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【読了】劉慈欣『白亜紀往事』

恐竜と蟻が築く太古の文明
約200PのSF超スペクタル

 かつて地球の覇者であった恐竜と、高い社会性をもつ昆虫・蟻は、白亜紀時代に共生関係をつくり、高度な文明を築きあげていた。小説『白亜紀往事』は、そんなとんでもない設定で紡がれるSF超スペクタル作品です。著者は アジア人作家として初めてヒューゴー賞を受賞した中国のSF作家・劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)。『白亜紀往事』が日本で出版されたのは2023年ですが、本書は中国で2004年に発行された 劉氏の初期長篇となります。

劉慈欣(著)大森望、古市雅子(訳)『白亜紀往事』早川書房 2023年

 全体は約200ページで、小説としてはほどほどのボリュームです。ですが。恐竜と蟻が協力しはじめた原始から、互いに文明を築きながらその関係性を変えてゆくまでに流れる時間的スケールはあまりに膨大で、まるで神の目でふたつの種族の行く末を眺めているような没入感が味わえました。

極小生物から見る巨大生物
圧倒的スケール感ギャップ

 恐竜と蟻という、サイズも性質も正反対な2種の生物がどのように交わり、ぶつかり合うのか。小さな蟻からみた恐竜の姿に圧倒したり、恐竜からみた蟻の姿に寒気を感じたりと、映り変わるカメラワークのような、映像的な描写が印象的でした。とくに蟻が恐竜の体のなかに入っていくさまは、ほんとうに恐竜の呼気や生臭さが漂ってくるようなリアリティが描写から伝わり、そこから生まれるスケール感のギャップに圧倒されます。

ヒアリの100倍拡大模型
(人と自然史博物館にて2017年撮影)

 サイズ感の異なる2種の生物がそれぞれ同等の文明を築きあげると、どんな世界が生まれるのか。白亜紀にもしかするとほんとうに存在したかもしれない空間に、理系的な好奇心が刺激されました。

異種間の交流や対立を描き
人類史の写し鏡とする傑作

 細かな作業はできないけれど、想像力や好奇心で世界を拓いていく恐竜。細やかな作業が得意で、可能か不可能かで物事を機械的に思考する蟻。サイズが違う分、土地や資源で交流が起き得ないこの2種が、何を理由に協力関係を結び、そして争うのか。異種2種の交流を見届けながら、まるで人類史の写し鏡をみているような気分になります。高度な知性をもつことで招く未来。これはすべての生物に共通するのではないか、と感じました。

 ちなみに、蟻の社会性の高さは巣作りなどでわかりますが、恐竜の知能も実際に高いものだとされています。一部の恐竜は、絶滅せずに生き残っていたら、ヒトと同様の知能をもち、「恐竜人間」が誕生していたかもしれない、とまで言われました。

恐竜人間の模型
(恐竜博での展示。2019年撮影)

 いつか人類が滅んだあと、わたしたちが築いてきた文明と同等、もしくはそれ以上のものを生み出す生物が、地球上に誕生するのでしょう。そのときになったら、「昔は”ニンゲン”なんて生物がいたらしい」なんてウワサされるのでしょうか。

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