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観光地で「もったいないクリエイティブ」を生まないために。<小さな観光論>

マガジン <小さな観光論>とは
私は現在、温故知新という会社でホテルのプロデュースや企画を、熱海と宮崎県都農町ではまちづくりや観光マーケティング・ライティング等のお仕事をしています。

私の実体験をもとに、観光や、まちづくりに関する、ちょっとした学びや発見をシェアするマガジンをはじめてみました。少しでも、皆さんの関わる地域に持ち帰って頂ける、ささやかな知恵と出会っていただければ、嬉しく思います。

観光地で見かける、「もったいないクリエイティブ」や「もったいないプロダクト」。


いろんな要素を詰め込みすぎて、ひと昔まえのスーパーの折込チラシのように、ごちゃごちゃした見た目のパンフレット。

魚がおいしい観光地の居酒屋でみかけた「築地直送!」と書かれたメニュー。(築地がおいしいのはわかりますが、地のものが、味わいたかった...。)

とても美しい自然の景色が目の前にあるにも関わらず、Instagramに投稿されるのは、いつもゆるキャラの写真ばかり...。(たまにはゆるキャラがあってもいいと思いますが!)

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もったいない・・・!と思わずにはいられない。

地方の観光地へ行くと、そんなクリエイティブやプロダクトに出会うことが数多くあります。もちろん、上記で挙げたものが「悪い」と言いたいわけではありません。色んな地域に観光で携わる者の視点からみると、「もったいない」と思ってしまうのです。

とても良い資源やコンテンツを持っている地域。こだわりのプロダクトを作っている地元企業。もっとちがう編集や表現をするだけで、観光客を呼び込んだり、話題化させたりできるはず。良いものを作りたいという気持ちもある、磨けば光る観光資源がある。

それなのに、イマイチ伝わらない。良さを表現できていない。「もったいない」で、損している地域は、意外に多いのではないでしょうか。


なぜ、観光地で「もったいない」が生まれやすいのか?

それは、【相対評価の欠如】が大きい要因ではないかと、数年間地方の観光に関わる中で気が付きました。

自分たちの地域そのもの、あるいは、表現しているデザインが、プロダクトが、他の地域よりもどう優れている、もしくは、劣っているのか。それらを的確に捉えられていない。

そのため、移住者やU・Iターンの人が多い地域や地方企業では、「もったいない」が生まれている確率が低いのではないかと思います。なぜならば、地域外との相対評価ができる人がいるためです。自分の街は、他の街と比べて何が強みで、何が弱みかを、適切に理解することができている。

逆に言えば、相対評価さえできるようなれば、どんな地域でも、どんな田舎でも、より良いクリエイティブを生み出せる。いきなりそこまで辿り着かなくても、この観光地において、より良いクリエイティブとは何か?を議論したり、判断できるようになると思うのです。

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地域に、"相対評価"を持ち込む。

他の地域や他の場所に比べて、自分たちの地域はどう劣っているのか?または優れているのか?どんな人に好まれているのか?・・・・普段からマーケティングに関わっている人なら、当たり前の考え方かもしれませんが、決して一般常識ではありません。

地元出身でそのままそのエリアに就職、という方も多いですし、観光業に関わる人の中でも特段旅行好きでない、という方もいます。そうなると、その街=その人の世界・価値観、というケースも少なくありません。

もちろん、今の時代、インターネットやSNSで自分から知ろうとすれば、いろんな情報に出会うことができます。しかし、それは日々アンテナを立て、能動的インプットをしないと、入ってこない情報です。

「観光で、他の地域と差別化できるものをつくる」となると、どうしてもテレビのワイドショーの情報だけでは足りません。いま、どんな場所に人が集まっていて、世の中はどういうトレンドで、どういうデザインが好まれているのか。様々な観光地や地域を俯瞰しながら、自分のエリアを正しく相対評価することが求められます。

日々触れている情報のクオリティや粒度を、いかにあげられるか。能動的インプットはもちろんのこと、SNSのタイムラインに流れてくる情報など、受動的インプットの質をあげることも、非常に重要だと思います。

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"相対評価"を根付かせるために、できること。

私は、とにかく「事例を共有する」ことを心がけています。打ち合わせの際には、資料に何十個も、いま人気を集めている、参考になりそうなお店やプロダクトの写真とURLを貼り付けたり、こまめにこんな体験ができました!と旅先で出会ったコンテンツをシェアしたり・・・。

その人たちが直に体験できなくても、私が体験し感動したことを、私が見聞きしていることを、とにかくシェアするようにしています。

特に嬉しかったエピソードがあります。デザインやトンマナを決める会議の際、いつも私はPinterestで何十枚もイメージを集めてその場に持参し、シェアするようにしていました。

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すると、何回目かの打ち合わせから、現地のスタッフのスマホにPinterestのアプリがダウンロードされ、自発的にボードを作り、イメージ集めをするようになっていったのです。すると、チームメンバーの目指す方向性や視点が揃い始め、格段にアウトプットが良くなっていきました。

"もったいない"が起きるのは、情報が足りていなかっただけ、ということに、そこで初めて気づいたんです。

それまで、(私の力不足ではあるのですが。)「こうした方がもっと良くなると思いますよ」、という会話を何度しても、出てきたアウトプットを見ると、クラクラするほどになにも伝わっていない・・・(涙)という事態も起きていたり。一時期、自分に地方の仕事は向いていないのではないか、と悩むことすらありました。

「センスが悪い」のではなく、「センスが足りていない」だけなんだという、(個人的に)大発見・・・!足りていないなら、補えばOKなのだ、と。

いろんな地域に行って、実際に観光客の視点で体験することが一番だとは思います。が、事例だけでも知っていると知らないでは大きな違いです。私は地方の観光地に外部から携わり、伴走していくケースが多いため、その地域の人たちが知らなそうな情報を持っていくことも、自分の役割のひとつだと感じています。

なぜか、意図しないものや、もったいないものが出来上がってしまうという時には。ぜひチームメンバー全員が「適切に、相対評価ができているか?」をすり合わせてみてはいかがでしょう・・・!

地域を、"絶対評価"で愛する。

相対評価と同時に大切なのが、絶対評価です。もしかすると、相対評価以上に大事なことかもしれません。

地域のポジショニングの全体感を相対評価で掴み、絶対評価で、その土地の魅力を、深く深く突き詰めていく。相対評価で終わってしまうと、なんとなく他の地域の模倣で終わってしまったり、既視感のあるクリエイティブが生まれがちだったり。

そんな時には大いに、偏愛を語ることが大切です。ちっぽけでもいいから、その地域の愛せる部分、なんか好きだなぁ、を見つけて、深堀していく。特に、外部から地方に関わる人は、ヨソモノの視点で、そんな価値をたくさん発掘できます。

地元で関わる人も、外部から関わる人も、自分の「好き」を評価基準にして、その土地を絶対的に愛すること。

それが、時には、地域の人を勇気づけたり、地元のまわりの人たちが気づかない魅力を再発見することにつながると思うのです。その先に、もったいない、ではなく、よくぞこれが!という、【その場所にしかないもの】が、生まれるのではないかと考えています。

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"相対評価"を持ち込み、"絶対評価"で愛して、地域のセンスそのものを磨く。

この両方の視点をもち共存させながら、観光コンテンツや観光地のクリエイティブを作っていくことが、非常に重要だとお話ししてきました。

これは、地域が持続して、良いアウトプットを生み出すためにも、必要な要素だと感じています。

地方において、よくある問題が、かっこいいものを作っても、持続しないというケースです。一度は外部の有名なデザイナーやクリエイターが入って、かっこいいイベントをやるけれど、終わってしまったら元どおり。1つの商品だけかっこよくして、それでおしまい。そんな事例をたくさん目にしてきました。

時には、デザインの力やクリエイターの力が必要なのは、間違いありませんし大賛成です。しかし、"地域のセンスそのもの"を磨いていかないことには、本質的な課題解決にはならないと思うのです。

"相対評価"を持ち込み、"絶対評価"で愛する。

一見矛盾しているような2つを、共存させること。冷静に、そして熱く。(やっぱり、最後に愛が勝つと思っています笑)そんな考え方を胸に、自分の関わる地域で「もったいない」を生まないように、頑張って行きたいと思う日々です。

内容まとめ
・観光地の「もったいない」を生まないためには、"相対評価"を持ち込み、"絶対評価"で愛することが、大切なのではないか。
・「センスが悪い」のではなく、「センスが足りていない」だけ。それは、情報の総量を上げることである程度は埋めることができる。そのために事例のシェアをたくさんし合う。
・地域が持続して、良いアウトプットを生み続けるには、外部に頼るだけではなく、"地域のセンスそのもの"を磨いていく必要がある。(※もちろん時には外の力も必要だと思っています)


TwitterやInstagramでも、観光やホテルについて発信しています。


次回予告。

小さな観光論vol.2は、『理想のブランドは、タモリ?』です。お楽しみに〜!笑

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