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フィリップ・グランドリュー『Sombre』役に立たない死亡フラグ

『ありふれた事件』『バニシング/消失』『ヘンリー』『アングスト』『ヒッチャー』に『クリーン、シェーブン』ときて、そろそろ殺人鬼系カルト映画も終わりかなと思った矢先、本作品を思い出した。なのでそろそろ日本でも公開されるんじゃないすか(知らんけど)。本作品は『ヘンリー』のヘンリー・リー・ルーカスよりも寡黙に売春婦を殺しまくる殺人鬼を描いた作品だが、意外にも映画館で映画を観ながら叫んだりツッコんだりする子供たちの映像から始まる。ハッピーセットの伝説のCM"ああああああ喋ったあああああ"を思い出すほど、子供たちの目が笑ってないので多分演技。その後の寡黙な殺人旅行は、どアップ&ピンぼけ&真っ暗ということで、基本的には叫び声で何が起こったか判定するしかないが、助手席に座っていた女性が次のカットで草原に横たわっているみたいな異常さだけは理解できる。男は当て所ない旅の道すがら、立ち往生していたクレールを助けて、彼女の奔放な妹などと親しくなる。彼女たちと交流しながらも別の娼婦を殺そうと近付いているが、ここらへんから彼の行動原理が見え隠れし始める。というのも、彼の行動は衝動的で、欲望に忠実な動物のような身軽さで動き続けているのだ。なぜ逮捕されないか不思議なくらい詰めが甘いのも、近視眼的な揺れ動く映像も、所謂"動物性"の産物に見えてくる。

そんな彼に殺されそうになりながら何度も生き延びる女性がクレールである。大雨の日に田舎の誰もいない道で一人立ち往生していた出会いから死亡フラグしか立ってないし、なんなら殺害未遂現場を何回も見ていたり、自分も殺されかけそうになったりしているが、その度に決して折れないだろう死亡フラグを完膚なきまでにへし折っていくのが凄い。しかも、へし折るどころか孤独さから少しずつ共鳴していくに至る。彼を理解できるのは私だけなのよ的な感じなのかもしれない。最初に殺人未遂を目撃したシーンで、暗闇からヌッと現れるとこが忘れがたい。"動物"に対するある種の神々しさをまとった人物であることが、あのシーンだけで容易に分かる。

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・作品データ

原題:Sombre
上映時間:112分
監督:Philippe Grandrieux
製作:1998年(フランス)

・評価:80点

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