新型コロナウイルスとメンタルヘルスの危機
近年最大のメンタルヘルスの危機ーアメリカ心理学会のセッションから
covid-19の影響により、アメリカ心理学会(APA)が今年はオンライン開催となった。アメリカ心理学会は、世界的にも多くの影響力を持つ心理学の学会の一つである。
私は、このオンライン開催されたアメリカ心理学会に(一応)参加した。リアル感がない学会というのはなんとも、不思議な感覚である。
それでも、非常にためになったと思うし、とても印象に残ったものが多くあった。
"The Psychological Toll of COVID-19"(covid-19の心理的犠牲)という最初のセッションで、以下のような言及がされていた。
・10人のうち7人のアメリカ人が、政府のコロナウイルス対応にストレスを感じている。
・10人のうち7人のアメリカ人がコロナウイルスによる経済的影響にストレスを感じている。
・71%の親が、子どもの発達に影響が出ることを懸念している。
・スタンフォード大学のJohannes Eichstaedtは、「covid-19は近年で最も大きなメンタルヘルスへの影響がある出来事ではないか」と指摘。(データ上ではリーマンショック越え)
・影響を大きく受けている人は、「女性」「若年層」「貧困層」「マイノリティ」と同氏は指摘。皮肉にも、感染した場合、ハイリスクな高齢者よりも、若い世代のほうがメンタルヘルスへの影響を受けている。
そして、同セッションは、以下のようなメッセージで締めくくられている。
「あらゆる健康やウェルビーイングに、covid-19に関連する問題は侵襲している。心理学こそが、この鍵を握っている」
アメリカを取り巻く報道は、このところ中国に対する過激な姿勢や、Black Lives Matterなど、社会の分断を感じさせる報道が相次いでいるように感じられる。
この危機に、メンタルヘルスの専門家たちが科学やエビデンスとともに立ち向かっていこうとする強い意思を感じられるセッションであった。
日本におけるメンタルヘルス対策
さて、日本におけるcovid-19とメンタルヘルスの対策については、どうなっているだろうか。現在、医学系の学会が連名で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流⾏下におけるメンタルヘルス対策指針」というペーパーを発表している。
このペーパーは非常にわかりやすく、簡潔にまとまっているものなので、是非読んでほしいと思えるものだ。
地域社会が現在直⾯しているメンタルヘルスの問題は極めて深刻であり、その対策は喫緊に取り組むべき課題となっている 。世界各国でも、不安、抑うつ、ストレス関連症状、不眠、⾃傷、⾃殺企図等メンタルヘルスへの影響が多数報告されており、⻑期的には⼼的外傷後ストレス障害、うつ病、不安症の発症、⾃殺の増加、既存の精神疾患の 悪化等が懸念されている。
(本文より)
日本は自殺率が極めて高い国であり、若年層の死因で最も高いのが自殺であるという統計も出ている。もともとこうした問題があったこの国で、covid-19がさらなる引き金を引いてしまうことを私は強く懸念している。
今、社会では不安が伝番している。そして人は、感染症だけで死ぬわけではない。
コロナ禍で感染症の対策ももちろん社会として大事だろう。しかし、すぐには影響しなくても、メンタルヘルスの問題はわたしたちをゆっくりと蝕んでいく。
しかし、メンタルヘルスの問題が副次的に発生していることを、私たちは強く認識しなければならないはずだ。
個人として、会社として、できることをこれからも模索していきたいと強く思います。
<筆者紹介>
けんけん
金子書房 代表取締役/常務執行役員。
早稲田大学政治経済学部を卒業後、自動車メーカー本社の経営企画本部でファイナンス職に従事。2017年、金子書房に入社し、2019年10月より現職。
詳しくは下記記事をご参照ください。
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