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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #13(第4話:1/3)

早起きは三文どころじゃない徳。
-ジュディ-

<前回のジュディ>
ゴールデン孤児院にて状況説明を終えたゴードンとソフィアは、院長のルーシーから相談を受けた。
前回(#12(第3話:5/5)
目次

……………
■#13

ゴールデン孤児院への訪問から2日後。
デンバーのダウンタウン。
空が白みはじめ、朝日に追われた夜闇が逃げ込む狭い路地裏に、男の大声が響いていた。
「なに見てんだババア! ……こんなクソはえー時間にここを通るたぁー、運がわりぃ。ババアの早起きも考えモノだなぁ?」
娼婦の喉を片手で掴み、高々と持ち上げていたポン引き男が威嚇する。
「…… こりゃ今日はラッキー・デイだね」
ニタリと笑うジュディ。
「あー? ニヤつきやがって。ボケてんのかババア?」
「そうだ、お前のお友達に ”青白い顔した爬虫類みたいな奴” はいないかい? たぶんお前より何万倍も強いクソ野郎なんだけどね」
「あ? 知るかそんな奴。人探しなんてしなくて済むようにテメーの喉も握り潰してやるよ!」
「そうかい。まあ、ザコが知るわけないか…… それじゃあ朝のゴミ掃除といこうか。かかってきな」
ジュディの挑発に激高した男は、掴みあげていた女の死体を軽々と投げ捨てた。異常発達した筋骨によって執拗に暴行されたのか、ゴミ箱にぶつかってグチャリと音を立てた女の四肢はあらぬ方向へと曲がっていた。
「オレのラッシュを喰らったらババアの骨なんて粉々だぜぇ……?」
指と首をバキボキと鳴らしながら近づく男に対し、ゆっくりと外套のポケットから両手を出したジュディが構えをとらずに答えた。
「ワン・ツーで灰にしてやるよ」

◇◇◇

同日、30分後。
開店前のデビルズキッチンに呼び出されたジュディとヴィクターは、フロアの客席に座ってゴードンから報告を受けていた。

「その全裸男ってのは、リズちゃんを連れ去った悪魔と無関係なんだな?」
「ああ。問いただす余裕はなかったが…… ただの変態悪魔だな、あれは。連続殺人の経緯からしてもおそらく。なあ?」
ヴィクターの質問に答えたゴードンは、カウンターの向こうで手際よく動き回るソフィアに同意を求めた。オープンキッチンから漂うスパイシーな香りが食欲を誘う。モーニング、ランチ、ディナー。ソフィアの店はどの時間帯も大盛況だ。開店後はもう一人のシェフが手伝うが、毎日の仕込みはソフィアが責任を持って務めている。
「ええ。関係ないと思う。最初は私たちのことを普通の人間だと思っていたようだし。……ホント気持ち悪かったわアイツ……! トラウマで車に乗れなくなりそう」
ダンッ! ダンッ!
ソフィアは眉根を寄せながら忌々しそうに答えた。肉を叩くミートハンマーの音が大きくなる。

「……なるほどの」
納得した様子のヴィクターは空になったグラスにテキーラを注ぎ、話題を変えた。
「で、ゴールデンからのお願いってのは…… イタルをどうしろっちゅーんじゃ。ハンターの基本スタンスは独立独歩、不干渉…… しかもアメリカに比べりゃ多少は温厚な日本のハンターがよ? わざわざ海を越えてクレームつけてくるなんて…… かなり面倒なことになってるんじゃろ」
ルーシーの話を頭の中で整理しながら、ゆっくりとゴードンが答える。
「ああ、それが…… イタルは相変わらず ”例のハンター” を探しているハズだが、たまたま出くわした無関係のハンターをボコボコにしたらしい。経緯は不明。…… さらに最悪なのは、そのボコられたハンターが悪魔と戦闘中だった、ってことだ。その悪魔に逃げられて、さらにやっかいな事態になっているらしい」

「ったくあのガキ…… クズハンターを追うだけなら他のハンターたちも目を瞑ってくれただろうに、バカな揉め事を起こしよって。で、どうするんよ。誰が行く?」
ヴィクターが三人の顔をぐるっと見回す。

「私は無理かな…… ごめんなさい」
「わかってるさソフィア。店の事もあるしな。しかし俺もFBIの仕事があるからなぁ」
「あたしゃパス。あの小僧は自分でケツを拭いたらいいさ」
「そうだジュディ、ひとつ捜査に協力してほしい事件があるんだ。奴らの仕業かもしれない」
「そういうのは大歓迎」
「ジュディさん、怪我はもういいの?」
「すっかりね。そこの闇医者がガミガミうるさくて地獄だったよ。さっきここに来る途中にリハビリがてら1匹灰にしてきたけど、何の問題も無いね」
「エッ? いまさっき?」
「ああ。脳まで筋肉でできてるようなヌケサクと出くわしたから、ちょっと試させてもらったのさ。”感触” をね」
「よかった! でもFBIの事件を手伝うとなると…… コロラドを離れるわけにはいかないわね」
「ああ。そうなるね」
「協力助かるよ、ジュディ。午後からよろしく頼む」

示し合わせたかのように三人の会話が進む。

「え…… ちょい待て、なにお前らその連携プレー……。と、なると、残ってるのは? ワシ?」
なんとか口を挟んだヴィクターだが、手遅れだった。

「おお! ヴィクターありがとう。行ってくれるのか。あなたは日本語も達者だ。助かるよ。こっちのことは俺たちに任せてくれ」
「いいなあ。プライベートジェット」
「酒場で飲みすぎて下手こくんじゃないよ」

「…………」
無言で三人を睨むヴィクター。
短い沈黙を破り、「フーーッ」と深いため息を吐きながらオールバックの白髪を両手で撫で上げる。ふたたび「フゥ」と短いため息をつくと、ゆっくりグラスに手を伸ばし…… なみなみと注がれたテキーラを呷る。
タン!
グラスをテーブルに勢いよく置いた彼の顔は、覚悟を決めた表情に変わっていた。
「よし! わかった。ワシが行く。ついでと言っちゃあなんだが日本に用事もあるしな……。明日だ。明日、発つ」

【#14に続く】


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