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Uldis Brauns『Motorcycle Summer』ラトビア、ある青年と花嫁の逃避行

大傑作。ラトビア映画鑑賞会企画。ラトビアのドキュメンタリー映画界の巨匠ウルディス・ブラウンス(Uldis Brauns)が手掛けた唯一のフィクション映画。なんでも、フィクション映画にはドキュメンタリー映画作家が提供できる"真正性の感覚"が欠けている!として製作を開始し、有名なドキュメンタリー映画作家/DoPのIvars SeleckisとKalvis Zalcmanisを招聘して、素人俳優たちが一度目の撮影で見せる新鮮な即興性を映像に刻み込んだ、ということらしい。確かに途中でイネセがふと見せる表情とかは、オフショットをそのまま載せたような自然体で、そういうのが"ドキュメンタリー映画作家の提供できる真正性"なのかもしれないと思うなどした。主人公は18歳になったばかりの青年マリス。パーティを抜け出し、貰ったバイクに乗って仲間たちと走りに出かける。そこで一行は偶然にも、望まぬ結婚を強要される少女イネセの"護送"を頼まれ、ひょんなことからマリスはイネセと共にその場から離れ逃避行を開始する(ちなみに、イネセを演じるイネセ・ヤンソンは当時15歳の高校生だった)。本作品では、まるでバフティヤル・フドイナザーロフの作品でも観ているかのような車とバイクの並走シーンから(終盤でロープウェイまで登場して歓喜、しかもヘルメットを投げ捨てるというレイヤー横断までやってくれる)、上記の即興性溢れるシーン、純白のドレスを着たイネセを後ろに乗せて山の斜面を下る幻想的なシーン、互いに名前すら知らない状況下で互いに少しだけ心を開く緊張感溢れるシーンに至るまで多種多様に驚かせてくれる。イネセはマリスに"100頭の白馬を見たら結婚が上手くいく"みたいな伝承を語るが、冒頭で右往左往する白馬とバイクがオーバーラップで重ねられているので、この伝承がラストのイネセの行動を補強するように見えて、実は彼女自身もマリスが条件を満たしているかもしれないと気付いていなかったのではないかと言及しているようにも見えてくる。イネセはずっとシックなウェディングドレスを着ているので、山小屋とか洞窟とか川とか明らかに場違いな風景に紛れ込むことになるわけだが、意識的にその白色を映えさせているのが上手い。特に気に入ったのは序盤で木に引っ掛かったベールを全員で見上げているシーン。彼女はその場で一人だけ異質だが、それが見事に視覚化されている。

・作品データ

原題:Motociklu vasara
上映時間:70分
監督:Uldis Brauns
製作:1975年(ラトビア)

・評価:90点

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