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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #10(第3話:3/5)

ゴードンの事件簿』? ジュディ外伝?
ゴードンの野郎ふざけやがって……。
-ジュディ-

<前回のジュディ>
自宅でマッタリ療養。一方、孤児院に到着したゴードンとソフィア。院長のルーシーが悪魔の気配を察知したというが、そいつは一体どこに――
前回(#9(第3話:2/5)
目次

……………
■#10

ルーシーさんが指さしたのは、私のピックアップトラック。
誰も乗っていないはず。
でも…… 彼女が間違えるとは思えない。
ソフィアは半信半疑のまま、 現在に至るまでのことを思い返していた。

乗る前、乗っている最中。後部座席には誰もいなかった。
道中、誰かが乗り込む隙はなかったはず。
ここに到着してからすぐに鍵をかけた。
後ろの荷台には何も乗っていない。
一体どこに…… どうやって……?

「悪魔よ。そこにいるのはわかっています。姿を現しなさい」
やはりルーシーはトラックの中だと確信しているようだ。
迷いのない、よく通る明快な声で警告した。

「逃げられないぞ! 車からでてこい!」
ホルスターから抜いた銃をトラックに向けて決まり文句を唱えるゴードン。でもその銃口はあちこち揺れて定まっていない。…… そう。どこ? どこにいるのか? それがわからない…… まさか車体の下にしがみついてる? 出発前から?
ソフィアはゆっくりと膝を突き、恐る恐る車体の下を覗いた。
…… 誰もいない。

「仕方ありませんね。トラックを ”バラします”。そうすればどこかで発見できるでしょう。…… ソフィア、申し訳ないけれど鍵を開けてちょうだい」
ルーシーは躊躇うことなく運転席側のドアに近づいた。
バラす―― ルーシーさんが「バラす」と言ったらそれは比喩ではなく、本当にバラバラにすることを意味している。私のトラック…… まだローンが…… しかし、得体の知れない敵を目の前にしたこの状況……。

諦めたソフィアはジーンズのポケットからリモコンキーを取り出すと、スイッチを押した。

キュッキュッ
電子音とともにハザードランプが点滅する。

勢いよく運転席のドアを開けるルーシー。
その背後から車内の様子を覗き込んだソフィアの背筋が凍った。
「え!?」
運転席の背もたれ。その ”内側から” 突き出ていたのは…… ぎらりと光るナイフ! その刃が布製のシートを斬り裂き、モゾモゾと中から ”何かが” 出てこようとしている!?
「ルーシーさん!」
動じる様子のないルーシーは腰を落とすと運転席を両手で抱きかかえ、力を込める。
「大丈夫。ソフィア、下がって」
ギ、ギギ… メキャッ! バキョッ!
「んーーー、ヨッ!」
鈍い金属音を立てながら引き剥がされた座席はルーシーの豪快なスローイングによって宙を舞い……
ドスッ「あがっ」ドサッ「ごっ」ド…「ぐぼっち」
放物線を描いたあと、勢いよく中庭に叩きつけられた。枯れた夏芝に転がるリズムに合わせ、中からくぐもった声が響く。
すかさずゴードンがシートに向けて発砲!
ドンドンドンッ!
…… が、着弾よりも一瞬早くシートの裂け目から飛び出した影がトッ、トッ、と軽やかに跳躍し、中庭にその姿を現した。

「テテ……。ありえねーだろクソババアよォー! どんな怪力だテメー」
叫んだのは、立ち膝なのかと見まがうほど小柄な男だった。まるで子供のような体格だが、顔だけは老けた中年のそれというアンバランスな造形が見た者を不安な気持にさせる。だがそれよりも異様なのは…… 全裸。男はパンツ一枚すら穿いていない。頭や眉、手足と同様に ”下” の毛も生えておらず、全身ツルツルだった。肉体以外の物といえば、右手に握った大振りのダガーナイフ1本のみ。

ドン! ドン、ドンッ!

「あぶっ、よっ、この、テメ、ブッコロスぞシチサン野郎!」

コイツ―― ゴードンの射撃モーションを冷静に ”見て” かわしている。身のこなしも軽い。頭の悪そうな口調とは裏腹に、スペックは相当なものかもしれない。ルーシーさんにお任せするという手もあるけれど……
「クソ、当たらない! このフルチン野郎め」
「ゴードン、それにルーシーさん。ここは私にやらせて」
ソフィアは羽織っていたオーバーコートを脱いでトラックの荷台に放ると、長い黒髪を結わえながら二人の前に歩み出た。姿を確認したいま、恐れは完全に吹き飛んでいた。代わりに沸々と腹の底から怒りが湧いてくる。
コイツは運転席の中にいた。私が運転している間、ずっと。息を殺して……ピッタリと真後ろにへばりついていたのだ。
気持ち悪い……!!
左手を後ろ手にして腰の鞘からボウイナイフを抜くと、股間をさらしている変態男に刃先を向けて吼えた。

「アンタは私が殺す!」

「…… あーん? …… 殺す? オレ様を? …… ウックック。ツッツッツッツ。怖いなあソフィアちゃん。もっとオシトヤカなレディーだと思ってたのにサー。イイ臭いもするしサー。身体もやっこくてサー。デカくてイイ尻してるジャン? レディーが ”殺す” とか言っちゃダメ。絶対ダメダメ。ダメダメダメダメ。そんな物騒なナイフとか持っちゃってサー。オレ様カナシーよォーー。ショックだよォォ」
舐めるような上目遣いでソフィアを見ながらくつくつと笑った男が続ける。
「それによォ…… 最近ガッカリが多かったところにサァ。久しぶりにイイ女に ”座ってもらえる” チャンス到来! オーマイサタン! とか思っていたのによォ。そのイイ女のプルンとした口から ”悪魔” とかいう単語が飛び出たら動揺するだろォ? え、オメ素人じゃねーのかよ! もしかして悪魔もチビるハンター様か!? ってなるサーなー? エー? なるサーなー!? 隣に座ったシチサン野郎にFBIとか言ってたときもソートーにドキドキしてよォ。このバクバクがソフィアちゃんの背中をトントンしちゃうんじゃねーかってチョーコーフンしたけどよォー、”悪魔” はダメだよォ。”悪魔” は。…… あれ? これって三人とも殺すしかねーかな? とか考えちゃうサーなー!」

ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべ、唾を飛ばしながら大声でまくし立てる全裸男。その狂気じみた言葉の一点に引っかかった様子のゴードンが問いただした。
「お前…… ”何人もやっている” な?」
「ゴードン?」
全裸男を見据えたままソフィアが聞き返す。
「若い女性が運転席で背中を刺されて死亡、って事件がデンバー周辺で何件も起きているんだ。連続殺人事件として何度かジュディに調べてもらったこともあるが…… いずれの死体も要領を得ない ”発言” だった。まるで犯人などいなかったかのような、何が起きたのか理解できないまま死んだような言葉を残してふたたび死んだ……。お前の犯行だろう?」
「あー?」
汚いものを見るような目をゴードンに向けた全裸男は、一瞬何かを考えるようなそぶりを見せてから笑って答えた。
「あー! ツッツッツッツ! そうかテメーFBIだもんなぁ!? シチサン未解決事件捜査ファイルってヤツ!? ツツツッ! ……そうそう。街で見かけた時はよォ、この女だッ! この女しかいねーゼ! と思って ”座ってもらう” んだけどよォ。何日かでガッカリきちまうんサ。運転がヘタクソ、なに食ってんだってレベルで屁がクセー、マヌケでアツアツのコーヒーこぼしやがった、とかとかとかよォォォ! ……そういう女は背中をズブリ、ってワケですわ。FBI様」
「この…… クソ野郎が」
「手出しは無用です」
銃を構えようとしたゴードンをルーシーが制止した。
「ゴードン、この位置なら射角的に建物まで弾丸が飛ぶ心配はないわね。……でもあの男は素早く動きまわる。もし射線上に重なったら? 危ないわよね。それに先ほどの様子からしてあなたの射撃は見切られているわ。だからここはソフィアに任せましょう」
振り返ったソフィアも「任せて」という目でゴードンを見つめながら頷く。

「それに… 彼女の実戦が見られるなんて、ちょっと楽しみじゃない?」
ルーシーは心配するそぶりなど微塵も見せず、ニコリと笑った。

【#11に続く】

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