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熊本市議選の交通争点 (4)「車1割削減・渋滞半減」を目指すのか?
明日2023/4/9(日)は統一地方選挙で、熊本市議と熊本県議の改選が行われる。本記事は、熊本で関心事・争点となっている渋滞解消に、各政党・候補がどのような方針を掲げているか、報道と選挙公報から調べた上で、熊本の都市交通のあり方を考えた4回シリーズである。
本編のテーマは、熊本の都市交通計画のこれまでとこれからです。
「これまで」の熊本の都市交通計画
渋滞の背景は車の増加と公共交通・自転車の減少
熊本都市圏の交通計画の大元は、熊本県・熊本市などの関係者で構成する協議会が策定した「熊本都市圏総合交通戦略」である。そこでは、渋滞の恒常化の背景は、自動車分担率の増加と記されている。公共交通や自転車の利用減少の裏返しである。道路整備を進めてはいるものの、それは車の需要を増やすことにもつながり、渋滞は解消していない。
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横ばいの公共交通利用目標
総合交通戦略の目標値は、公共交通の人口カバー率、利用者数ともにほぼ「横ばい」である。つまり熊本市の交通政策はそもそも、公共交通の利用の大幅増を狙ったものではなく、現状維持のためのものとも言える。一方で道路の渋滞時の平均速度は23.1km/h→28.0km/hへの向上が見込まれている。公共交通が横ばいのままで、どのように渋滞緩和を実現するのだろうか? 対象期間10年のうち7年経過したが、現在どのような状況・数値だろうか?
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「これから」の熊本の都市交通計画
このように半世紀、車依存を進めてきた熊本の都市交通にも、急激に新たな動きが生まれている。
市長は「車1割削減・渋滞半減」を目指す
一方、2022年11月に再選された熊本市の大西一史市長は、マニフェストの「交通」の章の最初を、「ピーク時の自動車交通を1割削減し交通渋滞の半減を目指します。【任期中実現】」と結んでいる。
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これは、東京大学らと進めている私たちの研究「熊本都市交通リノベーション」の成果に基づく政策である。激しい渋滞も、実は交通量が1割程度減れば大きく速度が向上することが、交通工学ではよく知られている。それを熊本で実践できれば、渋滞は解消するだろう。
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バス会社は利用者2倍を目指す
熊本のバス会社5社による共同経営推進室は、マーケティングと官民連携により、2030年までに利用者数を2倍に増やす戦略を策定し、動き始めている。
2倍というととんでもない目標に聞こえるが、車の分担率64%のうち1割が、元々6%の公共交通に転換すれば12%と倍増するのである。バス会社の努力だけでは不可能なため、どのように公共投資を行っていくか、運賃を誰が負担するかといった視点でも検討されている。
これまで、渋滞→バス遅延→バス離れ→車増加→渋滞… と負のスパイラルを50年間回し続けてきた熊本のバスが生まれ変われるか、正念場である。
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市民参加型で進められる欧州の都市交通計画(SUMP)
都市交通計画は本来、行政や交通事業者だけのものではない。EU諸国で用いられている「持続可能な都市モビリティ計画(SUMP)」では、どのような都市にしたいのかというビジョンの策定から、市民と対話的に進めることが推奨されている。
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長野県松本市の「公設民営化」の合意形成
日本においても、例えば長野県松本市では、バスの「公設民営化」について、「キックオフ会議」「多事争論会」をはじめ、6ブロック・16地区ごとの意見交換会が行われるなど、1年半かけて合意形成された上で、2023年4月より「ぐるっとまつもと」という新たなブランドとともに再スタートしている。
熊本市においても、決まったことを降ろす「説明」ではなく、ビジョン策定から政策選択まで、上流の段階から市民と対話的に進める計画プロセスを期待したい。
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渋滞解消のカギを握る総合交通戦略の改訂
市長やバス会社の非常に前のめりな目標設定に反して、熊本市の政策の実態は、先述の横ばい計画のスケール感のままである。
肝である総合交通戦略は、2023年度のパーソントリップ調査を元に、2024年度以降に改訂されることになっている。そこから10年の渋滞状況はその計画次第とも言える。その審議に足る知見を持ち、前のめりな市長やバス事業者らと協働し、市民と対話的なプロセスを作れるかという視点で、議員を選んでも良いかもしれない。
私自身は、半分ほど熊本に滞在し都市交通の研究活動をしているが、住民票が東京にあるため投票できず残念である。(おわり)
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