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宮城県美術館のコレクション展示:3

承前

 日本の公立美術館のコレクションは、3つの柱からなるものが多い。
 郷土ゆかりの作家、日本の近現代美術、そして西洋美術だ。
 西洋美術に関しては、地方自治体のかぎられた予算で全体をカバーしきることは現実的でなく、おのずと一点豪華主義か、特定の分野・作家を集中的に深掘りする収蔵方針となる。
 この方針とご当地との関連性がみえづらいケースもめずらしくはないけれど、兎にも角にも、市民のみなさんに世界レベルのよいものを観せてあげたい、作品目指して来館するファンを内外に開拓したいといった気概には頭が下がる思いである。
 それに、うまくいけば、最初こそ異分子と感じられた異国の美術がやがて新たなご当地色ともなって、土地の魅力をアップデートしていくこともあろう。
 山梨のミレーなど、まさに好例。鳥取のウォーホルが物議を醸しているが、なんとかふんばってほしいものだ。


 さて、わが宮城県美術館の誇る西洋美術分野の収蔵品は、パウル・クレーとヴァシリー・カンディンスキー。ともに「青騎士」の画家である。宮城とのゆかりは……はっきりいって、ない。

 ——「ない」のだけれど、県民は知っている。
 「美術館に行けば、いつでもあの楽しい絵が観られる」

 県外の人も、知っている人は知っている。
 「仙台に行けば、クレーやカンディンスキーのいいものに、いつでも会える」

パウル・クレー《力学値のつりあい》
パウル・クレー《緑の中庭》
パウル・クレー 《赤い鳥の話》

 クレーは、多彩な画家だ。
 色彩においてもそうであるし、技法も、そして作品ごとの趣もきわめて多面的で、いったいこの人には何面相あるのだろうと、戸惑いすら覚えてしまうほど。
 このあたりの感覚は、上に挙げた3点の作品を観るだけで、充分に共感いただけるのではと思う。
 それではもし、他作家の作品のなかにクレーが1点だけ紛れているような展示状況になったとしたら、どうだろうか。見え方・感じ方は、かなり違ってくるのではないだろうか。少なくとも、この作家の「幅」を感じることはむずかしいかもしれない。
 宮城県美術館にはクレーの常設スペースがあり、それぞれにバラエティあふれるクレーがたくさん、いつでも観られる。今回写真を載せたのは3点ばかりであるが、展示に出ていたのは計8点。すべて、みごとに毛色の違った絵だった。
 これくらい毛色が違うと、どの絵が好みだとか、あれが欲しいなといったトークが盛り上がりそうなものだと思った。子どもの描いた絵のようでもあるから、ふだん美術館には来ないという方にも敷居は低いだろう。

 カンディンスキーは色やかたちに視覚的な楽しみが多く、抽象画にしては受け入れやすいものと思う。クレーに負けじと7点。こちらも、常設で観ることができる。
 宮城県は、いい作家に着目したものだ。

ヴァシリー・カンディンスキー《「E.R.キャンベルのための壁画No.4」 の習作(カーニバル・冬)》。わたしがとくにすきなカンディンスキー。絵を観るよろこびが、あふれてくる

 (つづく


 ※アーティゾン美術館では、近年、24点のクレーを新収蔵。これまた毛色の異なる24点+もとから収蔵していた1点がひとつの部屋に並ぶさまは圧巻であった。常設にしてくれればいいのに……



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