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#イシダカクテル
『ドライ・マティーニのオリーブ』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年9月27日オンエア分ラジオドラマ原稿)
マティーニを頼んだ僕は、
複雑な思いで、グラスの底のオリーブを眺めていた。
オリーブのほうだってそうだ。
きっと複雑な思いで僕を見上げていたに違いない。
男「仕方がないのかなあ」
女「仕方がないのよねえ」
男「え?」
女「何か言いました?」
隣に座った女性と同じカクテルを飲んでいて、
同じタイミングで同じ意味のことを独りごちることは、
バーのカウンターではよくあることだ。
男「ああ、いえ、た
『6杯目のダーティーシャーリー』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年9月6日オンエア分ラジオドラマ原稿)
女「ダーティーシャーリー」
隣に座った見知らぬ女性が6回目のその言葉をマスターに告げたとき、僕は思わず声をかけてしまった。
男「そんなに美味しいんですか?」
女「味なんてもう分からないわ」
彼女は悲しげな目でそう言った。
思いもよらない返答で僕は戸惑うくらいしかできなかった。
女「私は何杯ダーティーシャーリーを頼んだのかしら?」
男「僕の知る限りでは6杯目です」
女「何杯飲んでもだめね。あ
『恋の確率』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年8月9日オンエア分ラジオドラマ原稿)
球場で試合が行われてる。スタンドで話している男女。打者の打った球が大きく飛んでいき、あわやホームランかと思いきやファールボールになる。
男「おおお!!
女「ああー!ファールかあ!!」
男「うわー惜しかったなあ」
女「あのファールボール掴んだ人も悔しいだろうね」
男「俺のところに飛んでくるなよーってね、掴んだボールに向かって言ってるかもな」
女「ファールボールって持って帰っていいの?」
男「うん、
『セクシーな男』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年7月26日オンエア分ラジオドラマ原稿)
女「トムクルーズの映画、観に行きたい」
カウンターでアマレットジンジャーを飲みながら彼女はそういった。
男「トムクルーズ、好きなの?」
女「だってセクシーでしょ」
男「ジョニーデップより?」
女「トム」
男「ディカプリオより?」
女「うん、ブラピよりもトム」
彼女は僕の質問を先読みして答えた。
僕は少し不服そうにジントニックを飲んだ。
女「好きじゃないの?トムクルーズ」
男「いや、好きじゃ
『時は過ぎていく』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年7月19日オンエア分ラジオドラマ原稿)
僕はバスに乗っていた。けれどそれが夢だというのはすぐに分かった。
運転しているのはカエルだったし、まわりにはサルが乗っていた、
それに何より、隣に座っていた僕のガールフレンドはウサギになっていた。
その鳥獣バスは○○に向かっていた。
昨夜の残業のせいで僕は睡眠不足のままバスに乗せられたんだ。
○○に行くことは数日前から決まっていた。
女 「一緒に○○に行かない?」
男 「そこには何があるんだい
『折り合い地点の恋』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年7月12日オンエア分ラジオドラマ原稿)
男「んーコイかな」
女「コイか」
男「コイっちゃコイね」
女「コイよねー」
僕たちは互いに恋して結婚に至ったわけだが、
いま言ってるのはその恋じゃなくて、
午前8時のお味噌汁の話し。
女「ちょっと濃いよねー」
男「うん、まあちょっとね。でも美味しいよ」
朝ごはんは変わり交代で作っている。
パンを焼いてコーヒーを淹れることが多いけど、僕もたまにお味噌汁を作る。
男「どう?」
女「ちょっとうす
『最後の恋は』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年5月24日オンエア分ラジオドラマ原稿)
何一つうまくいかない日、というのが人生には時々ある。
この日僕はフラレた。これが最後の恋だと思っていた人だ。
気がつくと僕は見知らぬバーのカウンターでひとり、ダイキリを飲んでいた。
ぽっかりと空いてしまった胸の空洞には、少し強めの酒を流し込む必要があった。
3杯目を飲み干し、席を立とうとした時⋯
女 「もう終わりね。」
後ろのテーブル席から声がした。
僕は思いとどまり、タバコに火をつける。
『この音』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年5月17日オンエア分ラジオドラマ原稿)
♪「プシュ」っという缶ビールの開ける音。
僕はこの音が好きだ。
この音を聴きたくて毎日生きていると言っても過言ではない。
♪また「プシュ」っという音。
それは言い過ぎたかもしれない。そして一本目を早く飲み過ぎたかもしれない。
仕方がない。恐ろしいくらいに喉が渇いていたのだ。
♪肉がジューっと焼けるような音。
この音もまたいい。
女「はい、砂ずり焼いたよ。レモン絞って」
いま死んでもい
『約3分のデート』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年5月10日オンエア分ラジオドラマ原稿)
女 「じゃあ、お互いせーので好きな人を言い合おうよ」
男NA 「彼女はそう言って、少し笑った。
大学に入って初めての夏休み、高校時代の同級生の女の子と、
僕はばったりももち浜で再会した。
僕らは高校3年生で同じクラスになって、
お互いとても気が合っていたように思う。
僕は彼女に好意を持っていたし、彼女も僕に好意を持っていた。
事実クラスで一番、
『春の風』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年5月3日オンエア分ラジオドラマ原稿)
春の風が吹いていて、今日はなんだか日がいいみたいだ。
僕はおみやげを持って彼女のところへ出かけた。
♪BGM:サニーデイサービス「おみやげを持って」
中華料理のバイトの休憩中に、いつもワイヤレスイヤホンをして彼女はコーヒーとドーナツを食べていた。
少し笑った気がして、僕は彼女に思い切って話しかけてみた。
男「いつも、何の曲を聴いてるんですか?」
女「え?」
彼女は片方のイヤホンを取って、笑
『夏の夜空』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月26日オンエア分ラジオドラマ原稿)
同僚に誘われて海辺のバーベキューパーティーにやってきた。
西の空では、夏の太陽が、本日の仕事を終え
東の空では、夜空がスタンバイしている。
何人いるんだろう?
ざっと100人くらいだろうか?
その場に参加している人は、みなが知り合いというわけでもなさそうだがどこかで誰かが知り合いのようだ。
社交的な同僚は、いつものようにグループの中心にいる。
人見知りの僕には、彼のような真似はで
『無人島に必要なもの』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月19日オンエア分ラジオドラマ原稿)
(騒がしい店内。新歓コンパをしている大学生たち。)
「無人島に何かひとつ持って行くとしたら、なに?」
大学の新歓コンパで、まだ名前も覚えてない誰かがそう質問した。
みんな口々に答えていく。
スマホ、いや充電できないじゃん、とか。
男「えーっと、ナイフかなあ」
まあそれだよね、という微妙な空気が流れた後、彼女はそれを助けるように、
女「私は船」
といった。
いやそれはずるいじゃん、と彼女の