見出し画像

レオニー・クリッペンドルフ『コクーン』羽ばたけ私の未来!

父親がおらず、母親も基本的に不在な中、中学生のノラは高校生の姉ユーレとその仲間たちとつるんでいる。姉妹の仲は悪くないのだが、姉の仲間たちは身体はデカイし、所謂"部活"的な集団意識と凶暴性があって全く肌に合わない。彼女たちの関係性は冒頭のトランプお仕置きゲームで簡潔に導入される。上級生たちに混じって参加させられたノラは、ゲームに乗り気ではないまま相手に指を折られてしまい、姉を含めた女性陣はノラを庇って病院へ連れて行く。居心地はそこまで良くもないが、付いて行きたくないレベルでもなく、このクソ暑い夏の日々に自室に引きこもる以外選択肢がないならつるんでいても問題ない。それくらいの距離感。そして、指が折れてしまったノラは、林間学校に行けず、そのまま姉のクラスに編入することになる(なんたる暴挙…)。

個人的に衝撃だったのは、レナの初めての生理だ。勝手なイメージで、ドイツは少なくとも日本より性教育が進んでいるだろうと思っていたのだが、生徒は男女問わず遠巻きに眺めながらクスクス笑っているし、教師もレナの手助けをしないのだ。追い詰められた彼女は一人トイレでパニックになっていたところ、ロミーという転校生(年齢的には恐らくユーレと同い年)に助けてもらう。そして、これまで付き合ってきた姉たちのグループとは全く違う雰囲気のロミーに惹かれていく。

原題の"コクーン"は、直接的にはレナの飼っている毛虫を指している。時々、思い出したかのように登場する毛虫は、大人への階段に半歩踏み出したレナの状態を暗示しているかのようだ。レナはユーレたちが執着する男女恋愛に興味が持てないことを、教師に言われた通り一時的なことなのか、それとも自身がレズビアンなのか、或いはそうやって自身の中で未分化の概念に相当する今の感情や状態を既存の概念に当てはめたくないのか、逡巡しながらも目の前の恋に飛び込んでいく。

興味深いのは子育ての授業があって、そこで希望者が赤ちゃんロボットの面倒を見て育児を体験するというプログラムがあって、ユーレはそれに応募することだろう。赤ちゃんの前に彼氏でしょ~などと言われながら、ユーレは直向きに赤ちゃんロボの世話をするのだが、それが"孫が出来たら飲んだくれの母親も家に帰ってきてくれるかな?"という淡い期待から派生したシミュレーションだったことが明かされるのだ。レナを中心に語られてきた物語に、唐突にユーレが乱入する瞬間で、姉妹がこれまで生きてきた時間がここに圧縮されているような気がした。

レナを演じるレナ・ウルツェンドウスキはローラ・ペティクリューに似ているのだが、レナが途中で『Dating Amber』のアンバー(ローラが演じている!)と全く同じ髪色にするシーンがあって感動した。

画像1

・作品データ

原題:Kokon / Cocoon
上映時間:95分
監督:Leonie Krippendorff
製作:2020年(ドイツ)

・評価:70点

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!