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熊本市議選の交通争点 (2)都市高速を造るのか?

明日2023/4/9(日)は統一地方選挙で、熊本市議と熊本県議の改選が行われる。本記事は、熊本で関心事・争点となっている渋滞解消に、各政党・候補がどのような方針を掲げているか、報道と選挙公報から調べた上で、熊本の都市交通のあり方を考えた4回シリーズである。

  1. 熊日の交通施策アンケート

  2. 都市高速

  3. 選挙公報の政見総チェック

  4. 「車1割削減・渋滞半減」を目指すのか?

本編のテーマは、熊日アンケートで争点として挙げられた都市高速です。

福岡には都市高速だけでなく公共交通も充実

都市高速/10分・20分構想では、道路整備の遅れが、都市高速がある福岡や広島と比較して語られることが多い(福岡コンプレックス?)。しかし高規格道路だけでなく、公共交通も両市よりも脆弱である。

熊本市は政令市ワースト2位の公共交通分担率

熊本市は人口集中地区(DID)の道路の平均速度が政令市でワースト1位とされる。その背景には、通勤時の公共交通の分担率が政令市でワースト2位の9.7%と低いことがある。福岡市は32.0%、広島市は24.7%と、熊本の3倍前後の高い率になっている。

速度:熊本都市道路ネットワーク検討会・道路交通センサス2015
交通手段分担率:国交省都市局「都市モニタリングシート

福岡市は鉄道が人の流れを担っている

私が作っている「全国交通流動マップ」を使って鉄道と道路の流動を見ると、熊本と福岡の違いが際立つ。熊本が橙色の一般道で占められている。それに対し福岡は、赤の高速道路だけでなく、黄緑の地下鉄・西鉄や、緑のJRが都市交通にかなり分担されていることがわかる。

福岡は、1980年代から都市高速ができていったのと同時に、地下鉄建設や国鉄・JRの本数増加が行われてきた。その結果、熊本の2倍以上の都市圏規模ながらも渋滞をある程度抑えられているのである。

全国交通流動マップで比較する熊本と福岡

都市高速は経済策?

道路整備で渋滞が緩和するとは限らない

実は都市高速を造っても渋滞が緩和するとは限らない。道路が便利になった分、車の利用が増える「需要誘発効果」により、結局また渋滞するからである。熊本東バイパスが2005年に4車線から6車線に拡幅され、開通後は大きく渋滞が緩和したものの最近はまた渋滞しているのが典型である。

「熊本都市圏連絡道路経済効果等検討会」の座長でもある、熊本大学の円山琢也教授による、東京の環状高速道路を対象とした20年前の研究では、誘発効果を考慮しないと利用者便益を2倍過大評価するという結果が得られている。海外には「道路を広くすると渋滞はさらにひどくなる」という研究があるくらいである。

産業道路など都市高速と並行する放射路線の渋滞は緩和すると考えられる。一方で、都市高速から離れたエリア、中心市街地、環状道路である熊本東バイパスなど、都市圏全体の渋滞が緩和するとは限らない。

渋滞解消というより渋滞回避・経済振興

もちろん、ひとたび高速に乗ってしまえば、渋滞する一般道を回避して、九州道や空港まで一足飛びで行けるようになるのは間違いない。公共交通としても、リムジンバスだけでなく、福岡で西鉄が走らせているような郊外路線バスの速達化にも効く。旅行、空港利用者、物流への時間節約や活性化の効果は高いだろう。

2022年8月に官民により発足した「熊本都市圏3連絡道路建設促進協」も、民間メンバーは商工会議所や経済同友会など経済界が中心のようである。地域間競争に勝って経済を活性化する起爆剤として期待されている。

熊本市「熊本都市圏3連絡道路建設促進協議会の発足について」より

熊本市の検討会でも、平常時の定量効果としては、消費増加と物流効率化で占められている。都市圏全体の渋滞への影響は今後精査していくのだろう。

第3回熊本都市圏連絡道路経済効果等研究会「10分・20分効果の整理による効果について」より

諸外国では都市高速を撤去する例も

諸外国では、景観に優れた良好な都市空間創出のため、都市高速を撤去したり、地下化する事例が出てきている。アジアではソウルが有名である。日本の首都高速においても、都心環状線の地下が計画されている。

国土交通省資料より

道路と公共交通のバランスの良い投資が必要

公共交通の35倍の道路予算

熊本市の主要予算事業(コロナ前の2019年度)では、バスの補助金を中心とした公共交通予算は5.2億円に対し、道路の主要事業は184億円と35倍の開きがある。

公共交通の民間事業・運賃収入依存

日本以外の国では、公共交通は公共サービスと目されており、運賃収入の割合=収支率は3割前後と、大赤字が一般的である。それに対して日本では、運賃収入による独立採算が基本とされ、赤字=補助金=悪という風潮になりがちである。

国土交通省「クロスセクター効果「地域公共交通 赤字=廃止でいいの?」」より

熊本の公共交通の収支率はコロナ前の2019年で、路線バスが61%(熊本市路線だけなら80%以上)、市電が86%と諸外国に比べて非常に高い数字である。逆に言えば、そのコストの範囲内で走らせているため、本数が少なく利便性が低く、利用もされないのである。

道路と公共交通の投資の「ベストミックス」を実現してくれる議員は?

熊本市や熊本県では、公共交通と自動車交通を効率的に組み合わせる「ベストミックス」を目指している。しかし実態としては、交通分担率は公共交通5.9%に車64.4%と11倍、予算は公共交通5.2億に道路184億と35倍の開きがあり、ベストミックスとは程遠い状況である。

熊本市グランドデザイン改訂資料より

都市高速は、空港や高速道路が中心部から遠いという熊本の弱点を補う非常にインパクトの大きな政策だが、実現に数千億円・数十年かかり、車依存を進める面も持つ。熊本県が進める空港アクセス鉄道との二重投資でもある。渋滞解消を迅速かつリバウンドを防ぎながら行うためには、都市高速の有無にかかわらず、公共交通への投資も欠かせない。

熊本市に限らず、岡山市、那覇市など100万人前後の地方都市圏では、同じように車依存から抜けられず渋滞に苦しんでいる。いち早く渋滞・車依存から脱し、TSMC進出に沸く熊本都市圏の長期的成長を支えられるかどうかは、議会にもかかっているだろう。

➡(3) 選挙公報の政見総チェック 編 に続く


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