近江商人の発祥地・五個荘の町並み 秋の近江路を往く:4
(承前)
近江鉄道で、八日市駅から五箇荘(ごかしょう)駅へ。たった2駅、東近江市内の移動ではあるけれど、駅間は長いし、平成の大合併前は八日市市・五個荘町という別の自治体であった。町のカラーは、ずいぶん違っているなと感じた。
五個荘は商人の町。「三方よし」で知られる近江商人発祥の地といわれ、日本経済を支える大企業を多く輩出している。
※主な近江商人系の老舗企業。高島屋を除き、ほとんどが現在の東近江市やその周辺に起源をもつ。なかでも五個荘は多い。
五個荘の金堂地区には、そういった大店の本宅が密集して残されており、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建。町並みの国宝)の指定を受けている。
駅から金堂地区までは、距離がある。駅前でレンタサイクルを借りようと思っていたところ、地図の場所は空き家で、もう営業していないようだった。別のレンタサイクルは、金堂地区のそば……これから訪ねるみなさんは、ご注意を。
改めて観光マップをみると、徒歩での散策コースが推奨されていた。案内板が要所要所に立っているそうで、さすがのわたしも迷わないだろう。
寒空の下、バイパスや田んぼの横を往く。「自転車さえあれば楽勝なのに」「バスにしておけばよかったな」などの思いが渦巻いてきたところで、最初の目的地・藤井彦四郎邸に到着。
解説板には、邸宅の主・藤井彦四郎は4代善助の弟とある。藤井善助とは……もしや!?
京都・岡崎公園に面する「藤井斉成会有鄰館」は、国宝1件・重文9件を擁する中国美術の殿堂。日本の私立美術館の草分けといわれる。第1・3日曜の昼のみ開館で、何度も前を通ったが、まだ行けていない。閉館時間に間に合わず、すんでの差で逃したこともあった。
4代藤井善助とは、このコレクションを築き、美術館を開いた人物なのである。コレクターとしての一面しか知らなかったが、近江商人で、北五個荘村の村長を務めたこの地の名士だったのだ。
その実弟がつくった、大邸宅。まさか、こうしてつながるとはなぁ。
藤井邸から金堂地区まで、徒歩15分。
地区の入り口を護るように、神社が立っている。
この大城神社の境内は、NHKの朝ドラ「カムカムエブリバディ」や「ブギウギ」のロケ地になっている。
「カムカム」では安子と稔さん(「の」にアクセント)が逢引きをし、のちにその孫・ひなたが安子を捕まえた場所。「ブギウギ」ではスズ子の幼少期に合格祈願、さらにスズ子の父が、床に伏せる妻の快復を祈った場面で登場した。
柏手を打って手を合わせ、再び目を開いたとき、そこに稔さんの亡霊はいなかったが(至極当然)、「ここでロケをしたのだな」と思うと感慨深いものがあった。
(つづく)
※先週の「ブギウギ」で、スズ子が野外ライブをしていた場所は、甲賀市の油日(あぶらひ)神社。大城神社からも、そこまで遠くはない。白洲正子『かくれ里』の冒頭にも出てくる、美しい古社だ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?