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古くてあたらしい仕事

嘘をつかない。裏切らない。
ぼくは具体的なだれかを思って、本をつくる。
それしかできない。

島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』新潮社(2019)


島田潤一郎さんの著書『古くてあたらしい仕事』(新潮社)

個展期間中に読了。

電車で読んでいる時、個展の店番中、何度も泣きそうになった。
ずっと言語化できなかったモヤモヤとか違和感を掬い取ってくれた感じ。

今このタイミングで読めてよかったなあ。
きっと今後何度も読み返す本。

世の中には、流通しやすい言葉をつかうことに長けている人たちがいる。
「いいな」と思わせるような言葉や文脈を自由自在につかって、人々の心を瞬時に掴み、社会に影響を与える人たち。
(中略)
より早く。よく広範囲に。よりダイレクトに。

けれど一方で、そういう社会を生きにくいと思っている人たちがいる。彼らはゆっくりと生活をしたいし、自分のペースで物事を考えたいし、仕事はできるだけコツコツとやりたい。それはつまり、ぼくのことだ。ぼくの友人たちのことだ。

彼らに、もっと会議で発言してください、とか、あたらしいイノベーションを起こすための企画を考えてください、とかいう人たちの気が知れない。
彼らには彼らの個性があり、ぼくらにはぼくらの持分がある。
そういうものを低く見積もったり、損なったり、壊したりするような風潮があるのだとすれば、そういう流れに抗う存在として、本はあるし、音楽はあるし、小さな店はある。

大きな声は要らない。感じのいい、流通しやすい言葉も要らない。
それよりも、個人的な声を聴きたい。
だれも「いいね!」を押さないような小さな声を起点に、ぼくは自分の仕事をはじめたい。
(本文より)

島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』新潮社(2019)


人のために、ひいては自分のために誠実であることの美しさと難しさ。
自分が良いと思うもの、信じられるものを信じ続ける尊さ。

読み終えた後、タイトルのひらがな「あたらしい」に込められた希望を深々と感じ取り、また泣きそうになる。

美しい装丁、やさしい手触り


個人的な話にはなるけれど、自分も今回の個展のタイトルの「あした」に希望を込めたので、おこがましくも共通のなにかを持てたようで嬉しかった。

あたらしい、あした。
がんばろう、がんばろう。
信じてコツコツと。


2023年、1発目に読む本がまだ決まってない方、おすすめです。


design: Yoko Ito

小畑円香 写真展
「今日の風、あしたの光」

2023年1月7日(土)〜1月15日(日)
※展示は終了しております。

▶︎個展詳細

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