高野光平(こうの・こうへい)

日常のできごとや昭和・平成の話など。1~3週間ごとに更新。 茨城大学人文社会科学部教…

高野光平(こうの・こうへい)

日常のできごとや昭和・平成の話など。1~3週間ごとに更新。 茨城大学人文社会科学部教授。1972年生まれ。著書に『発掘!歴史に埋もれたテレビCM』(光文社新書)『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)『失われゆく仕事の図鑑』(共著、グラフィック社)など。

最近の記事

「エグい」はやってる?

去年からだと思うのだが、SNSで若い人が「エグい」をやたらと使っているのを見かける。 「まって!〇〇くんリアコすぎてエグい」 「〇〇の歌唱力、エグない?」 「これひとつで一日分のビタミン摂れるのエグい」 「雨あがりの夕日ほんまエグい」 「彼氏の向上心エグい」 「朝から行列ならぶのエグい」 Xからの引用と私の創作が混ざっているが、だいたいこんな感じの使い方だ。 お笑いコンビ・エルフの荒川さんは、関西のギャル語をデフォルメ気味に使いこなすが、彼女はTikTokでこんなことを

    • 大谷翔平にみる理系と文系の違い

      大リーグ7年目のシーズンを送る大谷翔平が、移籍したロサンゼルス・ドジャースで活躍を続けている。 今シーズンの大谷は、OPS(出塁率+長打率)、安打数、得点、打率、本塁打、打点など、多くの主要部門でナ・リーグのトップ3に入っていて、まさに大活躍である。 その一方で、得点圏打率が低いとか、3ランがないとか、チャンスに弱いことがしばしば批判されている。 たしかに7月13日時点では、打率.312(ナ・リーグ2位)に対して、得点圏打率.239(ナ・リーグ54位)で、チャンスに打て

      • 「態々」って読める?

        忖度(そんたく)は、すっかり日常的に使われる言葉になった。 2017年の森友学園問題で、官庁が権力者の意向をくんで自ら動いたことを「忖度」と表現して、ちょっとした流行語になった。 前年の2016年にも、天皇陛下の「お気持ち表明」をうけた生前退位の議論の中で、直接的な言及を避けられた陛下のお気持ちを「忖度」する、という表現が用いられている。 このあたりから、私たちは忖度という言葉を気軽に口にするようになった。しかし、それ以前、忖度はたまに本で見るていどの珍しい言葉で、難読

        • 広告とコタツ記事

          去年から、Webでニュース記事を読もうとすると、この先に進みたければ広告を見ろ、と言われて足止めされることが増えた。次のようなメッセージが表示される。 私は、ある芸人がイギリスのオーディション番組に出演して、評判をとったという記事を読んでいた。ほほう、どんな芸だったんだろうと思って、画像ページに進もうとしたらこれが出てきた。 こういうとき私はいつも、「あ、じゃあいいです」と心の中でつぶやいて、ブラウザをそっ閉じする。 足止めされたことで我にかえり、別にそこまでして見たく

          セルフレジが苦手

          水戸駅近くの某コンビニは、3台のレジのうち2台がセルフレジだ。 私はホテルに泊まるので、残業で遅くなったら、その日の夕食とか、翌日の朝食とか、飲み物とか、いろんなものをコンビニで買う。7点も8点も買うので、セルフレジはかなり難易度が高い。できれば店員さんにやってほしい。 でも、唯一の対人レジが閉じていて、店内を見渡しても店員さんが見つからないことがある。レジの前で、「すいませーん」と遠慮ぎみに言っても反応がない。 コンビニ中に響きわたる声量で「スイマセエエエェェェン!!

          「ブギウギ」を見終えて

          少し前のことになるが、NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」が終わった。朝ドラはちゃんと見る作品と見ない作品があるが、「ブギウギ」は全話を見届けた。 わたしが笠置シズ子に出会ったのは小学生の頃だ。父がNHK-FMの「ひるの歌謡曲」という番組をエアチェックして何十本もテープを作っていたのだが、その中の一本に「買物ブギー」が入っていて、気に入ってよく聴いていた。 1970年代後半の放送を録音したものだと思うが、「わしゃ聞こえまへん」のところは修正前の、差別語を含む歌詞だったのを

          エイプリルフールは苦手

          新年度になりました。新年度の初日はいつもエイプリルフールですが、私はあまり好きではないです。とくに、Xのエイプリルフールネタが苦手。 10年前はそんなことはなかった。リアルと虚構をないまぜにするTwitterと、エイプリルフールの相性はバツグンに良かった。ウソがセンスの良いネタでありえた。 でもいまは違う。リアルと虚構のバランスが崩れ、虚構が増えすぎた。タイムラインにはフェイクニュース、パクツイ、AI投稿、インプレゾンビが横行していて、その中でウソをついてもなんの面白味も

          こぼれ落ちる311の記憶

          東日本大震災から13年がすぎた。 あの日、私は水戸にいて、激しい揺れに見舞われたので、個人的な震災の記憶がある。見た光景や、聞いた音だけでなく、何を感じたか、何を考えたかも覚えている。 しかし、記憶が風化しているような気がする。自分の中でも風化しているし、日本社会の中でも風化しているように思う。せっかくだから、忘れる前に記しておきたい。 ニュージーランド地震の残像 強烈な揺れが来たとき、最初に頭をよぎったのは「建物が崩れたらどうしよう」ということだった。 というのも

          ACジャパン「聞こえてきた声」

          ダイハツの不正や、能登の地震の影響で出稿とりやめが相次いだのか、年末年始、穴埋め用と思われるACジャパンのCMをよく見かけた。その中に、ジェンダー平等を啓発する作品があった。去年から流れていたらしいが、私はこの正月にはじめて目にした。 ジェンダーが固定しがちなさまざまな場面をマンガの吹き出しで表現して、男性・女性どちらの声で聞こえましたか、と視聴者に問いかける。 このCMが面白いのは、コチコチのジェンダーステレオタイプだけでなく、意見が割れそうなものが適度に混ざっているこ

          ACジャパン「聞こえてきた声」

          演歌と紅白

          2023年も紅白歌合戦を楽しんだ。ここ30年くらい、一回だけディズニーランドで年を越したのをのぞいて、大みそかの夜は紅白を見て過ごしている。 2年前のnoteで、私はこんなことを書いた。 紅白歌合戦における流行歌の多文化共生は、年々クオリティが上がっている。2023年の紅白もすばらしい共生ぶりだった。ジャニーズが急にいなくなったけど、しっかりとバランスを保っていた。 そんな中で、演歌(と歌謡曲系)は少し元気がなかった気がする。演歌はもっと存在感を見せつけられたのではない

          父の誕生日と機銃掃射

          今日は父の85歳の誕生日である。昭和13(1938)年12月27日、和歌山県和歌山市で生まれた。ただし戸籍上は、キリがいいので昭和14年1月1日になっている。むかしの戸籍はそんなものらしい。 2017年4月10日に母が病気で亡くなって、父は6年半、所沢の家でひとり暮らしを続けている。体はじょうぶで足腰もしっかりしている。ほぼ毎日、片道40分かけて所沢駅前のデパ地下まで歩き、年2回、ひとり旅をする。今年の春もひとりで伊豆に行き、唐人お吉が身投げした場所を見た!と楽しそうに話し

          SNS使い分け問題

          私はいろんなアプリで情報発信していますが、ときどき、種類が多すぎて頭が混線することがあります。 Xの本アカと趣味アカ、Instagram、Facebook、YouTubeチャンネル、そしてnote。ちょっとやりすぎではないか。 整理のために図をつくってみました。 YouTubeは週に2枚、アナログレコードをデジタル化してアップします。 noteは月に1~2本エッセイを書きます(もっと間が空くこともあるけど)。 Instagramは日常のできごとを月数回くらいアップ。ス

          J-WAVEで出会った歌

          奥さんは自宅勤務中によくJ-WAVEをかけるので、わたしもお付き合いして聴くことがあります。ある日、とても自分好みの歌声が聴こえてきました。ちょっと音程がうわずる感じの、独特の歌い方で、やさしいバラード。 J-WAVEはかけた曲をWebサイトに表示してくれるので、さっそく調べてみると、mikiさんというシンガーの「Smile, Smilin'」という曲らしい。 YouTubeで検索したら、ありました。でも公式ではなく、ファンの方があげた動画で、しかも8年前のアップロードな

          Amazonの星3.2

          わたしのデビュー作は、2018年に出した『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)。Amazonの星は3.2です。 低いです。こんな星がついてしまったらもう買ってくれる人はいないんじゃないかと、半ばあきらめています。 点数が低い原因は、星1つをつけた人がいるから(ヘッダ画像を参照)。 たしかにクセの強い本なので、賛否両論あるのはわかります。星5つの人がいれば、星1つの人もいる。そういう本です。 旧Twitterでは、音楽研究者が何人もよい評価をしてくださいました。一方で、『図

          訃報と向きあう

          昭和の文化に興味をもち、趣味として楽しむ人にとって、訃報は避けて通れないものだ。最近も、谷村新司や財津一郎の訃報が届き、わたしはその死を悼(いた)んだ。 子どものころから有名人の訃報は切れ目なく届いていた。片岡千恵蔵が亡くなったとか、江利チエミが亡くなったとか、そういうのは小学生から新聞で読んでいた。年末のニュース特番で、その年に亡くなった人のありし日の映像が流れると、わたしは食い入るように画面を見つめたものだ。 当時は、悲しいという感情ではなかったと思う。追悼が帯びる、

          ジャニーズ問題とレトロブーム

          故・ジャニー喜多川氏による途方もない性加害問題のゆくえを、私も興味をもって見守っています。ジャニーズ事務所にかぎらず芸能界全体に、権力関係を利用した性加害、あるいはその一歩手前のセクハラパワハラが、昔から数えきれないほどあったとよく聞きます。 そうした旧弊は、昭和のみならず平成以降も根強く残っていましたが、近年の人権意識の高まりや#MeToo運動の広がり、そしてダイバーシティが当たり前になっていく大きな流れの中で、次々とあぶり出されてきました。ジャニーズ問題もその一環なので

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