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百物語 第四十一夜~第五十夜

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百物語 第四十一夜から第五十夜までをまとめたマガジンです。
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記事一覧

百物語 第四十一夜

「いまのウサギ小屋あるじゃん。あそこって昔は大きい桜の木が生えてたんだって。だいぶ昔に切られちゃって、覚えている人はほとんどいないけど。いまあるウサギ小屋の七不思議は、桜の木があったころに起こった事件が原因でうまれたって話だよ」
「ウサギ小屋の七不思議って、髪の短い女の子の地縛霊のことだよね?わたし、あんま興味ないから、詳しい内容しらないんだよねー」
「えー!!!知らないの?たぶんうちの学校であん

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百物語 第四十二夜

三十年以上も昔の話になるが、小学校四年生の夏休みに、父方の田舎へ遊びに行ったことがあった。

その当時、私は少しばかり心のバランスを崩していた。ストレスが溜まると癇癪を起こして暴れることもあり、医者に田舎での静養を提案されたのだ。

人口百人にも満たない、山間の小さな集落だった。閉鎖的な環境ではあったが、土地柄のせいかみんなおっとりとしていて、余所者である私にもとても親切に接してくれた。

両親は

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百物語 第四十三夜

大学時代に住んでいた街から車で一時間弱ほどの距離に有名な心霊スポットがあった。
Yトンネルという。
だいぶ昔に使われなくなってしまった古いトンネルだ。

友人のIとMの三人でYトンネルに肝試しをしに行き、そのままIの家に泊まった次の日の朝のことだ。

どんよりとしていやな朝だった。
雨が降りそうで降らない、湿度がやたらに高くて呼吸するだけで苛立つようなそんな朝だ。

俺が起きた物音でMも目が覚めた

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百物語 第四十四夜

私の住んでいる地域では、いまだに火葬場を「人焼き場」と身も蓋もない呼び方をすることがあります。

建物自体は十年ほど前に改築され、外観も内装もずいぶんと綺麗になったのですが、そういう習慣はなかなかに根深いものがあるようです。



改築される以前、つまり十年ほど前までは、とある老人が一人で「人焼き場」を管理していました。

被差別部落の出身で、もうずいぶんと長いことこの仕事をしてきたそうです。

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百物語 第四十五夜

忘れられた都市伝説としてまず頭に浮かぶのは、「口裂け男」だろう。

口裂け女の都市伝説が流れはじめ、便乗するように口裂け男は当時の大衆誌に幾度か紹介された。

その特徴は、見た目は二十代半ば。身長は180センチほど。
大きなマスクをしていてもハンサムなのはわかるような容貌らしい。
夏でもトレンチコートを着込み、スポーツカーに乗っている。
このとおり口裂け女の特徴からそのまま引用されているものが多い

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百物語 第四十七夜

美代ちゃんが、一人きりで海岸沿いを歩いているところに出くわしたのは、ちょうど一週間前のことだった。

不思議に思って周囲を見回したが、家族の誰かが一緒についているわけでもない。本当に一人きりだ。

ああ、また勝手にうちを抜け出したんだな。呆れ混じりにそう思った。

「美代ちゃん、ダメじゃない、一人でうろうろしたら」

私が声を掛けると、美代ちゃんは「あーうー」と声を出した。

真っ直ぐに家に帰るつ

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百物語 第四十八夜

「急にどうしたの?」
僕はバッグの重みを確認しながら…
「ごめん…」

泉沢さんは同じ中学だった。
彼女は女子校に進学してしまったが、通いはじめた進学塾がたまたま同じでまた会える機会ができた。

本当に幸運なことだった。

僕は泉沢さんのことが好きだった。
中学の頃、クラスでも目立たない僕に泉沢さんは声をかけてくれた。
共通の話題があったからだ。

僕も泉沢さんも猫を好きで、猫を飼っていたことだ。

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百物語 第四十九夜

気づいたら五十半ばだ。

学生時代から特にこれといって趣味がなかった私は、大学を卒業して初めて熱中できるものを見つけた。
仕事だった。

私はがむしゃらに働いたし、幸運なことに仕事の才能が私にはあった。
努力し成果を上げれば上げるだけ、どんどん出世した。

三十半ばだったと思う。
当時勤めていた会社の社長から、週に一度のお見合いを強要された。
今では信じられないかもしれないが、
三十を過ぎて結婚も

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