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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #3(第1話:3/4)

出し惜しみするバカは死ぬ。
-ジュディ-


<前回のジュディ>
雪積るロッキー山脈の森。
薄汚れたピチピチタンクトップ姿のアンドレ・ザ・ジャイアントみたいな大男が鉈を振ってゴードンの首を刎ねた。ジュディの狩りがはじまる。
前回(#2(第1話:2/4)
目次

……………
■#3


「シィィィィネェェェェェ!」
およそ老婆とは思えぬ大怒声をあげたジュディが人間離れした速さで雪上を駆け、大男との距離を一気に詰める。
「エッ? …ハ? 速ッ! 斧? チョ」
予想外の展開に怯んだ大男は、掴んでいた ”首なしゴードン” を彼女に向けて投げ飛ばした。地を這うような低姿勢で近づくジュディとゴードンの姿が重なり、大男の視界からジュディが消える。
その一瞬を利用したジュディは大男の頭上、10フィートまで大きく跳躍し――

脳天カチ割ってやるよ!

落下する勢いに全身の捻りを加え、渾身の力でフロストブリンガーを振りぬく!

ボッ!

空振り! 大男の姿が消えた。
さっきも小屋からここまで足跡がなかった… 睨んだとおり瞬間移動か。この一撃を見切るってことは目も悪くなさそうだね。
「オおーアブネカッター。死ネ」
着地した瞬間、背後から気配と声。
両手で握りなおしたフロストブリンガーをBANZAIポーズで頭上に構え、後頭部めがけて振りおろされた鉈を受け止める。
「エッ!? 」
振り向きもせず小さな斧で防いだ老婆に動揺する大男。ならばもう一撃… と鉈を引こうとするが、撃ちつけた鉈が引き剥がせない。鉈を手放そうにも指が動かない。鉈は大男の掌ごと凍りつき、フロストブリンガーとの接触点は氷塊に包まれていた。
「チョ、なんで! モー!」
大男が力任せに鉈を振り上げようとするタイミングに合わせ、ジュディは押さえ込んでいた力を解放した。
鉈とともに、氷着したフロストブリンガーとジュディの身体が持ち上がる。その勢いに乗ったジュディは逆上がりの要領で全身を縦に振り上げるとタイミングよく両手を離してくるりと宙を舞い―― 大男の首にまたがった。
すぐさま外套の下から一挺のリボルバーを抜き、1発。大男のつむじからほぼ垂直に頭部を撃ち抜いた。

伐採された大木のようにゆっくりと傾いた大男は、受身を取ることもなくうつ伏せに倒れた。
「ご立派な能力と釣り合わないヌケサクだったね。今の様子だと… 他人と接していたら自慢の瞬間移動もできないってワケか」
地に降りたジュディが凍った鉈を拳で砕き、フロストブリンガーを奪い返した瞬間… 大男の気配が再燃し、姿が消えた。

「オ、ゴゴ、オバエ…! オバエー! 絶対殺ズ!」
数ヤード離れた位置に姿を現した大男がよろよろと四つん這いになり喚き散らす。
「おい冗談だろ? コイツを頭に喰らって息を吹き返すって… お前の脳味噌は何製だい?」
左手に握ったリボルバーを見つめ、呟きながらふたたび視線を戻すと… 大男のアゴが大きく外れていた。

「オバエは死ぬ! ゴノくちカラ出るヤヅで! オバエを焼きヅクス…!」

人間の頭を丸呑みできそうなサイズ感。
大男の口腔内に黒い渦が生じ、異様な力が溜まっていくのがわかる。喋りながら口に力を溜めるなんて器用じゃないか。あのアゴでどうやって喋っているのか気になる… いや、それよりも、だ。これは喰らったらアウトなやつだ。どうやら満足に動けない様子だが… この状況で駆け寄っても瞬間移動で逃げられる。あの動体視力とタフさからして銃にも頼れない… しかし――

「コノ距離ナらオバエの弾は当ダらない! 逃げテも無駄ダ! ゴレは広範囲ヲ… 何マイルもザキまデ焼きヅクスカラな! アーッバッバッバ! ガーーッバッハ…… エ?」

… 大男がバカ笑いをやめ、四つん這いのまま首を後方に捻り、自分の下半身を確認する。
「ハ? オ、オバエ!? エ? ザっき殺シタ…」
膝立ちになった ”首なしゴードン” が、背後から両手で大男の腰を掴んでいた。
「やっとお目覚めかい」
「いやぁ、意識は少し前に戻ったんだけどね。コイツに触れていればいいんだろ?」
ジュディの背後に転がったままの ”首だけゴードン” が答える。
「ウ、ウゾだロ? は、離ゼ!」
四つん這いのまま満足に動けない大男は ”首なしゴードン” を振り払えずもがく。
「このゴードンって男は人間じゃないんだよ。いや、正確に言うとお前らの ”血” が半分混ざってて… 斬ろうが撃とうが死なない気持ち悪い奴なんだ。お前が余裕こいて鉈とか振り回さずに最初からその超破壊光線? 使えばさすがに死んだだろうよ。私は避けるけど。まったくバカな奴……… ゴードン! 体勢をキープ!」
右脇のガンホルスターにゆっくりと愛銃をしまいながら死の説教を終えたジュディが声を張り上げ、突進を開始する!
「おうよ!」
後方の ”首だけゴードン” が呼応!
”首なしゴードン” に掴まれている大男は瞬間移動ができない!

「ヤメろ! ヤ、ヤメ! ヤデッ…」
大男の顔面めがけてフロストブリンガーを薙ぎ払うと、左頬から入った氷刃が「サクッ」と音を立てながら右頬まで抜けた。続けざまに脳天からアゴまで縦に一閃。深々と十文字の線が入ったまま凍りついた顔面を蹴り飛ばすと、大男の頭部は4つに割れて砕け散った。
口腔内に溜まっていた黒い渦は霧散し、ふたたび動き出すことなく―― 気配は完全に消えた。

【#4に続く】

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