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Bob Byington『Frances Ferguson』人間はそんな簡単に変われない

実に奇妙な映画だ。超に超が付くほど低予算映画を撮ることで有名な…というか最早有名なのかも分からないが、インディーズで映画を作り続けているボブ・バイイントンの最新作。誰もが互いを知っているような田舎町で暮らす若い女性フランシス・ファーガソンの奇妙で気まぐれな人生を流されるままに綴ったシニカルなブラックコメディ。そして、常に呆れ顔で無言を貫き通すフランを優しく見守る"親戚のおじさん"のようなナレーションが状況や心情のドライなウィットに富む説明を挟み、味も音も色すらないようなフランの人生をコミカルに、そして時に辛辣に彩っていく。ナレーションを担当するのはバイイントン作品には欠かせないニック・オファーマンで、本作品のプロデューサーも務めている。

フランは臨時講師をしている先で出会った生徒に手を出そうとしたことで速攻刑務所入りを果たすのだが、この中々ハードな経験が彼女を変えることなどない。本作品の序盤のハイライトはなんと言っても裁判所から刑務所までの一連のシーンだろう。全く反省の色のない(そもそもなんで罪に問われているかもそこまで理解してなさそう)フランのぶっきらぼうな顔に見事なブロンド、場違いなまでに真っ青なスーツ、この三点をいろいろな角度から眺めるシーンに、不自然に明るいゲームサウンドのような劇伴と柔らかいナレーションが重なる。生徒に会うシーンではガラじゃないのにチアリーダーの服を着て行って、生徒を待っていたモーテルでは真紅のネグリジェを着ていたので、それに続く青いスーツというセンスの悪さというか、良くないハッスルが間違った方向に行ってしまったような居心地の悪さが完璧に機能している。そして、味気ない裁判所を背景に派手すぎるフランが映える。まるで彼女の人生を圧縮したような映像だ。

常にドライで厭世的なフランの周りには傍若無人な母親、とてもアホでイライラさせる夫、急に手のひらを返す生徒たち、ストレート過ぎる発言で困惑を誘う刑事たち、気恥ずかしい質問を繰り返すセラピストなどズレまくったクセ強めなキャラが多数登場する。しかし、ほとんど登場しない娘を除いてフランの人生を楽しいものに変えられた人間は誰一人としていなかった。彼女はナレーションにも口を挟むので、半分神のような視点を持つ語り部にすらその資格はなかった。あっという間に収監されたフランは、自分の人生をつまらないものにしてきた夫や母親、そして代理講師という職業とも断絶されることで新たな道を歩み始めたかと思いきや、この全く危険でない"性犯罪者"はより凶悪な犯罪者のために作られた規則に絡め取られるように、収監前と同じくどうでもいい第二の人生の消費が始まってしまう。意味不明なセラピーに数多く通い、自分のことすらどうでもいいのに更にどうでもいい他人の話に耳を傾け、無難な説教を受け続け、孤独な人生はハードモードになって二周目を迎えたのだ。

本作品をシニカルとコミカルの狭間に置いたのはフランを演じるKaley Whelessに依る部分が大きい。本編の中では一度も笑うことなく、呆れ顔以上真顔以下の微妙な表情を浮かべた顔で周りの人間との接触を極端に拒むフランを見事に表現したからだ。間の抜けたゲームサウンドのような劇伴、急ぎ足で入れ替わる展開、半全能の優しいナレーションにクセだらけの人物たちに囲まれたフランの人生は、最後を以てしても変わったとは言い難いが、ナレーターは彼女をも優しく退場させ、フランの人生のような虚無が残り続けた。

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・作品データ

原題:Frances Ferguson
上映時間:74分
監督:Bob Byington
公開:2019年3月10日(アメリカ)

・評価:90点

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