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Jocelyn DeBoer, Dawn Luebbe『Greener Grass』これがホントの"インスタ映え"人生

デジタルカメラの色彩調整をミスったかのような鮮やかさと淡さが共存するような色味が強烈すぎて、これぞ"観るドラッグなのかもしれない"とさえ思ってしまうほど暴力的だ。奇妙な電子音楽とともに頭が痛くなってくるが、段々癖になってくるのは否定できない。映像の"のほほん"とした雰囲気は、前世紀的な"理想的な中産階級"像を完璧に再現した絶妙な古めかしさがあるものの、インスタ映えを狙ったかのような色彩や展開されるシュールな小ボケの連続は疑うまでもなく現代のものであり、時代に取り残されたまま現代に蘇ったかのような断絶の上にはしっかりと現代への橋渡しがされている。このヴィヴィッドで冷笑的な薄気味悪いブラックコメディの中心にあるのは、インスタグラムの中に渦巻く虚栄とマウントの地獄を完璧に再現することだ。そして、そのメタファーは恐ろしいまでに爽快で不気味だ。

夫婦で同じ色のコーデを貫き、口だけが笑って歯の矯正器具を見せつける彼らの生活は、郊外に暮らす中産階級の絶え間ないマウント戦争と謙虚アピール合戦をグロテスクに展開し続け、アレックス・ロス・ペリーやトッド・ソロンズとも違う神経逆撫で系の気持ち悪さがある。全員が歯の矯正器具を装着してキスを見せつけ合うシーンを観てしまえば、そのグロテスクさも理解できることだろう。更には謙虚合戦の一環なのか、この街で暮らす人々はゴルフカートを乗用車として使用し、十字路で出会えば道を譲り合い過ぎて誰も動けない。そして、極めつけは"その赤ちゃん可愛いわねー"と言われ、その赤ちゃんを他人にあげてしまうのだ。ジルはそれ以降、あげてしまった赤ちゃんについて考え続けることになる。

一番のメタファーは子供たちだろう。ジルのもう一人の息子ジュリアンは明らかにインドア派なのにサッカーやら空手やらピアノやらと習い事ばかりやらされて、終いには父親とキャッチボールまで強要される。親に反抗していた彼も反抗を止めてしまい、文字通り犬になってしまう。意思疎通は出来ないが、足も速くなってキャッチボールにも快く応じる息子犬を何の疑いもなく受け入れる。ジルから赤ちゃんを貰ったリサも、最近離婚したキム=アンも、子供たちを道具のように扱い、まるで存在していないかのように、同時に気にかけすぎている節があり、彼らの会話は不穏で奇怪だ。彼らは代理ミュンヒハウゼン症候群患者のように、子供たちの完璧な保護者を演じながら、その枠組だけで完結させようとしているのだ。だからこそ、"子供"という存在を求めるパラノイアを描きながら、その教育課程には全く触れない。

皆が皆の前で"良い人"を演じ、他人との繋がりを求めすぎるあまり極端な利他主義に走り、水面下ではその全てを使ってマウント合戦を繰り広げている。フォロワーが隣にいるせいで"インスタ映え"人生を四六時中送らねばならない人間を延々と映し続けている。胃もたれがするほど狂気的で、大笑いできるほどブラック、好ましいパラノイア映画だ。

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作品データ

原題:Greener Grass
上映時間:95分
監督:Jocelyn DeBoer、Dawn Luebbe
公開:2019年10月18日

・評価:80点

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