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ダンジョンバァバ:第2話(前編)

目次

質朴な2人掛けのテーブルが暴力的に横へと倒され、磨き込まれた板張り床にエールとカードの束が乱れ散った。広い店内にポツポツと座る数組のハンターたちはチラと横目で様子を伺い、何事も無かったように酒盛りを再開する。低めにあつらえたカウンターの向こうでエールを注いでいたドワーフ… バグランは「フン」と大きな鼻を鳴らし、年季の入った木製コップを客にズイと渡す。
苛立ちを抑えきれず立ち上がった暴力の主―― 肥満気味の若きウォリアーは、正面に座ったまま葡萄酒をラッパ飲みする男を睨み下ろしていた。ウォリアーの背後でニヤニヤと観戦していた他2人の表情も、身内の連敗が止まらぬこの四半刻は苦り切ったままである。ウォリアーは唇をわなわなさせ、遂に吠えた。
「この…… イカサマ野郎が!」
「あー? ナニ言ってんだテメー。負けは素直に認めなさいってママから教わらなかったか? あ? オイ。あ?」
言い返したラッパ男は無精髭から滴る赤い液体を袖口でだらしなく拭い、ぼさぼさに伸びた長い黒髪の隙間から酔いの目でウォリアーを一瞥した。おもむろに腰を浮かし、先ほどの暴力から救った卓上燭台を隣のテーブルに置く。ふたたび座り、気だるそうに喋り始めた。
「火の用心、と。……なあ、教わってねーのか? パパでもいい…… キョウダイでも…… 誰か教えてやれよ。ホレ、後ろのテメーら。教えてやれ。他人のせいにしてキレ散らかす前に我が身を振り返ってナンタラ、とかさ…… このワガママボーイによぉ。ったくエールがもったいねぇ。店に失礼だろ? オレの葡萄酒が無事でなけりゃ既に死んでるぞテメー。負けは負けだカネ置いて消えろ。夜風にあたってキンタマ冷やせ」
言い終えて嘆くようにため息をついた男は、葡萄酒を呷りながらシッシと手を振った。
「か、金? ふざけるな! 払うかそんなもの! イカサマだろ! バカにしやがって…… ボクが死んでるだぁ!? 貴様が死ね!」
「おいボーイ…… 観察力、って言葉、知ってるか? いや、何でもイカサマ呼ばわりして…… 勝てやしない喧嘩を売るバカにはわからんか… ヒック。あれ? 飲み過ぎたかなオレ。明日潜ろうと思ってたのに…… ったく」
「ナメやがってぇぇぇ! 」
激憤 、抜刀。上段からの大振り。脳天をカチ割るはずのロングソードが床を叩く。男は葡萄酒の瓶を股に挟み、椅子ごと横にクルリと回転回避。座ったまま口笛を吹いていた。その両手には既に腰から抜いた2本の細身剣―― レイピアが握られている。
「クソッ! コノッ! そんなオモチャみたいな剣と棒切れみたいな腕でボクのーッ!……あれ?」
力任せに二撃目を打ち下ろしたウォリアーは眉間に皺を寄せ、首を前に出し……目を凝らした。レイピア1本に遮られ、ピタリと動きを止めたロングソード。そしてもう1本のレイピアが自分に向けて突き出されている。顎を引いてその剣先を追うと――
「あ、あ… さ、刺さ、刺された! 嘘だ! 【保護者の】チェインメイルだぞ! なんで!?」
ウォリアーがたたらを踏んで喚く前に男はレイピアを腹から抜き、剣先に付着した汚れを己の脇で拭っていた。相変わらず座ったまま。
「知るかそんなの。ちょっと突いただけでギャーギャー煩えな…… それよりいい曲だろ? 『オレの口笛軍歌』。楽器要らずでビンビンに強化… ヒック」
「楽器? …な、お前! バードか!?」
ウォリアーを背後から支えたレンジャーが叫んだ。
「あー? オレの名はセラドだ」
「クラスの事を言っている!」
「ヒック… 見りゃわかんだろ…… あ。あー、楽器ね。ハイハイ。ずっと持ってるわけねーだろバカ…… ホレ、これでいいか? 他の楽器は宿屋に預けててな」
セラドは酒瓶を床に置くと、背後に立て掛けてあったリュートを手にして足を組んだ。腿の上に乗ったリュートの複弦が指頭に弾かれ、セラドの見た目からは想像できぬしっとりと柔らかい…… 繊細な音色を響かせる。

―― ここはどの王国領にも属さず、半ば歴史から忘れ去られていた不毛の地、セイヘン。ある放浪者がセイヘンでダンジョンを発見したのは、1年と3ヶ月前のことだった。ダンジョンの上に建つ修道院。それを囲むように遺棄されていた小さな小さな廃村…… 数世紀前のものと思われる名無しの集落は、いつしかハンターたちの間でドゥナイ・デン(=儲けの地)と呼ばれるようになった。

第2話『セラドの独唱』(前編)


演奏による攻撃を警戒したプリーストがスペル詠唱の構えを取り、レンジャーは腰のナイフを抜いた。
「おいおいテメーらが尋ねるからチィと弾いて見せただけだろうが。バカの仲間はバカってか…… 奏でるぞ? 『テメーらの絶望』。プリーストのスペルじゃブロックできねー。3人まとめてジワジワ…… いやテメーらレベルなら5秒と持たず内臓が溶けて死ぬ。気合入れて回復スペル連発しろ。ヒック」
冗談めかして捲し立てるセラドの目は笑っていなかった。
実際、バードの演奏や唄による攻撃は効果こそスペルと似通う部分もあるが原理は全くもって異なり、魔素も必要としない。故に、地水火風といった自然摂理の運用に重きを置くメイジや神聖スペルを得意とするプリーストの防御スペルはほとんど役に立たない。
「んのァァー!」
向こう見ずな仲間のおかげで気を取り直したウォリアーが腰を捻りながら踏み込み、両手で握ったロングソードを薙ぎ払う。しかしその刀身はフルスイング寸前で根元から折れ失せ、空振りに終わった。バランスを崩したウォリアーはその場でクルクルと回転して床に転がる。ほぼ同時にプリーストの杖は真っ二つ、レンジャーのナイフは弾かれて宙を舞った。
「私の店の床を汚すな。ヘップの仕事が増える…… 外でやれ」
この一帯では珍しいフォーマルなシャツとベストを着付けた坊主頭の中年男が、カタナを鞘に納めながら静かに言った。ただならぬ凄味と神業に怯んだ3人組が口を揃えて「だってコイツが」「イカサマ」「煽ってきて」などと大声で弁明する。弁明が飛び交うにつれ、坊主頭の眼光が言葉の通り鋭く光り、鼻口部は獣のソレのように変形し…… 露出している肌という肌がグレーの固い体毛に深々と覆われ始めた。
「ヒッ! お、狼憑き!」「オオカ… なんだそれ!?」「知らないのか!」
パニックに陥る3人。見かねたバグランが割って入る。
「お前ら黙っとれ。殴る蹴る程度なら構わんがニューワールドで殺し合いは駄目だ。普段物静かなワーウルフは怒ると手がつけられんぞ? しかもサムライときてる」
「さ、サムライ……」
「そうだ。このトンボって男はな、伝来後に真似事しておるようなサムライとは違う。ヴィ=シャンから来たリアル・サムライだ。名刀ハバキリの餌食になりたいか?  数秒でどれが誰の手足かわからなくなるぞ」
バグランの脅し文句に合わせるように、トンボと呼ばれた共同経営者は獣の唸り声を上げる。同時に、人間の手とも狼の手とも言えぬ左手の親指でカタナの鍔をグイと押した。3人は脱兎の如く店を飛び出して行った。

「あーあ。カネは貰えず仕舞い……」
セラドは残念そうに口を尖らせる。
「こっちのセリフだアホウ。また揉めゴト起こしよって…… 大事な新客はもう戻ってくるまい」
「賭け事は自由。しかし度が過ぎたら? ケジメが必要だ。次は無いぞ」
反省の色が見えぬセラドにバグランとトンボが睨みを利かせる。セラドは片手にリュート、片手に酒瓶を掴み、降参のポーズで立ち上がった。
「ハイハイ、怖い怖い… 酔いも醒めるっての。それよりその、アンタ。サムライなんだな。しかもワーウルフ! ……珍しすぎるじゃねぇか。なあ? いい詩が書けそうだから教えてくれよ。アンタのこと。ヴィ=シャンのこと」
人間の姿に戻りつつあったトンボの顔が険しくなり、ふたたび獣化してゆく。
「あーあーウソウソ冗談! 冗談だって。いや本気だったんだけど…… 怒んなよ。モロモロの詫びと言っちゃなんだが、全員に一杯。釣りはいらねーから。おいみんな! オレの奢りだ! ……あーそれと聞いてくれ。ここ最近9階を通ったヤツはいるか!?」
セラドが100人は収容できそうな店内―― 数か月前であれば連日連夜満員御礼だった店内を見回すと、2グループが「おう」「ああ」と声を上げた。
「チャンバーでウォリアー、ビショップ、サイオニックのゲボクトリオを見かけたか!? 男、女、男! 人間、人間、エルフ!」
2グループとも首を横に振る。
「そうか。ありがとよ!」
「そいつらが何なんだー!? お前、先週もここで同じこと聞いてただろ!」
店の奥の一団から大声で質問が飛ぶ。
「オレが殺すべき相手だ! ……オレの手で。必ず」
自分に言い聞かせるように答えたセラドはしわくちゃの1000イェン札を五枚テーブルに残して歩き、外へと続くスイングドアを押した。店の前を横切る道―― 馬車一台通るのがやっとの細道に出て、大きく欠伸をする。
「ゲロ臭ぇ…… 死ねよ。ったく」
呟きながら中央通り方面に足を向けると、月明かりも乏しい薄闇の中、ニューワールドを目指し近づいてくる気配あり。
「……ようバァバ。年寄りが灯りも持たず酒場通いか。転んで怪我するぜ」
「見えるからね。ご馳走さま」
「あ?」
「エールだよ。奢りだろう?…ヒヒ」
「どんな地獄耳だよ…… ま、いいさ。飲んでくれ。オレにもサービス頼むぜ」
「それはまた別の話」
「ケッ。せめてもう少しバードの上物を仕入れろっての」
セラドが葡萄酒の瓶をグイと傾けながら愚痴る。
「絶対数が少ないクラスの装備は絶対数が少ない」
「ハイハイ。聞き飽きた。打楽器か木管楽器を最高な代物にアップグレードできりゃあ最強なんだけどな…… ま、明日潜るからよぉ、また買い取り頼むわ」
「生きて帰って来たらね。相変わらずひとりかい」
「ああ」
「それだけ金がありゃ結構な腕利きを何人も雇える」
「嫌だねオレは。面倒は御免さ。もともとバードはソロ向き…… この才能を見抜いてくれた虐待オヤジに感謝しなきゃな。ハハ」
肩をすくめてセラドは笑った。しかしその目には決然とした覚悟と哀情が入り混じる。
「フン。だからって調子こいてると死ぬよ」
「ああ、人間はいずれ死ぬ。オレもな。だがそれはアイツらを葬った後の話だ」

◇◇◇

ニューワールドが店を構える細道から中央通りに出たセラドは、僅かな月明りを頼りにドゥナイ・デンの玄関方面へと歩いた。玄関、と言ってもそこに来訪者を歓迎するアーチや看板の類はひとつも無い。上空から見ればほぼ正方形であったことが伺える朽ちた集落には、来訪者の侵入を妨げる壁や門は存在せず、どこからでも立ち入ることが可能である。唯一使い物になる街道に面し、ちょっとした広場と一番大きな井戸があるというだけの理由から、住人もハンターも東端を「玄関」「出入り口」と呼んでいる。
玄関から、西へと真っすぐ伸びる幅10ヤードほどの「中央通り」を少し歩けば、バァバの店、宿屋、診療所、雑貨屋などが建ち並ぶ。道を挟んで宿屋の正面には大きな厩舎。かつては複数あった宿屋が共同管理していたが、今はテレコの親戚が細々と世話をしている。その他の建物の大半は再利用されることなく崩壊したままで、補修ないし新築された数少ない住居から漏れる灯りだけを頼りに夜道を歩くことは難しい。月が姿を隠す夜には、ランタンや手燭といった灯り、もしくはその代わりとなるスペル、装備、夜目などが必須である。さらに中央通りを西へと進むと南北にいくつかの脇道が伸び、ニューワールドや鍛冶屋が店を構える。脇道を無視して中央通りを直進すれば、ドゥナイ・デンのほぼ中心部に修道院―― ダンジョンが口を開いてハンターを待ち受けている。その存在理由を知る者は極めて少ない。

セラドは誰ともすれ違うことなくフラフラと中央通りを歩き、宿屋の隣、診療所の前で足を止めた。軒先のベンチで読書に耽る女に声を掛ける。
「よお。診療所の… えーと、アンナ。そうアンナ。ちゃんと覚えてるぜ。命の恩人、しかも美人だからな。ブラッドエルフの夜光浴ってやつかい?」
「覚えてもらう必要はない。それに貴様を治療したのは弟子のサヨカだ」
本に目を落としたまま、アンナが冷たく言った。
「ありゃ、そうだっけか。しかし冷てぇなあ。オレの名はセラド。覚えてくれてるかな…… ちょっと酔ったからよ、血中の酒を吸ってくんねーかな… へへッ。明日潜るんだ」
「そのまま潜って死ね」
「ハハ、言えてら。死ぬべきかも」
乾いた笑いを誘われたセラドは、しばし黙ってアンナを観察する。細く長い手足。色が抜けるほど白い肌。黄金色の長い髪は金糸のように輝き、高い鼻柱から左右へと彫り込まれた切れ長の目は聡明さと妖艶さを兼ね備える。他のエルフ族に比べ、何世紀も歌われてきた古代エルフの特徴を色濃く残している…… が、燃えるような赤い瞳と特別長く尖った耳はブラッドエルフそのものである。
「……なあ、教えてくれよ。エルフってのはさ、100年前の大戦が起きるまでは全員ハイエルフだったんだろ? 何千年もさ……。それが今やいくつも枝分かれしてよ。ブラッドエルフなんて魔素と血が無きゃ生きていけねー吸血鬼だ。アンタらに何があった? いい詩が書けそうなんだ」
「黙って死ね」
「つれねーなぁ。医者が死ね死ね言うなよ」
静かなひと時を邪魔されて気分を害したアンナはパタンと本を閉じ、ぬっと立ち上がった。人間の男としては上背のあるセラドだが、それより頭ひとつ分も大きなアンナが見下ろす形で言った。
「いつまでドゥナイ・デンにいるつもりだ? あれからもう3ヶ月は経つ。酒場の怪我人が増えて迷惑だ。さっきも大袈裟に騒ぐ肥満児が駆け込んできた」
「あー、まー、オレもさっさとこんな場所からはオサラバしたいんだけどよ」
「目的は。金か」
「金は大事。チョー大事だ。でももっと大事な…… って、もしかしてオレに興味が湧いてきちゃった?」
「無い。貴様を追い出す理由に使えるかもしれない。仇討ちか」
「ん? あー、まあそんなカンジ」
「さっさとやれ。……殺して気が晴れるとよいがな」
「晴れないだろうな、決して」
「ならばここを去れ。目障りな男がひとり減ってよい」
「そうもいかねーのよ」
「……面倒な奴だ」
「ああ。オレもそう思う」

◇◇◇

翌日、夕刻。早朝からダンジョンに潜っていたセラドは今日も生き延び、バァバの店を訪れていた。

探り探り足で進むなら5階の往復だけで数日掛かるダンジョンだが、5階以降の攻略が進んでいるハンターの一部はダンジョン内の『リフト』を作動させるためのキーを入手している。人為的な設備であることは明白だが、いつ、誰が作ったのかは不明で、何故かモンスターは手を出さない。ゲボクは自ら選んだチャンバーからほとんど動かないと言われているが、ハンターとリフト使用がバッティングして戦闘になったというケースも報告されている。
現時点で確認されているリフトは1階から5階まで各階止まりが一基、5階から10階までの各階止まりが一基、10階から15階までの…… と、5階区切りで存在しており、乗り継ぐことで大幅なショートカットが可能である。つまり必要な食料やアイテムは少なく済み、無用な戦闘を避けることができる。
下りのショートカットは他に、『シュート』と呼ばれる落とし穴を使う方法が挙げられるが、100パーセント殺傷目的のトラップである『ピット』との見分けが難しいため、初回はシーフやニンジャによる見極めが必須となる。見極めて落ちたとしても真下がチャンバーで即全滅、というリスクもあり、好んで使う者は少ない。チャームやサモンが可能なクラスが試しにペットを突き落とすという荒技もあるが、ピットだった場合の後味が悪く、魔素の消費量も多いことから、やはり素直にリフトを使うのが定石である。
帰りについては、リフトを使う者もいれば、脱出専用のポータルスペル、もしくはそのスペルが写されたスクロールを使う者もいる。
なお、詠唱者が ”印” を残した地に瞬間移動できるスペルも実在し、脱出専用のそれと混同して『ポータル』と呼ぶ者が多いが、実際に使用できる超ハイクラスの詠唱者は『ゲート』と正式なスペル名を口にする。

「ヒヒ… なかなかの収穫じゃないか。……お、こりゃぁいい。上物のユニーク・アイテムだよ」
ボンヤリと浮かない顔でセラドが「そうか」と呟く。一式の鑑定を終えたバァバが不満そうにジロリと睨んだ。
「もっと喜びな。この3ヶ月で一番の稼ぎだ。締めて200000イェン」
「エッ?」
予想外の額を耳にして我に返ったセラドがバァバに目を向けると、彼女は既に金の装飾が施された箱を開き、大量の紙幣を数え始めていた。
「10000イェン札を切らしててね……50………………100………………150……」
「おい全部1000イェン札かよ。前もそんなこと言ってなかったか」
「金は金。文句言うんじゃないよ」
叱るバァバは札束から目を離さず、高速かつ正確無比な指さばきで札を数え続ける。指を舐め、2周目に入った。
「200000か。すげーな。まあ金は嬉しいが……」
「今日も空振りだったんだね…ヒヒ。そんなアンタに嬉しいお知らせ」
「あ? ……なんだ? オレが嬉しい? 教えろよ。獲物の情報か?」
セラドが興奮気味に身を乗り出す。
「数え中。気が散るから黙ってな……150…………」
「オイそっちが言い出し…… チッ」
「………200、と。はい、200000イェン」
バァバの勘定が終わり、分厚い札束がセラドに手渡された。
「で、いい話って何だよ」
「クク…これさ」
ジャラジャラ、とカウンターにコインが積まれた。セラドはその1枚を掴んでまじまじと見つめる。
「これ、って…… ポイントサービスだろ? ボル」
「そう。今回の200ボル」
「これの何が嬉しいお知らせなんだよ」
「アァ? バカにしてんのかい?」
「いやそういうわけじゃ……」
バァバの声色が豹変し、滅多なことでは動じないセラドの背筋に冷たいものが走った。
「フン。まあいいさ……何と。ヒヒ…今回! アンタがコツコツ貯め続けたボルが3000を達成! つまり売り、買いで3000000イェン使ったってことさ。これは最近じゃ珍しい…… しかも単身だ。荷運びの量と期間を考えりゃ記録的と言ってもいい。凄いねアンタ。『人嫌いガッポリ亡者』の称号を授けるよ」
いつになく褒めちぎるバァバだが、最後はキッチリ嫌味で締め括った。
「ヒデー言い方だな。別にオレは人嫌いってワケじゃねー」
「おやそうかい」
「オレにもいたさ……。亡者はある意味その通り。ボルはコツコツ貯めたってか、単に興味がな…… いや、何でもねぇ。んで? その3000ボルで何が嬉しいんだ」
バァバが親指を立て、『オトクな特典が魅力』と書かれた張り紙を指す。
「いや小さくて読めねーから。オレ目がいいんだけど」
「レジェンダリー・アイテムが手に入るのさ。それもバード専用のね …ヒヒ」

【後編に続く】

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