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演歌と紅白

2023年も紅白歌合戦を楽しんだ。ここ30年くらい、一回だけディズニーランドで年を越したのをのぞいて、大みそかの夜は紅白を見て過ごしている。

2年前のnoteで、私はこんなことを書いた。

歌謡曲という巨大なひとつのジャンルが終焉し、流行歌が細分化していった平成(1990年代)以降、紅白はもはや成立しない、限界だと言われ続けてきました。しかし、まさにその1990年代から毎年紅白を観るようになった私に言わせれば、そんなふうに統一感のなさを抱えながら、試行錯誤と迷走を繰り返してきた紅白こそが本来の紅白であり、それこそがまぎれもない紅白らしさなのです。

ポップスと演歌、若者と老人、新人と大御所、今の歌と昔の歌、ホールの中で歌う人とホールの外で歌う人、おなじみの出演者とサプライズなビッグゲスト……様々なぎこちなさと噛みあわなさを抱えながら、しかしそれを緻密な台本と演出で乗り越えて、ギリギリの調和を生み出していく。

そこには流行歌の多様性、あるいは流行歌の多文化共生と呼ぶべき状況が現れています。私が愛してきたのはそんな紅白歌合戦です。

紅白歌合戦における流行歌の多文化共生は、年々クオリティが上がっていると感じる。2023年の紅白もすばらしい共生ぶりだった。ジャニーズが急にいなくなったけど、しっかりとバランスを保っていた。

そんな中で、演歌(と歌謡曲系)は少し元気がなかったような気がする。演歌はもっと存在感を見せつけられたのではないか。それが残念だ。

天童よしみ「道頓堀人情」、水森かおり「日向岬」、坂本冬美「夜桜お七」、石川さゆり「津軽海峡・冬景色」、純烈「だってめぐり逢えたんだ」、山内惠介「恋する街角」、三山ひろし「どんこ坂」

元気がないように見える理由を自分なりに考えてみた。

第1に、新曲よりも旧曲のほうが多い。2023年に発売されたのは水森、純烈、三山の3曲で、天童、坂本、石川、山内が披露したのは過去のヒット曲だ。旧曲が混ざるのは多様性があっていいのだが、あくまで新曲優位じゃないとジャンルの勢いを感じられない。

第2に、メンバーや楽曲が固定化している。今回の7組は全員、2021年も2022年も出演した。それ以外の歌手は、活動休止した氷川きよし(2021・2022年)と細川たかし(2021年)のみ。はなはだしい硬直ぶりだ。

楽曲も変化に乏しい。「夜桜お七」は紅白9回目、「津軽海峡・冬景色」は紅白13回目の披露だ。正直、もういいんじゃないか。何十年も同じ曲を歌い続けて、「待ってました!」と声がかかるのは演歌の醍醐味で、そこに美学があるのは分かる。でも紅白のこの2曲は、マンネリがプラスに作用しているとは思えず、もうワクワク感に包まれていない。

これらは2023年だけでなく、ここのところずっと見られる傾向だ。演歌枠のようなものがあるとして、その使い方はこれが正解なのだろうか。業界の秩序とか、事務所の力関係とか、いろいろあるのかもしれないが、紅白という晴れ舞台で、2023年の演歌の最新形をもっと表現できないものか。

偉そうなことを言えるほど私は詳しくないのだが、たとえば演歌なら市川由紀乃「花わずらい」とか、歌謡曲系なら新浜レオン「捕まえて、今夜。」とか、私でも知っている直近のヒット曲があるのに、そういうのを日本国民にアピールしなくていいのか。あるいは、強烈な個性の真田ナオキが、いつまでも世間に見つからなくていいのか。

https://www.youtube.com/watch?v=xlXtXoA3UeY

https://www.youtube.com/watch?v=kmck48dLoe8

ドミノとかけん玉とか、お笑い芸人とのコラボとか、K-POPアーティストのダンスサポートとか、紅白ならではのギミックも楽しいんだけど、そんなものに頼らなくても、曲と歌の良さだけで勝負できるのに。

紅白は、演歌ファン以外が演歌に注目するほとんど唯一の機会なのだから、もっと業界全体で戦略的に活用すべきではないか。私が言うまでもなく、そんなことはさんざん議論されているのだろう。でも、その結果がこれだとすればちょっと違うんじゃないか。

演歌のサステナビリティを考えるなら、若手を積極的に起用して、メンツを固定化しないほうがいいはず。紅白の多文化共生に寄与する意味でも、私はそれが正解だと思う。

もちろん人選のイニシアティブはNHK側にある。ただ、NHK側が演歌をあまり愛してないというか、信用してないのかな。おざなりとまでは言わないけれど、熟慮した結果がそれなのかと首をかしげる。純烈がNHKプラスの宣伝に利用されたのも、なんだかなあと思ったし。

演歌も日々進化しているし、とりわけ男性歌手はアイドル的な需要があって、けっして衰退しているわけではない。そのことを世間にアピールしたいなら、旧曲を使ってヘンなコラボをするんじゃなくて、曲のよさや歌のうまさをストレートに伝えればよいではないか。

いまの構成では、「やっぱり演歌がいちばん歌がうまいね」ってあんまりならないと思う。それは演歌にとってアイデンティティの危機だ。レベチの歌唱力を見せつけるには、余計なギミックなしで、いちばん旬の歌手が、いちばん旬の歌をうたわないと。はたして今、そうなっているのか。

演歌ファンのみなさんはどう感じているのだろう。演歌ファンにとって現状がベストであれば、外野の私がどうこういう話ではないのだけれど。