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すべてを嫌う幼さを隠し持ったまま

様々な文章を読む日常。
簡潔に要点のみ伝えるニュース記事から、好きな作家の作品、また個人で書いた物語まで。

多いのはやはり作家と呼ばれる職業の方々が書いた作品だろう。才能に溢れたその文章は現実を超えた世界を見せてくれたり、静謐な精神世界へといざなったりしてくれる。文章は作家の、というより執筆する人間の根幹となるものを宿すと思っている。

中にはもちろん自分には合わない作品だってあるだろう。人間がみんな同じ価値観ではないように。
まずその作品が嫌いだと思うに至るには、たぶん自分には無い価値観がそこにあるのだと思う。理解し難い世界観。それは別に良いとか悪いとかではなく、その人の生きてきた過程で何を経験し、何を感じてきたかにもよるのだろう。

よく好き嫌いを分つ作品として村上春樹氏の『ノルウェイの森』が挙げられる。
私は父の影響でビートルズの音楽がいつも身近にあった。その中で特に心を掴まれたのが『ノルウェイの森』。現実とも空想ともつかぬどこか鬱屈とした部屋の風景をジョン・レノンの気怠い声が歌い上げている。

そのタイトルを同じくする作品は手に取らずにいられなかった。そしてその深い森の中を彷徨うような精神世界はビートルズの曲の世界観そのままに、私は読後しばらく自分がどこにいるのか意識が飛びそうになったことを鮮明に覚えている。
後にも先にもそんな体験はこの作品だけで、それから村上春樹氏の世界観には自分の世界観を重ねるような特別な思いがある。

と、例が長くなってしまったけれど、何の作品にしても「嫌い」と言ってしまうのはもったいないなと思ってしまう。まあ嫌いなものは嫌いなのが正直なところなのだけれど、自分のこれからの人生の中で許容するものが広がっていくかもしれないとの自戒を込めて。

嫌うという言葉はスピッツの『スターゲイザー』の歌詞の断片を思い出させる。

♪すべてを嫌う幼さを 隠し持ったまま
 正しく飾られた世界で

 明かされていく秘密 何か終わり また始まり
 ありふれた言葉が からだ中を巡って 翼になる

私の中にある「すべてを嫌いがちな幼さ」は、様々な体験を重ねながらゆっくりと変化し、いつか私の生きる翼となってくれる時がくるのかもしれない。

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