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アメリカのオンライン授業⑨ 実践していること ・ コミュニティづくり編

これまで、米大学のオンライン授業でわたしが実際におこなっている工夫について、カリキュラムコミュニケーションの面からみてきました。

今回は、コミュニティづくりという観点から書いていきたいと思います。

大学生活とコミュニティづくり

アメリカの多くの大学には、学生がキャンパスで寮生活を送りながら、専攻分野などに関係なく、授業や課外活動の場、食堂などで集い、自然にコミュニティができあがっていくような環境がありました。そのため、キャンパスで育まれるネットワークは、計り知れないほどの、密度と広がりをもっていました。わたしの所属する大学も、その例外ではありません。

こうした密なつながりによってつくられた環境は、コロナ禍では危険な場所と見なされてしまうわけですが、学生にとっては、本当にかけがえのない場所でした。そこから突然、去らなければならなかった学生たちは、コロナ禍の世界で、これまでの環境とのギャップをものすごく感じています。

オンライン授業では、同じように密な関係性は築けないにしても、突然コミュニティを失った学生に、また一緒に学びを深める場所を提供することはできます。今回は、そういったコミュニティづくりをオンラインで実践するための工夫についてお話ししていきます。

(1)掲示板で自己紹介をしよう

学期の初めは、先生も学生も、期待に胸をふくらませつつ、どこか緊張気味です。通常は、教室で学生と顔を合わせ、まずは、みんな自己紹介をします。Zoomでも、人数が少なければ同じように自己紹介を行うことができます。でも、同じ場所にいないことで、より意識的にお互いのことを知る機会をつくる必要が出てきます。

そこで、学習管理システムの掲示板に、それぞれの自己紹介を投稿してもらう、という取り組みをしてみました。名前、今いる場所、大事にしていることなど、伝えたいことを伝えたい範囲で、自由に、画像やビデオなどを使いながら投稿してもらいます。

この投稿には、先生も参加します。先生が(支障のない範囲で)自分が授業をおこなう場所の様子を撮影したり、家族がいる場合は、その話をしたり、趣味の話をしたり、普段は出さない生活感を出していくことで、先生である前に、生活者であることを理解してもらいます。また、子どもが乱入してくるなど、先生も完璧でない環境から授業をおこなっていることを受け入れてもらいます。

わたし自身も、今回、自己紹介のためにビデオをつくってみました。自撮りをするなど慣れないことをしたので、正直、抵抗があり、恥ずかしかったのですが、学生には親しみを感じてもらえたようです。また、学生の投稿を通して、それぞれの生活者としての様子もかなり知ることができ、わたし自身も、学生をより身近に感じることができました。

(2)グループ・ワークをとり入れよう

わたしの授業は20人強の学生が参加するセミナーなので、比較的小さい授業なのですが、なかには、何百人も参加する講義を教えている同僚もいます。どの大きさの授業でも、オンライン移行で頻繁に取り入れられたのが、グループ・ワークでした。

20人以上の学生がいる場合、全体のビデオ会議でそれぞれの学生が発言できる機会は限られています。また、全体のビデオ会議だけでは、お互いのことを知る機会がほとんどありません。そこで、わたしは、クラスを4−5人のグループに分けて、学期を通して同じグループで、毎週、課題について議論をしたり、プロジェクトの準備を助け合ったりしてもらうという方法をとっています。同僚のなかには、ペア・ワークといって、二人一組にしている例もあります。

わたしの場合、さまざまな意見をもつ学生同士で議論をしてほしい、コロナ禍でお互いのことを気遣い合い、助け合ってほしい、そして、クラスの中で知っているメンバーを増やすことで、学生同士がよりつながりを感じられるようになってほしいと考えていたため、4−5人で1グループにしました。

グループは、同じタイムゾーンの学生を、専攻分野と学年が入り混ざるように組みましたが、やり方は他にも色々あると思います。

それぞれのグループは、毎週火曜日に、ビデオ会議やチャット、共同作業のドキュメントを使いながら、予習課題について議論します。その時に、毎週、異なる役割をメンバーに担ってもらいます。

・ 1人:書記として、掲示板に話し合ったことを報告する
・ 1人:全体のビデオ会議でグループ代表として発言する
・ その他:掲示板の投稿にそれぞれ2つずつコメントをする

毎週、ちがう役割を担うことによって、学生に色んな立場から議論に参加してもらうことができるようになります。また、全体のビデオ会議で発言がしにくいと感じている学生も、グループの代表として意見を述べることができるので、参加のハードルが低くなります。

この他にも、全体のビデオ会議の際に、ZoomのBreakout Session機能を使い、学生をいくつかのグループに分けて議論をさせることができます。これを使うことによって、異なるグループの学生とも意見を交わす機会を与えることができます。このときも、上記のように、書記と代表の役割を決めてもらい、書記の人には、あらかじめ用意しておいた共同編集ドキュメントに議論した内容を記入してもらいます。そうすると、その場で、他のグループと議論の内容が共有でき、全体の議論に戻った際も、スムーズに授業も進められます。

ただ、わたしのクラスの場合は、火曜日にそれぞれのグループですでに少人数ディスカッションをおこなっているため、木曜日の全体ビデオ会議では、みんなで議論をしたいとの要望があり、先週から、全体で議論をおこなっています。この場合は、Zoomの挙手機能を使いながら、学生に発言してもらっていますが、意外とすんなり会話が進んで驚いています。

(3)学生に役割を与えよう

グループ・ワークで学生に役割を与えることについてお話ししましたが、全体のディスカッションのときにも、学生に役割を与えることによって、クラスに貢献しているという意識が生まれ、クラスの一体感が高まります。

わたしの場合は、全体でのビデオ会議の際に、毎回、アシスタントを、ちがう学生にお願いしています。アシスタントの学生は、他の学生が質問などをチャットに書き込んだり、手をあげたりした際に、わたしに教えてくれます。その助けを借りることで、わたし自身はレクチャーやディスカッションを進めることに集中できるようになります。アシスタントの学生も、ちがう立場から授業に参加し、貢献することで、自信をつけられます。

この他にも、ビデオ会議に参加できない学生のためにノートをとる係を毎回決めている同僚もいます。

正直、Zoomのビデオセッションで、一人でスライドを操り、学生の様子をビデオで確認し、ディスカッションを進めながら、チャットや挙手機能まで見ていくと言うのは、至難の業です。教える側は、どうしても一人でなんでもしないといけないと思いがちですが、学生の力を借りることで、実は、先生にとっても学生にとっても、お互いに、より充実した授業にすることができたりもするのです。


わたしたちが教える授業というのは、学生の生活のほんの一部でしかありません。それでも、学生からのフィードバックを見ると、そのほんの一部の、小さなコミュニティに居場所があることに救われている学生もいることが分かりました。たった一学期の間だけの束の間のコミュニティではありますが、学生と先生が一緒になって試行錯誤をして、助け合いながら授業をつくっていった経験が、今後、より大きなコミュニティをつくっていく種になっていったらいいなと願っています。

そんなこと思いながら、これからもオンライン授業を頑張っていきたいと思います。


次回は、少し視点を変えて、オンラインでの習い事について、教わる側の視点から書いてみたいと思います。

 

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