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「日本一」の鏝絵、拝見 新潟・長岡

 越後国は、ラーメン大国でもある。
 新潟県立近代美術館のあとは、長岡生姜醤油ラーメンの名店・青島食堂を目指し、ひとつ隣の宮内駅へ。
 駅前のロータリーに面してはいるが、カウンターのみ、昔ながらの町の食堂といった雰囲気を保っていた。あっさりとした醤油スープ、生姜のかすかな風味が、冷えた身体にしみわたった。

中央が青島食堂。店先の歩道に雁木が渡された、雪国の街の佇まい
チャーシュー麺+ネギ大盛

 ——さて、次の電車は1時間後。幸いすぐに着席・着丼・完食となり、少々時間が余ってしまった。
 ラーメン以外はまったくノープランで宮内まで来たけれど、駅に掲示されていた、醤油の醸造で栄えたという街並みの写真、そして「日本一の鏝絵(こてえ)の蔵」とやらが、気になってはいた。
 鏝絵とは、熟練の左官が鏝を駆使し、文様や絵画を漆喰によって描きだしたもの。鏝絵自体、そうそうお目にはかかれない。
 その日本一とは、どんなものか。一丁、観てみたいではないか。
 というわけで、これらを目的地に定めつつ、宮内の街をぶらつくことにした。

雁木は、途切れ途切れに続いていた。奥は現役の金物屋さん
お茶屋さん。雁木の断面に幌を取りつけ
気になる大衆酒場。キリ看(キリスト教看板)も健在

 このような街並みをしばらく行くと、巨大な工場群が、ぬっと現れた。日本酒の有名蔵元・吉乃川の本社だという。
 見学や試飲などしたいところだが、後が控えているので見送ろうかと思っていると、吉乃川のはす向かいに……ありました。なんともカラフルな、鏝絵の蔵が。

薬用酒「サフラン酒」で一山当てた吉澤仁太郎の、邸宅と工場。主屋の大屋根は、寺院の本堂かと見紛うほど大きい
養命酒と人気を二分したというサフラン酒
色つきの鏝絵細工が施された、海鼠壁の蔵。表通りからもよく目立つ
河上伊吉という左官による仕事。伊吉の作とされる鏝絵は、ここにしか残っていない
(吉)は「吉澤」の吉
青龍
玄武
側面。さながら動物園
ええと、これは……猫?でいいんだろうか。右はネズミのようにもみえる
こちらは間違いなくネコ科の白虎。目玉に、光るなにかが嵌め込まれている
藤森照信先生による、くだけた解説がついていた。「鏝絵の横綱」とのこと
裏手から

 極彩色・極密でありながら、ごてごてした印象は受けない。それは、装飾を施す箇所が袖扉と屋根を受ける周辺のみに限られているからだろうし、海鼠壁のインパクトも効いている。
 成金趣味に陥らないぎりぎりに踏みとどまるあたりに、センスのよさを感じさせるデザイン。「日本一」の看板に、いささかの誇張も偽りもなかった。

 最寄りの駅に着くまで、存在すら知らなかったすばらしい鏝絵。もう少し奥にある醤油蔵の街並みにはたどり着けなかったけれど、お釣りがくるくらいの、思わぬ大収穫であった。
 さしづめ「ラーメン転じて鏝絵となす」といったところか……いや、ラーメンは災いなどではなく、ちゃんとおいしかったのだが、ともかく、行き当たりばったりの一人旅ならではといえそうな体験であった。

 ※青島食堂は、東京の秋葉原に支店があり、常に行列ができている。


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