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【読書記録】夜明けのすべて(瀬尾まいこ)

iBooksにオススメされて購入。瀬尾まいこさん本屋大賞受賞後の第一作、一気に読んでしまった。

前作でも同じことを感じたのだけど、ホットミルクのような物語だと思う。疲れたときに読めば元気が湧いてくる。心が荒んだときに読めば気持ちが落ち着いて、きっと昨日よりもよく眠れるようになる。誠実さが滲みでる作風は、瀬尾さんの人柄なんだろうと思う。


【以下ネタバレ含む】


私はPMSにもパニック障害にも馴染みがないけれど、親しい人の“ヒステリー“に困惑した経験はある。突然感情を爆発させられるとロジカルには理解できないものだから、そういうときは大抵ぶつかってしまう。

この本を読んでみて、PMSとか、似たような外因がその人をそうさせていたのかもしれないと思い直す。それならぶつかっても仕方がない。冷静さを保てる周囲の人間こそ、うまくかわさなければならないのかも。お互いの頭が冷えるまで適切に距離を取ってりつつ、当人には雑草(ガス)を抜かせるように。

この作品もいい人だらけだったなと思う。お守りのくだりなんかは堪らない。身近な人が病気になったときに、心配する思いはあってもうまく伝えられないことがよくあるが、自分はこの距離感をとれるだろうか。

距離感といえば、最近読んだ別の小説「だまされ屋さん」は親と子の距離感がひとつのテーマだった。

誰かにうまく寄り添うのも、見守るのも簡単なことではない。それは自分にパニック障害やPMSがあろうが無かろうが同じことで、ともすれば人との関わりを控えてしまいたくなることもある。

でもこの本を読むと、誰かを想うことも、誰かを想って何か行動に起こすことも、それがたとえお節介のようなものになってしまったとしても、まったく悪いことではないのだと勇気づけられる。山添君が「完全な孤独など、この世には存在しないはずだ」と思えたのは、親しい人たちが暖かく接してくれたからこそ。

「救いはある」というのが作品の表のテーマなら、「想いは誰かの救いになる」というのが裏テーマになるのではないか。藤沢さんは山添君の指摘を受けながら、自分のおせっかいを「気を遣っているわけではなく、好きでやっている」「そういうことにしておけば、気持ちは楽だ」というが、この考え方は見習いたいと思う。

あっという間に読んでしまったけど、もう少し余韻に浸りたくなる。誰にでも勧められる温かい作品だった。

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