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トッド・ヘインズ『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』ちょっと薄めた"エリン・ブロコビッチ"

マーク・ラファロの増量演技もアカデミー賞からカン無視されてしまったトッド・ヘインズの最新作。化学企業の廃棄物汚染についての訴訟とくれば『エリン・ブロコビッチ』なわけだが、久しぶりに緑になって暴れないマーク・ラファロを見ると『スポットライト』の方を先に思い出してしまう。陽に焼けた写真のような色彩はどこかリック・アルヴァーソン『The Mountain』を思わせる。そして、大企業の大嘘と不正に対して孤独な戦いを繰り広げるラファロ演じるビロットは、実に現代的な文脈に即している。"真実を守るために戦え"と。

ロバート・ビロットは企業のお抱え弁護士として事務所に勤めていた。そこへお得意先のデュポン社を相手取った訴訟の証拠を持ち込まれて困惑するが、デュポン社の怪しい対応を見て思い直す。ここから始まる泥臭い訴訟劇に『エリン・ブロコビッチ』が持っていたエンタメ性は皆無で、陰惨かつ息苦しい時間だけが無限に過ぎていくだけだ。そして、間接的な描写ばかりで大企業の大きな陰だけを見ていることの方が多い映画は、巨悪に押しつぶされそうになりながら既のところで踏みとどまる一人の男の肖像の方に踏み込み始める。ブラインドや積み上げられた箱の間から覗き見るかのようなショットを多用し、その孤立無援な戦いと訴訟への入れ込みを可視化する。

本作品のもう一人の主人公はロバートを無言で支え続けた妻サラと言えるだろう。ロバートがストレスで倒れた時、彼の上司に食って掛かるサラの姿には本当の強さを垣間見た気がした。

本作品はフランソワ・オゾン『By the Grace of God』と同じく、現在進行系の訴訟が扱われている。登場するエキストラとして当事者たちがそれに相当する役を演じているのだ。そういう点でも、過去のものとして終わらせない決意は感じることができる。

・作品データ

原題:Dark Waters
上映時間:126分
監督:Todd Haynes
公開:2019年12月6日(アメリカ)

・評価:70点

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