高野光平(こうの・こうへい)

茨城大学人文社会科学部教授。1972年生まれ。著書に『発掘!歴史に埋もれたテレビCM』…

高野光平(こうの・こうへい)

茨城大学人文社会科学部教授。1972年生まれ。著書に『発掘!歴史に埋もれたテレビCM』(光文社新書)『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)。編著に『[新版]現代文化への社会学』(北樹出版)。共著に『失われゆく仕事の図鑑』(グラフィック社)など。

最近の記事

「ブギウギ」を見終えて

少し前のことになるが、NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」が終わった。朝ドラはちゃんと見るときと見ないときがあるけど、「ブギウギ」は全話を見届けた。 私と笠置シズ子の出会いは小学生のときだ。父がNHK-FMの「ひるの歌謡曲」という番組をエアチェックして何十本もテープを作っていたのだが、あるテープに「買物ブギー」が入っていて、子どもごころに気に入ってよく聴いた。70年代後半の放送だと思うが、「わしゃ聞こえまへん」のところは修正前の歌詞だった。 「やっぱりカネヨンでんな」のお

    • エイプリルフールは苦手

      新年度になりました。新年度の初日はいつもエイプリルフール。私はあまり好きではないです。とくに、Xのエイプリルフールネタが苦手。 10年前はそんなことなかった。リアルと虚構をないまぜにするTwitterと、エイプリルフールの相性っていいなあと思っていました。でも、これだけフェイクニュース、パクツイ、AI投稿、コピペ系インプレゾンビなどがシャレにならないレベルで横行すると、むしろXとエイプリルフールはいちばん相性が悪いとすら思う。とにかく空気読めてない感がすごい。 Xユーザー

      • こぼれ落ちる311の記憶

        東日本大震災から13年がすぎた。 あの日、私は水戸にいて、激しい揺れに見舞われたので、個人的な震災の記憶がある。見た光景や、聞いた音だけでなく、何を感じたか、何を考えたかもいろいろと覚えている。 しかし、この感情や思考の部分が年々、風化しているような気がする。自分の中でも風化しているし、日本社会の中でも風化しているように思う。せっかくだから、忘れ去られる前に記しておきたい。 ニュージーランド地震の残像 強烈な揺れが来たとき、最初に頭をよぎったのは「建物が崩れたらどうし

        • ACジャパン「聞こえてきた声」

          ダイハツの不正や大地震の影響で出稿とりやめが相次いだのか、年末年始、穴埋め用と思われるACジャパンのCMをよく見かけた。その中に、ジェンダー平等を啓発する作品があった。去年から流れていたらしいが、私はこの正月にはじめて目にした。 ジェンダーが固定しがちなさまざまな場面をマンガの吹き出しで表現して、男性・女性どちらの声で聞こえましたか、と視聴者に問いかける。 このCMが面白いのは、コチコチのジェンダーステレオタイプだけでなく、意見が割れそうなものが適度に混ざっていることだ。

        「ブギウギ」を見終えて

          演歌と紅白

          2023年も紅白歌合戦を楽しんだ。ここ30年くらい、一回だけディズニーランドで年を越したのをのぞいて、大みそかの夜は紅白を見て過ごしている。 2年前のnoteで、私はこんなことを書いた。 紅白歌合戦における流行歌の多文化共生は、年々クオリティが上がっていると感じる。2023年の紅白もすばらしい共生ぶりだった。ジャニーズが急にいなくなったけど、しっかりとバランスを保っていた。 そんな中で、演歌(と歌謡曲系)は少し元気がなかったような気がする。演歌はもっと存在感を見せつけら

          父の誕生日と機銃掃射

          今日は父の85歳の誕生日である。昭和13(1938)年12月27日、和歌山県和歌山市で生まれた。ただし戸籍上は、キリがいいので昭和14年1月1日になっている。むかしの戸籍はそんなものらしい。 2017年4月10日に母が病気で亡くなって、父は6年半、所沢の家でひとり暮らしを続けている。体はじょうぶで、足腰もまだしっかりしている。ほぼ毎日、片道40分かけて所沢駅前のデパ地下まで歩き、年2回、ひとり旅をするくらい元気だ。今年の春もひとりで伊豆に行き、唐人お吉が身投げした場所を見た

          SNS使い分け問題

          私はいろんなアプリで情報発信していますが、ときどき、種類が多すぎて頭が混線することがあります。 整理のために図をつくってみました。 色のついた楕円がオリジナルコンテンツです。 YouTubeは週に2枚、アナログレコードをデジタル化してアップします。 noteは月に1~2本エッセイを書きます(もっと間が空くこともあるけど)。 Instagramは日常のできごとを月数回くらいアップ。ストーリーも月数回。noteの更新時はストーリーにリンクを貼ります。 Xはアカウントがふ

          J-WAVEで出会った歌

          奥さんは自宅勤務中によくJ-WAVEをかけるので、わたしもお付き合いして聴くことがあります。ある日、とても自分好みの歌声が聴こえてきました。ちょっと音程がうわずる感じの、独特の歌い方で、やさしいバラード。 J-WAVEはかけた曲をWebサイトに表示してくれるので、さっそく調べてみると、mikiさんというシンガーの「Smile, Smilin'」という曲らしい。 YouTubeで検索したら、ありました。でも公式ではなく、ファンの方があげた動画で、しかも8年前のアップロードな

          Amazonの星3.2

          わたしのデビュー作は、2018年に出した『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)。Amazonの星は3.2です。 低いです。こんな星がついてしまったらもう買ってくれる人はいないんじゃないかと、半ばあきらめています。 点数が低い原因は、星1つをつけた人がいるから(ヘッダ画像を参照)。 たしかにクセの強い本なので、賛否両論あるのはわかります。星5つの人がいれば、星1つの人もいる。そういう本です。 旧Twitterでは、輪島裕介さんや柴崎祐二さんなど、音楽研究者が何人もよい評価を

          訃報と向きあう

          昭和の文化に興味をもち、趣味として楽しむ人にとって、訃報は避けて通れないものだ。最近も、谷村新司や財津一郎の訃報が届き、わたしはその死を悼(いた)んだ。 子どものころから有名人の訃報は切れ目なく届いていた。片岡千恵蔵が亡くなったとか、江利チエミが亡くなったとか、そういうのは小学生から新聞で読んでいた。年末のニュース特番で、その年に亡くなった人びとのありし日の映像が流れると、わたしは食い入るように画面を見つめたものだ。 当時は、悲しいという感情ではなかったと思う。追悼が帯び

          裏と表:ジャニーズ問題とレトロブーム

          故・ジャニー喜多川氏による途方もない性加害問題のゆくえを、私も興味をもって見守っています。ジャニーズ事務所にかぎらず芸能界全体に、権力関係を利用した性加害、あるいはその一歩手前のセクハラパワハラが、昔から数えきれないほどあったとよく聞きます。私もたぶんそうなんだろうと思っています。 そうした旧弊は、昭和のみならず平成以降も根強く残っていましたが、近年の人権意識の高まりや#MeToo運動の広がり、そしてダイバーシティが当たり前になっていく大きな流れの中で、次々とあぶり出されて

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          レトロなMV

          私の好きなカナダのバンド、Men I Trustが今年の2月に公開した「Ring of Past」のMV。 説明文によると、1979年に制作されたショート・フィルム"Canada Vignettes: Love on Wheels"にオリジナルの音楽をつけたものだという。戻れない過去への切ない思いが淡々とつづられる歌だ。 元の映像作品はこちら。カナダ国立映画制作庁のアーカイブより。 わたしは、昔のレトロ映像に、今のレトロな音を合わせたこのような作品が好きだ。 過去と現

          評論エッセイのコツ

          社会や文化のさまざまなできごとについて、客観的な資料やデータにもとづいて、論理的に考察をくわえ、理路整然と自説を述べる。これを評論と呼ぶとします。 社会や文化のさまざまなできごとについて、思いついたことを、やわらかい文章で自由気ままに書き連ねて、個人的なエピソードなんかも面白おかしく絡めていく。これをエッセイと呼ぶとします。 わたしは、評論とエッセイの中間くらいの文章を書くのが好きです。読むのであれば、どちらかに振り切ったほうが好きなのだけど、書くのは中間がいい。私はそれ

          平成レトロ

          大学の授業で、私の専門の昭和レトロ研究についてしゃべったところ、先生は平成レトロについてどう思うか、という質問を受けた。 平成は数年前まであったのだから、レトロと言うのはおかしい、平成ポップみたいな言い方がよいのでは、という意見がありますが、これについて先生はどう思いますか。という主旨の質問だった。 「平成レトロ」という適当さの是非 私もそのような意見をTwitterで見かけたことがあるが、呼び方についてちょっとこだわりすぎかな、という印象を受けた。呼び方なんて、もっと

          広告主のCM保存に望むこと

          テレビ局から、古いCM素材についてしばしば問い合わせを受ける。 「昭和のとあるCMを番組で使いたいのだが、広告主も制作会社も映像を持っていないようだ。どこかに保存されてませんか?」 私はこういう問い合わせがあるたびに、映像が保存されていそうなところをいくつかあたって、見つかったら情報提供してきた。しかし残念ながら、見つからないほうが多い。 こうしたやりとりの中で痛感するのは、思いのほか多くの広告主が、過去のCMを適切にデジタル保存しておらず、自ら映像を提供できない状態に

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          夢に出てくるエレベーター

          TikTokのおすすめに、どこかの国のドッキリ番組が出てきた。ターゲットの人物がエレベーターに乗ると、エレベーターが急激に上昇を始めて止まらなくなり、ついには空に向かって飛び出していくという内容だ。乗っていた人はみな、驚いて座り込んでしまう。 もちろんこれはトリックで、ターゲットがエレベーターだと思って乗ったのは、遊園地によくあるアトラクションである。ガラス張りで外が見えるとみせかけて実はスクリーンで、急上昇する様子を再現した映像が映し出されている。映像とシンクロして部屋が

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