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北斎バードパーク /すみだ北斎美術館

 葛飾北斎とその一門が描いた「鳥」がテーマの展覧会。
 作品をとおして、江戸人の愛鳥ぶり、画中の装身具にみられる鳥の意匠、読本などストーリーのなかで鳥のモチーフが担った意味について、迫っていく。鳥愛好には食文化も含まれるなど、幅広い視野の展示であった。
 第1章だけでも、66種類の鳥が取り上げられている。そして個々の鳥類がどんな生態をもつか、図鑑のごとく詳しく触れられているのが「バードパーク」たるゆえん。大東京のコンクリート・ジャングルで、ちょっとしたバードウォッチング気分である。

 本展の構成・内容については、下記リンク先の公式ページ内で、画像つきでかなり詳しく開陳されている。本筋はそちらに譲るとして、今回は筆者の琴線に触れたもの、気になったことを思うまま述べるとしたい。


 —―浮世絵版画といえば、真っ先に美人画、役者絵、風景画が浮かぶ。かたや、床に掛ける一般的な軸物の画題は、主に山水や花鳥であろう。
 この棲み分けぶりは興味深いが、浮世絵版画にも花鳥画はちゃんとある。ただし後発的であり、その分野を確立した人物こそ北斎なのだという。
 天保期に手がけられた一連の花鳥画は、どれも高雅な趣で鑑賞性が高い。花や鳥の種名が書き込まれるあたりからは、博物学的な関心もうかがえる。
 こちらは、ブンチョウとコブシの花。

 3月ごろ、庭先で見た光景にぴたりと重なる。居室の窓からは、コブシの花が見えるのだ。
 群がってきたのは、ブンチョウでなくヒヨドリ。白く清廉なつぼみをついばみ、無惨にも喰べ散らかす……この絵のコブシが無事かどうか、心配になって確かめてしまった。
 構図の妙、さらには花と鳥の、かたちの律動が見どころといえようか。花・鳥の色やかたちは近似していても、混じってはいない。「花<鳥」の主従を保っており、巧みである。

 もう1点、イカル(鵤)とオシロイバナ(白粉花)。

 花も鳥も上向きで、すました感じ。余白が心地よい。
 イカルといえば、奈良の「斑鳩(いかるが)」。イカルの群れる場所だったことが地名の由来という(諸説あり)。この絵を観てすぐに、矢田丘陵を背負った法隆寺の伽藍の威容が想起された。
 ありふれた鳥だから、そんなこと北斎は意図していなかったはずではあるが……

 ともかく、「えっへん!」と胸を張ったイカルの得意な表情は、とても北斎らしい表現といえよう。
 向かいの覗きケースには、『北斎漫画』の鳥のページが出ていた。この右側にいるワシも、イスカと同じように「えっへん!」。悠々、堂々。

 このワシの姿には、見覚えがあった。
 先日、鎌倉国宝館で観てきたばかりの《桜に鷲図》(氏家浮世絵コレクション)にそっくりなのだ。『北斎漫画』のワシを左右反転させると、ほぼほぼこの図と同じになる。
 こういった発見があると、嬉しくなってしまう。

部分図。こちらは本展不出品。類品は他にもあるようだ

 肉筆画は、本展にも数点出ていた。

 《柳に燕図》。
 柳の枝を揺らす風と、風に乗って、あるいは抗うなどして滑空するツバメ。
 一見してなんのことはない絵だが、瞬間を切り取る技倆に円熟味を感じさせる。

 解説のとおり、ツバメの黒い羽が特徴的。
 画像ではつぶれてしまっているが、ただの黒とは違う。「濡羽色(ぬればいろ)」というべき光沢をたたえているのだ。光沢は、黒の上に藍を塗り重ねることで生み出されている。
 これにより立体感・もふもふ感が引き立ち、なにより、本物のツバメの毛並みを彷彿させていたのであった。
 さりげない技巧。粋な小品である。

 粋といえば、展示の最後に出ていたこのパフォーマンス作品も、なかなかのもの。作者に名を連ねる勝川ピー(※ニワトリ)、いい仕事をしている。


 —―このほかにも、鳥が主たる画題ではないものの、画中において重要な要素をなしている例を多々紹介。
 テーマを「北斎一門の鳥」に限定したとしても、これだけたくさんの作が集まり、内容に広がりも出せる。
 北斎という絵師のスケールの大きさを、改めて感じるのであった。

こちらは「北欧バードパーク」。日本橋高島屋の「北欧デザイン展」にて

 ※長野・小布施の北斎館では「水族館」の開催を控えている。こちらもおもしろそうだ。



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