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学生服リユースショップさくらや研究【学生服×SDGs編その1】

 国連が提唱する「SDGs=持続可能な開発目標」では、2030年までに「誰ひとり取り残さない」世界を達成するために、17の目標が定められています。その1番が「貧困をなくそう」。「学生服リユースショップさくらや」を創業した馬場加奈子社長が、なぜSDGsに関わるようになったのか。そのプロセスを追っていきます。

来店客の多様な背景

 馬場さんが「学生服リユースショップさくらや」をオープンしたきっかけは、三人の子育てをする中で、子ども達の成長に伴って学生服や体操服を何度も買い替えることの負担でした。周りのお母さと話しても同様の悩みを抱えているようだったので、馬場さんはそうした買い替え需要を想定して「さくらや」をオープンしたのです。そして実際、来店客の多くは子どもの成長に伴ってサイズアップの商品を買いに来る人たちでした。

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 馬場さんが「さくらや」の店舗をオープンしてから2年が過ぎた頃、サイズアップの買い替えではなく、入学の段階で新品の制服を購入することが困難な家庭など、さまざまな背景事情のある来店が見られるようになってきました。

 そうした中で、子ども三人を連れて毎年、早いときには前回「さくらや」で購入してから半年しか経っていないのに、買い替えのために来店するお店さんがいたそうです。しかも、そのたびに違う種類の制服を買い求めるのです。

 高松市内の小学校の女子の制服は、ほとんどがセーラー服なのですが、セーラー部分にある線は、色や線の数が学校によって少しずつ違うそうです。黄色、緑、赤、白、青などの色に加え1本線、2本線、3本線。袖に線あり、線なし。袖は折り返し型だったり。さらに、ネクタイは模様が右下がり、左下がり。リボンは大きめ小さめと色も多様です。

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 短期間で学校を移ることは、制服の買い替え一つを取ってみても経済的負担が大きいはず。馬場さんは思い切って接客中にその点を聞いてみました。

 すると、お母さんから返って来たのは

「DVから逃げるために引越しを繰り返している」

という答えでした。

 転校した際に以前の学校の制服を着用することも認められているのですが、そのお母さんは家庭の理由もあり、母心として目立たないようにしたいとの思いから、行く先々の学校の制服をその都度買い替えており、そのため「さくらや」に来店しているとのことでした。

 馬場さんはひとしきり話を聞いて、一生懸命に子育てをしながら日々の生活を送っているその親子に対して「何も手助けできていない」と無力感を感じるとともに、心を痛めたそうです。帰り際に、その子どもたちに「困ったことがあれば、いつでもさくらやに電話するか、来まいよ(「来なよ」の讃岐弁)」と声を掛けるのが精一杯でした。

困っている家庭のために

 学生服や体操服のリユース品を扱う「さくらや」ですが、ランドセルは商品として取り扱っていません。ランドセルは毎年規格が変更されるからです。学校で配布されるプリントやファイルが大きくなっているため、それに合わせてかランドセルのサイズも年々大きくなっていて、リユース品はすぐに陳腐化してしまうのです。

 とはいえ、ランドセルは制服や文房具や体操服などと比べても高額なものです。そのため、「さくらや」では小学校を卒業した子が6年間使用したもので、まだ使えそうなランドセルを寄付として受け取っているそうです。そのランドセルを、入学準備で困っている家庭に無料で渡して使ってもらっているのです。

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 実際にさくらやでランドセルを渡した事例としては、祖父母が子どもの親の代わりに養育しているケースや、入学式直前なのに家庭でランドセルを用意していないケースなど、様々な事例があったそうです。祖父母が年金暮らしで孫を育てるのは、本当に大変なことでしょう。

 「さくらや」に来店するお客さんは、もちろん一様ではありません。高級車に乗って来店する人、生活に困っているわけではないであろう夫婦共働きの家族、反対に母子家庭で家計をやりくりしながら頑張っているママさんなど、様々な方が来店するそうです。

 子どもの教育費も年々高くなる上に、子どもが将来良い大学に、そして良い仕事に就けるよう塾や習い事に通わせる家庭も多いことでしょう。「さくらや」に来店する人の話では、子どもの習い事だけで1人月々3万円~7万円、塾の夏期講習など10万円超えるとか。お母さんたちは、「働いても働いても、お札に羽根が生えてるかのように…」といった苦労話を「さくらや」のカウンター越しに話すそうです。一方で、母子家庭や祖父母が養育しているような家では塾に行かせたくても難しい世帯もあるのです。

「どんな家庭でも、それぞれに悩みはある」

 馬場さんは、お店で来店客と向き合い、話を聞いては、「制服を通じてまだまだできることはある」と考え続けていました。

続く

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