見出し画像

働き方改革と生産性向上をめぐる私のモヤモヤ感②|ICTと社会

前回記事では、「働き方改革」キャンペーンに対する私のモヤモヤ感を吐露した。

さらに私をモヤモヤさせているのは、生産性向上をめぐる議論だ。働き方改革によって労働時間を削減し、生産性を向上させなければならない、という文脈で語られることが多い。

日本の労働生産性(=GDP÷総労働時間)は低く、世界でずっと20位前後。OECD諸国では最下位だということだ。

厚生労働省の統計データによると、1990年に2,000時間を超えていた日本人の労働者1人当たり年間総労働時間は、2019年には1,734時間まで、15%以上も削減している。が、労働生産性の国際順位は変わらない。

◇労働生産性の国際比較 2019https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2019.pdf

具体的にドイツと比較してみたい。個人的な印象として、日本と似て勤勉な国民性。自動車産業などモノづくり大国としても共通している。

ドイツは人口約8,300万人で、日本の約3分の2。就業者人口の比率は、両国とも52%程度とほぼイコールだ。名目GDP(2018年度)は3兆9,480億ドルで、日本(4兆9,710億ドル)の8割ぐらいの規模。失業率は日本2.44%に比べ、ドイツ3.40%。少し日本より高いが米国などに比べればかなりましだ。産業構造的にも、労働集約的と言われる第3次産業の比率が日本70%に対して、ドイツ68%とこれまた同等だ。

ところが、労働者の就業1時間当たりの生産性を比較すると、ドイツが72.9ドルに対し、日本は46.8ドル。実にドイツの労働者は1時間当たり、日本人の1.5倍を超える価値を生み出している、つまり稼いでいるということになっている。ランキングとしてはドイツがOECD諸国で8位、日本は21位だ。

ちなみにドイツの労働者の年間総労働時間は、ちょっと統計時期がずれるが、2016年で1,363時間だそうだ。

これはなかなかショッキングなデータである。

日本人もここ30年で労働時間を15%も削減してきているはずなのに、相対的な比較で言えば、全く改善されていない。

現在の「働き方改革」運動は、残業を減らそう、休みを取ろう的なキャンペーンになっており、ワークライフバランスという意味では全く異論はない。でもそれでドイツに追い付くような生産性の向上ができるのだろうか。

働き方-区切り写真2

日本の生産性が諸外国に比べて低い理由として、日本は成果主義でなく勤務時間により評価される仕組みだからという意見がある。だが感覚的にピンとこない。私の会社では20年近く前からMBO(目標管理制度)を導入している。私も管理職歴は長いため、長年部下の評価を行ってきたが、勤務時間の長短を評価基準にしたことなど一度もない。ただ成果を出している者が結果的に長時間の努力の結果だったことはあるかもしれない。それはいけないことだろうか?時間がかかっても、成果を出したのであれば当然評価すべきだと思うが。

また別の意見として、日本は紙とハンコの文化のための生産性が低いのだという意見もある。これも当社の場合、10年以上前から既に社内の承認や決裁はワークフローにより全て電子化されている。業種によっても差はあるだろうが、そんなものはとっくに導入されているケースも多いのではないだろうか。

当社もIT企業の端くれであり、進んでいるほうの部類ではあるだろうが、市場競争の中で生きる企業にとっては、そんなにのんびりしたやり方がまかり通っているとも思えない。成果主義の導入や紙とハンコの廃止が関係ないとは言わないが、ドイツの生産性に追い付くようなクリティカルな要因とはとても思えない。

これが私のもう一つのモヤモヤ感である。もちろん「働き方改革」の必要性は理解できるし、人口減少局面にあってGDP規模を維持するには当然生産性を向上させなければならないのもその通りだ。だが、労働時間をドイツ並みにまで減らしつつ、商品やサービスの品質は落とさずに、収益は維持または拡大させ、かつ失業率もアップさせない、そんな芸当がどうしたらできるのか、というのが、長年長時間労働に明け暮れてきたおじさんのモヤモヤなのである。

【つづく】

■■

記事は以上です。お読みいただきありがとうございました。

このシリーズは有料マガジン「ICTと社会」にまとめていますので、よろしければご購入下さい。

ここから先は

48字
各記事は全て無料でお読みいただけますが、不定期の投稿となりますので、マガジンをご購入いただけるとまとめ読みすることが可能です。

ICTと社会

100円

インターネットやスマホ、テレワークなど、私たちの生活や仕事に欠かせないツールとなったICT(情報通信技術)。これをどう使いこなし、社会や暮…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?