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Erik Balling『Qivitoq』遥かなるグリーンランドの大地で

グリーンランドでオールロケを敢行し、グリーンランド語の会話が登場する、というその手の映画が好きな人には堪らない一作。30年以上続いたコメディシリーズ"オルセン・ギャング"の生みの親として知られる Erik Balling が監督を務める。主人公エヴァは婚約者エリクを驚かせようと赴任先のグリーンランドまでやって来たが、別れの手紙と行き違いになり、助手の看護師と結婚しようとしていると知って落胆する。早速帰ろうとするもデンマークとの定期船はすぐには来ないため、次の船を待つまでの間近くにあった小さな漁村で泊まることにした。そこには貿易会社の前哨基地を管理する物静かなデンマーク人イェンスがいた。という、パウエル=プレスバーガー『渦巻』みたいな展開を迎える。『渦巻』と大きく異なるのはグリーンランドの雄大な自然をイーストマンカラーで味わえるという点にある。パウエル=プレスバーガーならテクニカラーになっただろう。優しい色彩ながら、エヴァの持っている鮮やかな色のコートが大自然に美しく映えている。

題名"Qivitoq"はグリーンランドで恐れられている邪悪な精霊の名前であり、それも象徴する通りグリーンランドに暮らす人々の生活風景を垣間見ることができる。しかし、視点は白人にあり、そこには無数の対比が隠されている。エヴァとイェンスのロマンスの横では、漁師パヴィアとイェンス宅でメイドとして働くナヤという現地人どうしのロマンスがあり、前者が後者を無意識のうちに破壊しかけるという構図が中々興味深い。そういう意図があったかは分からないが、二人の白人は現地の文化を彼らなりの尺度で尊重し寄り添っているのを考えると、別の意味も邪推してしまう。また、イェンスは優秀な漁師であるパヴィアを雇おうとして彼に最新式の小型ヨットを買い与えるが、伝統的な生活や様式を捨てたくないパヴィアは複雑な思いを抱えている。このように様々な形で意識的/無意識的な対比が繰り返される。

大人たちがお祭りで踊り騒ぐ中で、少し離れた場所ですっ転んだ少年に犬ぞり用の犬が群がってくるシーンが普通にホラー。ラストの雪原の追いかけっこも中々良い。あの深さのクレバスに落ちたら普通は死ぬ。

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・作品データ

原題:Qivitoq - fjeldgængeren
上映時間:119分
監督:Erik Balling
製作:1956年(デンマーク, グリーンランド)

・評価:70点

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