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ネット社会における「通信の秘密」|ICTと社会

前回記事で、防犯カメラのネットワーク化は、犯罪抑止の観点から認めても問題ないのではないかと書いた。

一方で、例えば警察などであっても通信内容を傍受して利用することは、日本国憲法21条に「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められ、基本的に禁じられている。これは集会・結社の自由や表現の自由などと並び、国家権力が侵してはならない基本的人権の重要な一つである。

この憲法の定めに基づき、電気通信事業法や電波法などによって、通信事業者が利用者の通信内容や通信ログを取得したり保存したりする行為についても、厳しく規制されている。ここで言う「通信の秘密」には、やり取りされる情報の中身のみならず、そもそも通信があったかどうか、通信した人の氏名、時間、場所なども全て含まれる。つまり通信ログそのものが「通信の秘密」である。

ただし、昔の音声電話の時代に比べ、インターネットやSNSが発達した現在、通信をめぐる状況ははるかに複雑になっている。そこで総務省は、「通信の秘密」の侵害に当たるかどうかのガイドラインを設けている。例えば通信の当事者の個別かつ明確な同意がある場合は侵害ではない。スマホのサービスなどで、通信ログや位置情報を利便性向上などに活用するものがある。利用に当たっては、必ず最初に規約に同意するかどうかを聞かれているはずだ。これにより私たちは「通信の秘密」に当たる情報を開示することに同意したことになるわけだ。

また犯罪捜査においては、裁判所の令状により「通信の秘密」の開示や通信の傍受が可能となる。通信の傍受については、99年に「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(通称:通信傍受法)が、憲法違反かどうか、激論の末に制定された。近年では海賊版サイトによる著作権侵害への対策のため、ブロッキング、つまり特定サイトへのアクセス禁止措置を法制化する議論があったが、こちらは激論の末、法制化見送りとなった。悩ましい問題だが、秩序維持を理由に「通信の秘密」を侵害しかねない動きには注意すべきだと思う。防犯カメラとは逆のことを言うようだが、防犯カメラと「通信の秘密」では次元が違うと思う。

先般、SNS上での誹謗中傷によりタレントが自殺したと見られる事件を契機に、SNS投稿者をもっと簡単に特定できるようにすべきといった議論があった。これは「通信の秘密」の開示そのものの話である。インターネット上での誹謗中傷、名誉棄損は深刻な問題だが、だからと言って「通信の秘密」を簡単に明け渡すというのは、私は賛成できない。「通信の秘密」を含む基本的人権は私たちの祖先が長年に渡る戦いの末に勝ち取ったという歴史を踏まえて、議論すべきではないだろうか。

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