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ローカル5Gの明日はどっちだ!②|ICTと社会

前回記事では、大手4社が提供するキャリア5Gとは別に、総務省が推進しているローカル5Gの概要について述べた。

先日、雑誌「テレコミュニケーション」などを刊行する株式会社リックテレコム主催の「ローカル5Gサミット2020」に開催され、午前の部のみを聴講してきたので、その内容をご紹介したい。

まずは朝一番で行われた東大大学院の中尾彰宏教授の基調講演。中尾教授は情報通信の分野では有名な先生だ。5G技術を推進する業界団体である第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)のネットワーク委員会委員長も務められている。

ローカル5Gに関する中尾先生の期待や課題認識は、下記の記事でも述べられているので、参照いただきたい。(「カスタムエラーページ」と表示されていますが、businessnetwork.jp のページに飛びます)。

基調講演の内容は上記の記事に被る部分が多く、例えばローカル5Gによって情報通信を民主化したいといった理念は、講演の中でも強く訴えておられた。大手通信キャリアのポリシーに依存することなく、ユーザーが自由にネットワークを構築できるようにすべきだという主張については私も異議は全くない。情報通信のテクノロジーをあらゆる分野に活かす意味で、多くの人々が活用できるよう民主化していくことは、理念として重要だと思う。

講演の中では「Local5G in a Box」といって、基地局からコアシステムまでを1台のPCで実現するパッケージの開発状況についても紹介されていた。上記の記事内で「汎用サーバ上にソフトウェアベースで数百万円くらい」と書かれているが、その試作段階のものということだろう。現在はダウンリンク(下り)でまだ500Mbps程度と、数ギガレベルが求められる5Gの域にはまだ達していないようだが、ローカル5Gの普及にはシステムのコストダウンが鍵であるとの課題認識は、まさにその通りだと言える。

中尾教授は、NTTドコモなどと共同で、広島のカキ養殖にローカル5Gを適用する実証実験に取り組んでおられ、その様子も紹介された。水中ドローンで撮影した養殖カキの映像を5Gで伝送し、遠隔で確認できるようにするものだ。

この記事はドコモのキャリア5Gを使った実験だと思うが、これをローカル5Gでやろうということのようだ。5Gで使われる電波の周波数は、これまでの4G-LTEなどに比べて高い周波数のため、広範に伝搬しにくく、面的なエリア化が難しい。山間部や沿岸地など田舎のほうはキャリア5Gを待っていたのでは、いつまでたってもエリア化されないだろうから、ローカル5Gを活用したいというのは、まさに中尾先生の言う「民主化」の観点ではその通りだろう。

この実証では、上りと下りの帯域比率を変えたローカル5Gシステムの実験もされるようだ。ちょっと専門的になるが、大手通信事業者のキャリア5Gでは、上り:下りの帯域比率は1:4で固定されている。つまり下りが100Mbpsの速度の場合、上りは25Mbpsというイメージだ。これは例えばYouTubeの動画を見る場合、YouTubeに対して再生指示を出す上りの信号に対し、端末側に流れてくる下りの動画データ量のほうが圧倒的に多いため、下りに比重を置いた設計になっている訳である。しかし最近では、例えば動画をSNSにアップロードするなどのように、上りのトラフィックが多いケースも増えてきている。そこでローカル5Gにおいては、この上り:下り比率を変え、上り比率をもっと高くしたいというニーズがあるのだ。これを「非同期」と言う。5GではTDD(時分割多重)方式が採用されており、分割されたタイムスロットに上り/下りの信号をどう当てはめるか、その同期パターンが事業者間で異なる、という意味だ。

ただ、非同期にすると隣接事業者の周波数との間で電波干渉が発生し、通信品質が著しく劣化する恐れがある。キャリア5Gが比率を固定して同期運用しているのは、互いに干渉影響が発生しないようにするためだ。中尾教授とNTTドコモとの共同実験により、非同期での干渉影響はどの程度なのか、問題の無いレベルなのか、実験は今秋から年度内にかけて行われるようなので、その結果は非常に興味深いところだ。

全体として、中尾教授の理念、そして取り組んでおられる方向性はよく理解できる。しかしその取り組みは、私にはまだ「序章」のイメージに思える。ローカル5Gが大きな成果を産む兆しを感じるところにはまだ至っていないように思われたのが正直なところだ。

【つづく】

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