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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #4(第1話:4/4)

前始末、奴らの始末、後始末……
狩りの大事な三要素。
-ジュディ-


<前回のジュディ>

タフでヌケサクな大男の頭を粉砕した。
前回(#3(第1話:3/4)
目次

……………
■#4


事前にトミーの顔を把握していたゴードン曰く、”首だけゴードン” 状態で目視した大男の顔はトミーで間違いないということだった。

「待たせてすまない。よし、あの小屋を調べてみよう」
トミーを仕留めてから5分。 ”本来あるべき位置に戻した自分の頭部” が安定してきた様子のゴードンが言った。接合中の首傷からは… 言い表せない不気味な音がかすかに響く。
「あのボロ小屋から何かでるとは思えないが…… まあ、お前が上司や警察に監禁場所を発見しました、容疑者は逃げたあとでした… って報告するには必要か」
ジュディがしぶしぶと小屋のほうに向き直ると、州道へと続くであろう枝道からこちらへと小走りで駆け寄ってくる女…… エリザベスの姿があった。

厚手のライディングジャケットにレザーパンツ、レーシングブーツという装いがサマになる長身に、ショートカットのブロンドヘア。中性的でモデルのように整った顔は ”美人” と表現して何の差し支えもない。大学では男より女にモテて困ると本人も言っていた…… が、息があがって口を開き、小鼻を膨らました今は不細工と言わざるを得ない。寒さで軽く鼻水もでている。まだまだこの子には特訓が必要だね――

「はー、疲れた。ゴードンここわかりづらい! 座標だけ送ってあとはノーレスとか! あ、ジュディさん今晩は」
「はい今晩は。だいぶ髪を切ったようだけどずいぶんボサボサ頭だね」
「え? あ、これはマッシュショートって言ってわざとなんです。ヘルメットのせいで少しペタンコになってるかもですけど」
エリザベスはエヘヘと笑いながら両手で髪をくしゃくしゃと揉んだ。
「エリザベス! 遅いぞ」
チームリーダーぶって偉そうに叱るゴードンだが、まだグラつく首を気にしたぎこちない動きはまるでロボコップのようで笑いを誘う。
「しょうがないじゃん。老女の死体発見! とか連絡もらってすぐにバイク飛ばしたのに、やっぱり森のなかの小屋まで来いとか言ってさ。それで脇道に入ったら雪があって…… 途中からバイク置いて走ってきたんだよ! …あ! で、あの小屋が例の?」
エリザベスが思い出したように小声になり、小屋に視線を向ける。
「ああ、しかしもう終わった」
いちおう狩りの役に立ったゴードンが得意げに答える。
「え? …えー! もう解決? せっかく頑張ってきたのに……」
「それより、ヴィクターとソフィアは?」
「ヴィクターさんは大事な診療があるからNGって返事きてたよ。ソフィアさんは知らない。忙しくてメッセ見れないんじゃない? てゆーかゴードンも後生大事にピコピコしてる端末見てなかったでしょ? エフビィーアーイ様の支給品」
ゴードンは自分だけ18歳の小娘に「さん」付けされないことを気にして1年間指摘し続けたが、もう諦めた様子だ。

「端末は、ちょっと奴にやられて…… 見れなくてな。しかしあの二人… まったく」
「え? ”奴” って、やっぱりデビルだったの!? 1匹?」
「ああ。さきほどジュディがトドメを」
ゴードンは、”つい先ほどまで悪魔だった” 灰の山を指さした。奴らが死ぬと、乗っ取られていた肉体はおおよそ3分前後で ”ただの灰” と化す。着衣は残る。何百年も語り継がれている普遍的な性質。死体が消えて都合がよい場合もしばしばあるが、警察や情報機関がテクノロジーの進歩とともに捜査力をあげてきた近年は面倒な話になることの方が多い。
「えーーー! あ、この灰? 量すごくない? 巨人? いいなあ。スキル持ち?」
「ああ。お前のとはちょっと違うが瞬間移動を」
「えーーーーー! いいな、いいなあ」

「…… 二人ともそういう話は後にしな。エリザベスはガキっぽく頬っぺた膨らませない。小屋に何かあればお前の能力が役に立つかもしれないから」
「はい!」
ジュディに従順なエリザベスは直立不動の姿勢をとり、気持ちの良い返事を返す。
「ああ、それと。そこの薄汚れた衣類をどこかに処分しておくれ」
「はい! ハレマウマウにしますね!」
「どこでもいいよ。ハワイに行ってきたのかい」
「はい! 先月、旅行ついでに見学を。役に立つかなと思って」
「それは役に立つだろうね…… 感心感心」
褒められたエリザベスはまたエヘヘと笑いながら人差し指で鼻の下をこすった。


結果、ジュディが予想したとおり狩猟小屋からは何もでてこなかった。
監禁場所発見の報告と鑑識の手配をゴードンに任せ、ジュディとエリザベスは帰路についた。
トミーは容疑者として指名手配され、FBIがデンバーの自宅を捜索するも結果は空振り。父親は妻と息子の捜索願を出しにきたところを身柄確保されたが、事情聴取により無関係と判断された。

■記録番号:990
・場所:コロラド州ロッキー山脈山中
・対象:トミー・フットレル/男/39歳
・能力①:瞬間移動。最大距離不明。他人に触れられていると使用不可
・能力②:破壊光線? 口腔内に力を溜め発射と推測。射程・威力不明
・特徴:単独行動型。鉈による近接攻撃。低い言語知能。7.5フィートの体躯(元の姿は6フィートと判明)。頭部への接射に耐える
・処分:死。FBで頭部を凍結切断、粉砕
・状況:母親監禁の容疑者として指名手配
・備考:口腔内に力を溜める様子が723番と酷似

デンバーの自宅で今回の事件を書き付けているとスマートフォンが『ワルキューレの騎行』を鳴らし、ゴードンからの着信を知らせた。
「なんだいこんな夜遅くに」
「ああジュディ。先日の件…… トミーの件だが、いろいろと調べていたら気になることがあってね」
「ふん」
「被害者のエマ、トミーの母親の出身地がウォルデンだとわかったんだが、前回と前々回の ”奴ら” の被害者も同じくウォルデン出身なんだ。三人続くって普通じゃないだろう?」
「ウォルデン? ジャクソン郡の? 人口1,000人もいないような山奥のド田舎じゃないか。偶然とは思えないね」
「そうなんだ。それに被害者は三人とも年が近い老婆だ。繋がっている可能性もある。先日エマの事故現場に君やチームを呼んだのは、ここ最近の奴らの動向が老婆の変死体と繋がっているのでは、って推測があったからなんだが…… 当たりかもしれないな」
「わかった。週末あたりピクニックに行ってみるよ」
「いやジュディ、俺もいっ」
通話を切り、電源をオフにしながらジュディは笑みをこぼした。

……ピクニック。

楽しそうだねぇ!

第1話・完

#5(第2話)に続く】

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