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黒澤明監督 「生きる」を観て。ネタバレあり

こんなにも素晴らしい映画に出会えたのは、本当に久しぶりでした。

アマゾンプライムにて、東宝映画の無料お試し期間がありました。

早速観ました。

黒澤作品にどっぷり浸りました。

結論からお伝えします。

僕はこの映画から、ミイラになってないか?って考えさせられました。

生きているか?って。


市役所の市民課長が主人公。

普段の仕事をしている様子。そこにナレーションが入り、この男は死んでいると。生きていないと。

一気に引き込まれました。

僕たちがよく見る光景。職場でよく見る光景。

死んでいるって?笑

いや、待てよ。

心当たりがある・・・・・

初めて観るシーンであるにも関わらず、何かどこかで観たシーンなのです。

不思議と共感してしまうのです。

ただただ、書類に目を通して、ハンコを押しているだけのシーン。

そして、ナレーションが入るだけなのに。

今の自分自身と重ね合わされたからなのでしょうか。

この仕事。
一体誰のため?
延々と誰のためになっているかも分からないことをこなすだけ。


主人公である渡辺課長は、小田切みきさん演じる、元同僚にミイラというあだ名を付けられています。

それを言われた瞬間の渡辺課長。

ズドンと心に入った。自分が感じていた、言葉にならないものを、ズドンと言い当てられ、言葉が出てこない。


まさに、僕自身に言われている気がする。

とにかく、あのシーンは痺れました。

生きているけど、死んでいる。

ミイラのように。

渡部課長は胃癌です。あと数ヶ月で亡くなってしまうことが分かっています。

あとちょっとで、30年連続無欠勤の称号を得るところまで来ていた超真面目公務員。

いきなり無断欠勤。

そらそうですよね。

あと数ヶ月の命と分かったら、働いていられません。

渡辺課長は今までの貯金を一気に引き出して、ぶらぶらと街に出て、呑んだくれます。

そこで、ある小説家と出会うのですが、この人がまた良い。

僕にもこんな先輩おった!!

遊びを教えてくれます。

ギャンブル、酒、女・・・・・・・

でも、物足りないんです。こんなことしても。

満たされないんです。

自分を満たそうと思っても、ダメなんですよね。

生きた心地はしないんです。

生きてないんです。

自分を満たすため、自分を満たすため・・・・・

それじゃダメなんです。満たされないんです。寂しいままなんです。結局は孤独なんです。


この後、渡辺課長は自分を大きく変えるきっかけを与えてくれる人に出会います。

渡辺課長をミイラと言った、あの元同僚、小田切とよです。

この人、本当に可愛いんです。

この人はちゃんと生きています。

白黒だけど画面越しに伝わります。エネルギーがすごい。

渡辺課長はたまたま、1日デートすることになります。

この時、生き返ってます。渡辺課長。めっちゃ良い笑顔。楽しそう。笑ってる。観ている僕も思わずニコニコしてしまう。一緒に楽しいデートをしているみたい。ものすごく入り込めました。

夕食を食べているシーンが特に印象的でした。

子どもの愚痴を言っちゃうんです。渡辺課長は。

こんなにも一生懸命息子のため働いてきたのに、退職金がどうとか、全然感謝してくれない。と。

そこで、小田切とよ。

「息子さんに一生懸命働いてくれって、頼まれていたのなら話は別だけど、子供はわからなくて当然じゃない?」「うちもそうだけど、親ってそう言うところあるよね。」

ここで終わりじゃないんです。

「渡辺課長、息子さんが大好きなんですね。」

ここは痺れましたね。

プロの役者の力にジンときました。

とにかく、めーーーーっちゃ良い笑顔!!もう可愛い!!太陽!!女神!!

言葉じゃなくて、表情で、語るってこう言うことなんだって、分かりました。

親だって人間。誰だって、認めてほしい。

本当に大事に育ててきたからこそ、もっと感謝して欲しいと思える。親の苦労もちゃんと汲みして理解できる、小田切とよ最強です。

とにかく、ものすごく生き生きしている、小田切とよが輝かしいんです。

その輝かしさに、渡辺課長は照らされているんです。

だから一緒にいたら、すごく幸せな気持ちになるんです。

「君と一緒にいると、すごく幸せなんだ。君はどうして、そんなに明るい?キラキラしている?生きている?なあ、教えてくれないか?」

渡辺課長が小田切とよに言いよります。

めっちゃ恐怖を感じる彼女。笑

そら、2日連続、定年間近のおじさんにものすごい目力で言い寄られたら、怖い!!笑

しかし、ここで、渡辺課長が不死鳥のように生きるのです。

小田切とよは、「私はウサギのおもちゃをただ作っているだけ。でも、こんなものでも、世界中の子供達と繋がっている気がするのよ。」

この言葉に、渡辺課長はピンときます。

2週間以上、無断欠勤をしていた役所に戻り、市民から訴えがあったにも関わらず、役所の都合で止まっていた土建工事に一気に着手し始めます。

自分のやるべき仕事がようやく分かるわけです。

人の役に立つ仕事をする。人のために働く。

自分のために仕事をするんじゃない。

自分の仕事が、誰かを想ってする仕事になった時、ミイラじゃなくなる。

若返る。

強くなる。

勝手に体が動く。

実現できる。

幸せになれる。

自分以外の誰かのため。自分のやるべきことがわかった時、仕事の意味が分かった途端、人はこんなにも変われるのか。こんなにも力強くなれるのか。噴水のように底力が湧き出してくるのか。パンパンにエネルギーに溢れるのか。目の色が変わるのか(白黒映画なのにそれがわかった)。生きてて良かったと思えるのか。宝石のような笑顔になれるのか。

生きるのか。と。


志村喬さんの名演技はもちろん、映画の構成も今にない構成でとっても魅力的な映画でした。

だって、後半はずっとお通夜のシーンです。

このシーンすごいです。だって、50分くらい、ずっとお通夜なんですもの。

でもずっと観てられます。しかも、実際にその場にいるような感覚にもなります。

役者さんたちがすごい。

あの空間を作り出す役者さんたちに脱帽です。

とにかく、その場にいる感覚になります。

シンプルに3Dです。

いやそれ以上か。

味わったことのない3Dです。


いやあ、本当に面白かった。

自分と向き合える、最高の作品でした。

自分の仕事の意味、もう一度考えてみませんか?

ものすごくおすすめです!!

ぜひ、機会があれば、ご鑑賞ください!!


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