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生誕100年 柚木沙弥郎展:1 /日本民藝館

 昨年10月に満100歳のお誕生日を迎えた、染色家・柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)さん。その「生誕100年」を記念する日本民藝館の展示を観に行ってきた。

 ひとりの現役作家による展示は、民藝館では非常にめずらしい。柚木さんは今回が2度めで、2018年に「柚木沙弥郎の染色 もようと色彩」を開催して以来となる。

 ※2018年の展覧会に合わせて出された、図録兼書籍。

 この頃からだったろうか。
 柚木さんの人気がさらに高まり、展示が各地の美術館で催され、ご本人の姿をテレビでお見かけする機会が増えてきたのは。
 わたしもほうぼうで開かれる柚木展を追いかけてあちこちへ行ったものだが、根っこのところにはいつも、2018年のこの展示を見逃してしまった後悔があったのだった。
 5年の時を経て、みずから「原点」だとおっしゃる日本民藝館の展示室に、柚木さんが帰ってくる。これはわたしにとっても、格好のリベンジの機会。駒場の仇(かたき)は駒場で討つのだ。

 柚木さんという一個人を採りあげた展示ではあるけれど、「個展」といってしまうと、新作が中心のようでなにか違う。
 本展は、作者が長年にわたって寄贈してきた民藝館の館蔵品から構成。近年、立体造形や絵本など各方面で旺盛に仕事をされているなかでも、本展では染色一本である。
 近況を示すできたてほやほやの新作はなく、むしろその拠り所——民藝と親和し、民藝館の空間に寄り添うような作品の数々に、本展では出合うことができた。

 「個展」のほかに「回顧展」という表現もあろうが、そのように称される展示は体系的で、秩序立っていて、多くの場合は時系列であったりする。
 本展では、展示順と制作年代はかならずしも……というか「ほとんど」不同であり、初期作の隣に近作が並んでいることもしばしば。新館の展示室では、時代も国籍もさまざまな民藝品が、柚木さんの作品と1:1くらいの比率で共存しあっていたのだった。
 そのうえ作品解説も、章解説もない。作品名と年代だけが、鑑賞者には供されている。
 「体系的」「時系列」からは大きく外れるいっぽうで、そこには——たしかに調和があり、「秩序」があったのだった。

 頭で考えずに、感じることに徹する環境が、ここには整っている。
 これはもうほんとうに、民藝館でしか成り立ちえない展示だなと思われたのだった。(つづく

駒場野公園。桜がぼちぼち



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