戦略は、2023年度の調査を元に2024年度以降に立案されることになっている。その審議に足る知見を持っているかという視点で、議員を選んでも良いかもしれない。

➡(4) 「車1割削減・渋滞半減」を目指すのか? 編 に続く


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