百物語 第四十五夜
忘れられた都市伝説としてまず頭に浮かぶのは、「口裂け男」だろう。
口裂け女の都市伝説が流れはじめ、便乗するように口裂け男は当時の大衆誌に幾度か紹介された。
その特徴は、見た目は二十代半ば。身長は180センチほど。
大きなマスクをしていてもハンサムなのはわかるような容貌らしい。
夏でもトレンチコートを着込み、スポーツカーに乗っている。
このとおり口裂け女の特徴からそのまま引用されているものが多い。
もう元の記事もないのでうろ覚えではあるが、最初に出没したのは愛知だったと思う。口裂け女の最初の出没が岐阜という説があったので、そこから近くの土地に設定されたのだろう。
学校から帰宅中の女子中学生に横付けするようにスポーツカーがとまると、トレンチコートを着て大きなマスクをした青年が降りてくる。
「俺ってかっこいいかな?」
とその少女に聞いた。
その質問に「はい」と答えた少女は、その後マスクを外した青年の素顔を見て逃げ出した…、というわけだ。
しかし考えてみれば、「俺ってかっこいい?」なんて聞いてくる不審な男に目の前に立たれた時点で、マスクを外す以前に少女たちは逃げ出してしまうだろう。
無理な設定だ。口裂け女の話がどんどん加熱していく一方、ひっそりと口裂け男の話はされることがなくなった。
後世に残らない都市伝説にはそれなりの理由がある。
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